第1回 超電導と浮遊術
ハリーポッターの空飛ぶホウキと超電導体
『超電導磁石』
さて、超電導の応用により実用化が期待されている未来の高速鉄道があります。車体を磁気的に浮かせることにより、時速500kmもの高速走行を可能にする「超電導磁気浮上式リニアモーターカー」です。
超電導磁石 このリニアモーターカーはマイスナー効果ではなく、超電導磁石による強い磁場を使用して車体を宙に浮かせています。超電導磁石とは文字通り超電導体を使用した磁石のこと。冷却して超電導状態にしたコイル(超電導コイル)に電流を流すことにより、強い磁場がつくりだせます。前述したように超電導体は電気抵抗がゼロなので、大電流を流してもエネルギーロスがなく、きわめて強力な電磁石にすることができるのです。 リニアモーターカーの車両の左右には複数の超電導磁石が取り付けられ、走行路(ガイドウェイ)の両壁には「推進コイル」と「浮上案内コイル」とが設置されています。超電導磁石と推進コイルが発生する磁場との相互作用により走行が始まると、超電導磁石の強い磁場と浮上案内コイルとの間には、大きな吸引力(N極とS極の引き合う力)と反発力(N極どうし・S極どうしの押し合う力)が生まれて磁気浮上します。こうして車両は宙に浮いたまま時速500kmものスピードを達成します。
超電導を利用した"浮遊術"は、ハリー・ポッターの魔法のホウキとまではいきませんが、東京・大阪間を1時間で結ぶ夢のリニアモーターカーを実現します。超電導の応用範囲は広く、私達の生活を大きく変えるかぎりない可能性を秘めています。そのうち室温でもマイスナー効果を示して宙に浮く超電導体も発見されるかもしれません。まさしく超電導体は現代工学の"賢者の石"ともいうべき魔法のような物質なのです。
『超電導の応用』
『マイスナー効果』
出展:下山 淳一『トコトンやさしい超伝導の本』(日刊工業新聞社、2003年)