萌芽研究
HiL環境下での仮想同期発電機の熱劣化評価モデルの開発
2026年6月掲載
| 研究者 | 福井大学 重信 颯人 講師 |
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※本HPでの当該情報の公開についてご了承をいただいている題目のみ掲載しています
VSG制御が電力系統の周波数安定性とIGBT寿命に与える影響を評価し、半導体寿命の低下を緩和できる可能性を提示しました。
違和感からの出発
Q.「パワーアカデミー研究助成」に応募したきっかけをお教え下さい。
「パワーアカデミー研究助成」に応募したきっかけは、日々の研究を進める中で感じていた、現在の研究環境に対する一つの違和感でした。
近年の大学における研究活動では、外部資金の獲得や成果の明確化が強く求められています。科研費をはじめとする競争的研究費は、研究を支えるうえで非常に重要な制度である一方で、研究者や大学にとっては、応募・採択の実績そのものが評価の対象となる側面もあります。その結果、研究の出発点が「本当に知りたいこと」や「確かめてみたい疑問・違和感」からではなく、「あらかじめ説明可能な計画」や「評価されやすい成果」から逆算されてしまう場面があるのではないか、と感じていました。
もちろん、研究費を申請する以上、計画性や説明責任が必要であることは当然です。しかし、実際の研究では、最初から明確な成果や方法が見えているものばかりではありません。むしろ、まだ十分に言語化できない疑問や、既存の枠組みではうまく説明できない小さな違和感の中にこそ、新しい研究の芽が含まれている場合があると考えています。
そのような問題意識を持っていたときに、パワーアカデミー研究助成の存在を知りました。本助成は、電気工学・電力工学に関する研究の芽を育てる制度であり、必ずしも最初から大きな研究計画として完成していない着想であっても、研究者自身の問題意識や探究心を出発点として挑戦できる余地があるように感じました。
私にとって本助成は、すでに固まった研究計画を遂行するための資金というよりも、自分の中に生まれた疑問や直感を、研究として一歩前に進めるための機会でした。その意味で、現在の研究環境の中で見失いがちな、研究本来の出発点に立ち返ることができる助成であると感じ、応募いたしました。
電力変換器の長寿命化
Q.ご研究内容をお教え下さい。
本研究は、再生可能エネルギーやインバータ電源が大量に導入される社会において、電力系統の安定性を維持しながら、電力変換器の長寿命化を実現するための研究です。
近年、太陽光発電や蓄電池などの導入拡大により、電力システムの中でインバータを介して接続される電源が増えています。これにより、従来の同期発電機が自然に持っていた「慣性」が低下し、事故や急な需給変動が発生した際に、系統周波数が大きく変動しやすくなることが課題となっています。
この課題に対する有力な解決策の一つが、インバータを同期発電機のように振る舞わせる「仮想同期発電機(Virtual Synchronous Generator: VSG)制御」です。VSG制御を用いることで、インバータ電源から電力系統へ仮想的な慣性を与え、周波数変動を抑制できる可能性があります。
一方で、VSG制御によってインバータが系統安定化に積極的に寄与するほど、インバータ内部のパワー半導体素子には大きな電力変動が加わります。その結果、IGBTなどの半導体素子の温度変動や熱ストレスが増加し、装置寿命が短くなる可能性があります。すなわち、電力系統の安定性を高めることと、インバータ機器を長く安全に使うことの間には、トレードオフが存在します。
そこで本研究では、VSG制御が電力系統の周波数安定性とIGBT寿命に与える影響を評価するとともに、インバータの回路トポロジーに着目しました。具体的には、従来の二レベルインバータに加えて、三レベルインバータを対象とし、回路構成の違いが半導体素子の寿命劣化をどの程度緩和できるかを検討しました。
研究の結果、VSGの慣性を大きくすると系統周波数の安定性は向上する一方で、パワー半導体素子の寿命低下が生じることが確認されました。また、三レベルインバータを用いることで、VSG制御による半導体寿命の低下を緩和できる可能性が数値計算により示されました。
本研究の社会的貢献は、再生可能エネルギーを大量に導入した将来の電力システムにおいて、「安定的に電気を届けること」と「電力変換器を長く信頼性高く使うこと」を両立するための設計指針を示す点にあります。今後、インバータ電源が主役となる電力システムでは、制御性能だけでなく、装置寿命や保守性まで含めた設計が重要になります。本研究は、そのような次世代電力システムの実現に向けた基礎的知見を提供するものです。

