ハリーポッターの空飛ぶホウキと超電導体

2008年7月掲載

ついに“ハリー・ポッター”シリーズの最終巻となる『ハリー・ポッターと死の秘宝』の日本語版が7月23日に発売されました。11月にはシリーズ第6作目の『ハリー・ポッターと謎のプリンス』の映画版も公開予定。もう何回目になるか分からないハリー・ポッター・ブームが、日本中でまたまた沸き起こっています。

現代のおとぎ話「ハリー・ポッターと賢者の石」。

『ハリー・ポッター』は、それまで全く無名だったイギリスの女性作家J.K.ローリングが書き下ろした魔法使いの少年達の冒険小説。第1作目『ハリー・ポッターと賢者の石』は、1997年に発表されるや大ヒットとなり、全世界65言語に翻訳され、4億部以上の出版という快挙を打ち立てました。2001年には映画化されて、これまた世界中で大ヒット。『スターウォーズ』や『スパイダーマン』などを抑え、全世界興行収入ランキングでは歴代4位にランキングされています(2007年現在)。
イギリスが生んだ小説としては、すでに"シャーロック・ホームズ"シリーズと並ぶスタンダード作品になっており、現代のおとぎ話とも言える存在です

神秘の力"浮遊術"

『ハリー・ポッターと賢者の石』の作品世界では、"浮遊術"がキーワードのひとつになっています。ハリー・ポッターは、入学した魔法魔術学校の講義において、魔法使いのもっとも基本的な技術は"浮遊術"だと教わります。物語の前半部のハイライトとなるのも"浮遊術"。架空の球技"クィディッチ"のシーンでは、空を飛ぶ魔法のホウキに乗り、スリルあふれる戦いを繰り広げます。
ハリー・ポッターの世界にかぎらず、物が宙に浮いたり、人が空を飛んだりする物語や伝承は世界各地に残っています。
いちばん有名なのは、『アラビアンナイト』に登場する"空飛ぶ魔法の絨毯(じゅうたん)"でしょう。中国の『西遊記』でも孫悟空が仙術を駆使して觔斗雲(きんとうん)で飛び回り、日本でも空飛ぶ天狗が山の神として祭られてきました。表現のカタチはお国柄で違いますが、"宙に浮く""空を飛ぶ"という現象には、神秘的な力が作用していると 思われてきたようです。しかし、やがて飛行機の発達とともに、物体を宙に浮かせるような未知の力の追求は、非科学的で荒唐無稽な考え方となり、おとぎ話の世界に追いやられてしまいました。
ところが、20世紀前半に、空気の浮力などの利用なしに物体が宙に浮く不思議な現象が発見され、科学的に大きくクローズアップされるようになりました。それが超電導体による"マイスナー効果"です。

永久電流が流れる超電導体

永久電流が流れる超電導体

超電導とは、限りなく電気抵抗が0に近い現象をいい、そのような性質を示す物質を超電導体といいます。少し分かりにくいと思うので噛み砕いて説明しましょう。石や木や紙などは一般に電気を通しにくく、電線によく使われている銅*などの金属は、電気をよく通すことはご存じだと思います。しかし、金属はあくまでも"電気を通しやすい"物質であって、多かれ少なかれ必ず電気抵抗をもっています。たとえば金属導線に電流を流すと熱が発生します。これは金属の電気抵抗により、電流が流れにくくなり、エネルギーの一部が熱となることによるものです。

ところが、金属の中には絶対零度(マイナス273℃度)近くまで冷やすと、いきなり電気抵抗がかぎりなくゼロになる物質が存在します。これが超電導体です。超電導体には電気抵抗がないわけですから、そこに電流を送り込めば、熱などのエネルギーロスなしに、いつまでも電流が流れ続けることになります。

*銅の電気抵抗 直径1mm、長さ100mの線で約1Ω

現代の浮遊術"超電導体"

『マイスナー効果』

浮いた土佐ノ海

※超電導工学研究所は、超電導材料の高性能化と磁石構造の改善により、土佐ノ海関を浮上させることに成功した。最高300kgまで浮上できることも確認している。

『ハリー・ポッターと賢者の石』の作品世界では、"浮遊術"がキーワードのひとつになっています。ハリー・ポッターは、入学した魔法魔術学校の講義において、魔法使いのもっとも基本的な技術は"浮遊術"だと教わります。物語の前半部のハイライトとなるのも"浮遊術"。架空の球技"クィディッチ"のシーンでは、空を飛ぶ魔法のホウキに乗り、スリルあふれる戦いを繰り広げます。

ハリー・ポッターの世界にかぎらず、物が宙に浮いたり、人が空を飛んだりする物語や伝承は世界各地に残っています。

いちばん有名なのは、『アラビアンナイト』に登場する"空飛ぶ魔法の絨毯(じゅうたん)"でしょう。中国の『西遊記』でも孫悟空が仙術を駆使して觔斗雲(きんとうん)で飛び回り、日本でも空飛ぶ天狗が山の神として祭られてきました。表現のカタチはお国柄で違いますが、"宙に浮く""空を飛ぶ"という現象には、神秘的な力が作用していると 思われてきたようです。しかし、やがて飛行機の発達とともに、物体を宙に浮かせるような未知の力の追求は、非科学的で荒唐無稽な考え方となり、おとぎ話の世界に追いやられてしまいました。

ところが、20世紀前半に、空気の浮力などの利用なしに物体が宙に浮く不思議な現象が発見され、科学的に大きくクローズアップされるようになりました。それが超電導体による"マイスナー効果"です。

『超電導磁石』

リニアモーターカー

さて、超電導の応用により実用化が期待されている未来の高速鉄道があります。車体を磁気的に浮かせることにより、時速500kmもの高速走行を可能にする「超電導磁気浮上式リニアモーターカー」です。

超電導磁石 このリニアモーターカーはマイスナー効果ではなく、超電導磁石による強い磁場を使用して車体を宙に浮かせています。超電導磁石とは文字通り超電導体を使用した磁石のこと。冷却して超電導状態にしたコイル(超電導コイル)に電流を流すことにより、強い磁場がつくりだせます。前述したように超電導体は電気抵抗がゼロなので、大電流を流してもエネルギーロスがなく、きわめて強力な電磁石にすることができるのです。 リニアモーターカーの車両の左右には複数の超電導磁石が取り付けられ、走行路(ガイドウェイ)の両壁には「推進コイル」と「浮上案内コイル」とが設置されています。超電導磁石と推進コイルが発生する磁場との相互作用により走行が始まると、超電導磁石の強い磁場と浮上案内コイルとの間には、大きな吸引力(N極とS極の引き合う力)と反発力(N極どうし・S極どうしの押し合う力)が生まれて磁気浮上します。こうして車両は宙に浮いたまま時速500kmものスピードを達成します。

超電導を利用した"浮遊術"は、ハリー・ポッターの魔法のホウキとまではいきませんが、東京・大阪間を1時間で結ぶ夢のリニアモーターカーを実現します。超電導の応用範囲は広く、私達の生活を大きく変えるかぎりない可能性を秘めています。そのうち室温でもマイスナー効果を示して宙に浮く超電導体も発見されるかもしれません。まさしく超電導体は現代工学の"賢者の石"ともいうべき魔法のような物質なのです。

『超電導の応用』

『マイスナー効果』

超電導応用の大樹

出展:下山 淳一『トコトンやさしい超伝導の本』(日刊工業新聞社、2003年)

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