関西電力「蹴上発電所」を訪問しました

2018年8月31日掲載

2018年6月、パワーアカデミー事務局は、京都市左京区にある関西電力・蹴上(けあげ)発電所を訪問しました。蹴上発電所は、日本ではじめての事業用水力発電所として京都の近代化に大きく貢献、現在でも現役の発電所として稼働しています。その歴史的な業績に対して、2016年には米電気電子学会(IEEE)から「IEEEマイルストーン」の認定を受けました。今年3月からは一般公開がはじまり、日本中から多くの人々が訪れています。今、京都で大きな注目を集める蹴上発電所の意義や歴史、特徴などをご紹介します。

疲弊した京都を救うために、琵琶湖疏水の水を利用した水力発電所

有名な南禅寺にある水路閣は1888年、琵琶湖疏水分線に水を通すためにつくられました。ちなみに哲学の道は、琵琶湖疏水分線沿いにある歩道です。

銀閣寺、平安神宮、南禅寺、下鴨神社、哲学の道...など、京都の有名な観光名所が数多く並ぶ京都市左京区にある、蹴上発電所。普通、水力発電所というと山奥にあると思い浮かべますが、蹴上発電所はまさしく京都の街中にあります。なぜ、こんなことが可能なのでしょうか?

それは、琵琶湖疏水(びわこそすい※1)の水を利用した水力発電所だからです。琵琶湖疏水とは、琵琶湖の水を京都市へ流すため、灌漑(かんがい)・給水・舟運・発電などのために切り開いた水路のことです。明治2年に東京遷都が行われて以降、京都は疲弊しており、復興のため明治23年につくられたのが琵琶湖疏水(第1疏水)です。蹴上発電所は、琵琶湖疏水で得られる水力の有効活用を目的に建設され、明治24年(1891年)に発電機2台、出力160kWで運転を開始しました。

(※1)疏水を利用した水力発電所は少なく、蹴上発電所以外だと、福島県の猪苗代湖の安積(あさか)疏水を利用した沼上発電所などが挙げられます。琵琶湖疏水は、安積疏水をモデルにつくられました。

~第1期~ 京都の街の発展のために、日本初の事業用水力発電所がスタート

琵琶湖疏水の途中につくられたインクライン(傾斜鉄道)跡です。約36mという激しい高低差がある蹴上地区で、舟の運搬を行うために敷かれ、長さは582mで世界一です。現在は観光名所となっています。

琵琶湖疏水の誕生と共に生まれた蹴上発電所のもっとも大きな歴史意義は、日本で最初の事業用水力発電所ということです。つまり、発電した電気を近隣のお客さまに送電して売買を行った日本第一号の水力発電所となります。

事業用発電所なので電力需要の高まりにあわせて、出力を向上させる必要があります。送電開始時はぺルトン水車2台と発電機2台、出力160kWでしたが、明治30年(1897年)の第一期工事終了後は20台のぺルトン水車と19 台の発電機が据え付けられ、1,760kWとなりました。主な用途としては、初期はインクラインへ、その後主に製造工場を中心に供給され、明治28年(1895年)には日本初となる路面電車を走らせました。送電当初は、発電所から20町(約2㎞)以内に電力供給が限定されていましたが、順次拡大されていったのです。

琵琶湖疏水記念館で展示されている、第1期蹴上水力発電所で使用されたペルトン式水車(写真左)、スタンレー式発電機(写真右)です。ペルトン式水車は、ノズルからふき出す水を多数のバケットに当てて回転させます。関西電力では黒部ダムで有名な、黒部川第四発電所でも使用されています。

~第2期~ 電力用疏水として第2疏水をつくって、さらに需要に応える

しかし、急増する電力需要によって、第1疎水だけでは対応できなくなりました。そこで、明治45年(1912年)、京都三大事業の一つとして、さらに多くの電力を発電するために第2疏水を建設しました(他は水道、道路構築)。第2疏水は第1疏水とは別に新水路をつくり、両疏水を合流させ発電用として使用するものです。それに伴って第1期蹴上発電所は取り壊され、隣接する土地に第2期蹴上発電所が同年完成しました。各地に変電所が設置されたことで供給エリアが拡大され、第2期は、水車5台・発電機5台、出力4,800kWに及んでいます。

第2期の発電所建屋が現存しており、蹴上発電所のシンボルになっています。現在、建屋内には発電機などの設備はありません。

(出展):京都市上下水道局
第2期蹴上発電所の内部です。第2期より現在までフランシス水車が使用されています。フランシス水車とは、羽根の固定されたもっとも一般的な水車です。

~第3期~ 明治・大正・昭和・平成...、最古の事業用水力発電所は今も現役です

まるで美術館のような装いの建物は、現在の蹴上発電所の構内にある変電所です。周辺環境との調和に配慮して設計されました。外壁は、南禅寺の水路閣をイメージしたものです。