AI、CAD、HiLを組み合わせる
Q.現在までの研究成果と今後の展開についてお教えください。
本助成による研究成果は、電気学会論文誌Bにおいて論文として公表することができました。詳細は上述のコメントと論文を参照いただけますと幸いです。
本研究を進める過程で、Hardware-in-the-Loop(HiL)環境を用いることで、数百規模の試験条件を自動的に実行・評価できる可能性が見えてきました。回路構成や制御パラメータを変えながら、多数の条件を系統的に比較できることは、電力変換器の設計・評価を大きく効率化する可能性があります。付随的に得られた知見として、HiL試験の自動化とAIを組み合わせることで、電力変換器の設計プロセスそのものを拡張できる可能性も見えてきました。
現在、生成AIは文章や画像だけでなく、プログラム、数式、図面、3Dモデルの生成にも応用され始めています。今後、AIが回路トポロジー、2Dレイアウト、3D構造、さらにはCADデータまで扱えるようになれば、従来は熟練者の経験に依存していた回路設計、回路計算、制御設計、シミュレーション、HiL評価までを、一連の設計探索プロセスとして自動化できる可能性があります。
特に電力変換器の設計では、回路トポロジー、半導体素子の選定、熱設計、制御パラメータ、実装構造が相互に影響します。そのため、人手だけで広大な設計空間を探索することには限界があります。AIによる候補生成と、HiLによる高速な自動評価を組み合わせることで、多数の設計案を比較し、系統安定性、変換効率、熱ストレス、寿命、実装可能性を総合的に評価する新しい設計手法につながると考えています。
現時点では、本研究を直接的に大きく展開する計画が明確に定まっているわけではありませんが、本助成を通じて得られた「制御性能と装置寿命を同時に評価する」という視点は、今後のAI支援型の電力変換器設計にも発展し得るものだと考えています。今後は、論文として得られた成果を基盤としつつ、AI、CAD、HiLを組み合わせた設計・評価の自動化にも関心を広げていきたいと考えています。
ピュアな探究心に立ち返る
Q.最後にひとことお願いします。
アイデアの大きさや金額の多寡は、本質的な問題ではないと思っています。
純粋に、自分の中に生まれた疑問や直感を信じて取り組みたいと思うとき、成果や実用性を強く求められる昨今の研究環境では、どうしても息苦しさを感じる場面があります。
そのような中で、この助成は、私にとって「研究者として」という以前に、一人の人間として、知への探究に対するピュアな気持ちを思い出させてくれるものでした。自分の疑問を大切にしてよいのだと感じられたことは、大きな励ましであり、救われるような経験でもありました。
学生であっても、職業研究者であっても、知りたい、試したい、確かめたいという気持ちは、研究の原点にあるものだと思います。この助成には、そうした知的探究者としての感覚を、もう一度思い出させてくれる力があるのではないかと感じています。実際に私自身も、この経験の後に取り組む研究の多くが、以前よりも「楽しく」、そして自分の中に自然と「馴染む」ものになったように思います。
また、疑問や直感を信じて動き出す段階では、何が必要になるのか、どのような物品が要るのか、どのような計画として形にできるのかが、最初から明確に定まっていないこともあります。むしろ、探究の初期には、その曖昧さや未確定さこそが重要である場合も少なくありません。
その意味で、用途や思考を過度に限定しすぎず、試行錯誤を許容してくれる柔軟性のある助成は、多くの人にとって大きな助けになると思います。知的好奇心から生まれる小さな違和感や直感を、安心して育てられる場があることは、研究を続けるうえで非常に貴重だと感じています。
電気工学を志す後輩の皆さんや、電気工学との分野横断的な研究を検討されている方には、自分の中に生まれた小さな疑問や違和感を、どうか大切にしてほしいと思います。最初は曖昧で、すぐに成果につながるか分からない問いであっても、それを丁寧に育てていくことが、研究の大切な出発点になると感じています。
私自身も、本助成を通じて、自分の疑問を信じて研究に向き合うことの大切さを改めて実感しました。この経験を今後の研究活動の中でも大切にし、電力システムや電力変換器に関する研究を、社会の変化や新しい技術と結び付けながら発展させていきたいと考えています。
最後になりますが、このような貴重な機会を与えてくださったパワーアカデミーの皆様、ならびに本助成に携わってくださったすべての関係者の皆様に、心より御礼申し上げます。本助成は、研究成果だけでなく、研究に向き合う姿勢そのものを見つめ直す大変貴重な機会となりました。







