電気工学と建築学
建築学で学ぶことは、古代から現代までの建築の歴史(建築史)・建築構造の理論や実例(構造力学/建築構法)・様々な建築材料(材料学)・建物内の環境や地球環境(環境工学)・建物を成り立たせる設備(設備工学)・用途に応じた適切な平面計画などの研究(建築計画学)、それらを総合して実際のデザインにまとめる実技(設計製図)など、幅広い分野にまたがっています。これは、実際の建物がそうであるように、建築学も独立した学問ではなく、他の専門分野に支えられて成り立っていることを意味します。
現代の建物は照明やエアコン、セキュリティ機器などの電気設備を使い、しかも、それを高度にコントロールすることで、安全性や省エネルギーを実現することが求められます。つまり、建築学と電気工学は実際には、切っても切れない関係となっているのです。
オール電化住宅「青梅の家」に見る、電気工学と建築学
『オール電化住宅』とは、調理・給湯・空調など、生活に必要なエネルギーを全て電気によってまかなう住宅です。エネルギー効率が高く、住宅からCO2を直接排出しないことや、火を使わないために、従来の燃焼式給湯器や石油暖房機と比べて安全性が高いことも特長です。 ここでは、建築家・粕谷淳司さんが手掛けた『青梅の家』(第19回『準TH(トータルハウジング)大賞』受賞作品)を通じて、オール電化住宅の実例を紹介します。
(1) 建築のイメージは「室内に自然を取り込んだ立体的な空間」
粕谷さんは『青梅の家』を設計するにあたって、「周辺環境を窓から取り入れ、室内の色々な場所から風景を楽しめる計画」を目指しました。そのために、いくつもの短い階段で立体的につながった構造とし、南には大きな窓を開いて、太陽光と風景を家の中に取り込んでいます。
実際にデザインを考える際は、過去に建てられた建築の歴史に学ぶことも必要です。例えばパズルのように立体的に組み合わされた空間構成は、20世紀初頭にヨーロッパで建てられた近代建築を参考にしているのだそうです。
室内の木材や自然石・背後に迫る森の緑と引き立て合うワインレッドの外壁など、材料にも気を配り、自然環境に恵まれた場所での住まいのあり方が提案されています。
(2) デザイン性あふれる快適な住宅を支える「電気工学」の技術
隣あった部屋だけでなく、室内が上下にもつながっている「青梅の家」は、少ないエネルギーで効率的に部屋を暖める方法が課題になります。この問題を解決するために、粕谷さんは、温水床暖房を使ったオール電化住宅を選択しました。
青梅の家では、(1)エコキュートと高効率エアコン、(2)IHクッキングヒーター、(3)蛍光灯といった電気工学の技術でつくられた機器を上手に活用して、デザイン性と快適性を両立した住宅が実現されています。
各機能の詳細
1. エコキュートと高効率エアコン
『エコキュート』と『高効率エアコン』は、空気中の熱を電気を使ってくみ上げる「ヒートポンプ」という技術を用い、効率的にお湯を作ったり、部屋を暖めたり冷やしたりできる機器です。
青梅の家では『エコキュート』で作ったお湯を、お風呂やキッチンだけでなく床暖房にも使い、夏は『高効率エアコン』が部屋を冷房します。
「ヒートポンプ」は、実際に投入したエネルギーの3~6倍の効率で熱を得られるため、省エネルギーを実現できます。『エコキュート』と『高効率エアコン』には、インバータやパワーエレクトロニクスといった電気工学の制御技術が使用されています。
2. IHクッキングヒーター
『 IHクッキングヒーター 』は、ガスを使わず、電気のみで稼働する調理器具です。 ガス漏れがなく安全で、空気も汚れないのでキッチンが清潔になります。そのため、 青梅の家では家の中心にキッチンを置き、子供の様子や窓からの景色を見ながら料理をできるつくりとなっています。 IHクッキングヒーターは、金属製の鍋やフライパン自体を直接温める「電磁誘導」など、電気工学の原理が基になっています
3. 蛍光灯
夜に室内を照らす照明器具には、効率の高い『蛍光灯』を使用しています。一口に蛍光灯といっても、「点」のような光や「線」のように長い光など、さまざまに使い分けられています。中でも 「シームレスライン」という器具は、蛍光灯を「光の線」のように連続させることのできるランプで、インテリアとしても効果的です。蛍光灯は、放電、インバータなど、まさに電気工学技術の結晶です。
◆現役建築士に聞く。「建築における、電気工学の重要性」
省エネルギーだけでなく、自由なデザインを実現するために、建築には、
電気工学がゼッタイに必要です。
建築家・一級建築士 粕谷 淳司さん
現代社会は、人が生活していく上で必要な明かりや冷暖房など、あらゆるものに電気が関わっています。
テレビやパソコン・携帯電話といった情報機器も、今は生活の一部です。ただ雨風をしのぐだけでなく、こうした設備によって建築は支えられているのです。逆に、例えば太陽エネルギーで、それぞれの家が小さな「発電所」になるのも、そう遠いことではないでしょう。ですから、私たちは「電気」のことを考えずに建築を設計することはありえません。
特に強調したいのは、電気工学の技術は、ただ「機能を果たす」だけでなく、「建築デザインの自由度を高める」ということです。これからは、まるで生き物のように開閉して室内に空気を取り入れる外壁や、どこからともなく室内を満たす明かりなど、さまざまな新しい空間が電気工学の技術によって生み出されていくことでしょう。お互いの新しい可能性のために、建築と電気のいい関係をつくっていくことが大切だと思います。