明治から大正、昭和にかけて、電気利用の裾野が広がり、まさに電気万能の時代に移行してきたと言えます。現在まで続く第3期の発電所は、昭和7年(1932年)に工事が着工され、昭和11年に完成しました。

以降、琵琶湖疏水からの使用水量が20.87m3/s、発電機2台、水車2台、5,700kW※建設当時(1979年から取水調整により4,500kW※年間発電量平均で約4,600世帯相当)で、現在に至るまで稼働を続けています。この維持のために、関西電力では、性能面・安全面・環境面の観点から2ケ月に1回の巡視点検をはじめ、各部のデータを蓄積して対応策を練るなど、徹底的な保守管理を行っています。今後も蹴上発電所は、関西の水瓶と言われる琵琶湖と共に、京都の象徴として人々の生活を支えていくでしょう。

日本最大の湖・琵琶湖の疏水を利用した、メリット・デメリットは?

日本最大の湖、琵琶湖の水を利用した蹴上発電所は、1月から3月にかけて行なわれる琵琶湖疏水の停水のため、発電が停止します。京都市上下水道局が、琵琶湖疏水(第1疏水)の流下能力を回復するため、毎年冬期に停水し、疏水路内の土砂の浚渫(しゅんせつ)及び清掃作業を行っているのです。また、毎年4月から5月に琵琶湖内に藻(も)が発生して、機器に付着して発電に悪影響を及ぼすことがあります。

琵琶湖の風景

一方で、山中にある水力発電所は、導水路内に大量の流水雪(スノージャムと言われる)が流入し、導水路内が閉鎖されることがあります。また、蹴上発電所は水路式(※2)と言われる構造ですが、山中にある水路式発電所は、落葉などが流れて貯水槽や水車にごみや砂が入るため、メンテナンスが必要となります。一方、都市部にある蹴上発電所にはこうしたトラブルはほとんどなく、安定的に電力が供給できます。

(※2)水路で水を導き、取水地点と放水地点の河川標高落差を利用して発電する方法。

蹴上発電所をご案内いただきました

それではご案内いただいた、蹴上発電所内の設備をご紹介します。

中央制御室

発電所の運転を制御する、中央制御室です。現在は無人発電所となっており、遠隔制御で動かしています。

配電盤

発電した電気を送電・停止するための装置です。

水車発電機(現発電機と水車)

発電機と水車が一体となっている、水車発電機です。もともとは上記にある通り、2台でしたが、2005年より1号機が運転休止中です。写真は2号機となります。尚、クレーンも天井に設置されており、現在に至るまで昭和11年当時のものを使用しています。

水圧鉄管

琵琶湖疏水から発電に使用する水を引き込む、約350メートルの水圧鉄管です。この鉄管の色は、周囲の景色に配慮して茶色にしております。

第2期蹴上発電所(旧発電所)

蹴上発電所のシンボルである第2期蹴上発電所です。

『功天亮』(てんこうをたすく)

建物の正面に掲げられた『功天亮』(てんこうをたすく)の文字は、今上(平成)天皇の祖父である久邇宮邦彦殿下の筆によるものです。その意味は、「水力エネルギーという自然の恵みを、人々の暮らしに生かすことこそ、天の意志に叶うものである。」ということであると関西電力は考えています。

送電線の引き出し口

写真は建物の横から撮影しました。中央窓の上に、縦3列・横12列の穴があるのがお分かりいただけるでしょうか。これは、送電線の引き出し口です。現在の発電所は、地下からケーブルを通じて送電をするのがメインですが、かつてはこの穴に送電線の引き出し口があったのです。

放水口

発電に使用した水を放水するところです。水の中には、無数の鯉がいて自然と一体化した発電所だと改めて感じました。おしゃれなアーチ型になっているのも特徴です。

銘鈑・石碑

手前の銘鈑がIEEEから贈られた銘鈑で、左奥が「水力発電事業発祥之地」の石碑です。2001年にも「琵琶湖疏水の発電施設群」として、同じように琵琶湖疏水の水を利用してつくられた、夷川発電所(1912年着工・1914年竣工)、墨染発電所(1912年着工・1914年竣工)とともに土木学会選奨土木遺産に認定されています。

編集後記

ご案内いただいた、関西電力・京都電力部の藤澤直係長(左)、中江洋介作業長(中央)、中川雅美主査(右)※取材当時

今年3月に一般公開がはじまり、マスコミにも大々的に取り上げられるなど、今、注目の蹴上発電所。ぜひ多くの皆様に京都観光と共に、ご覧いただきたいと思いました。見学希望の方は、関西電力の公式HPよりお申し込みください。

蹴上水力発電所見学会のご案内(関西電力公式HP)

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