現代社会は電気を利用することを前提に構築されているため、電気工学の活躍範囲も多岐にわたっています。電気エ ネルギーを発生し供給する電力設備、鉄や各種金属、紙などを生産する製造設備、洗濯機、冷蔵庫、エアコン、電子レンジや照明器具等の家電製品、自動車をは じめとする各種輸送機器、携帯電話、パソコンやファックスのような情報通信機器、時計・カメラ等の精密機器、コピー機、プリンタ等の印刷機器・・・などなど、電気工学が貢献している技術は無数に挙げられます。

ここでは、みなさんの身近な例で簡単にいくつかご紹介します。

社会を支える

電車

年間225億人の足を運ぶ

2006年度、日本国内では年間約225億人が電車を利用していると国土交通省が発表しています。世界の総人口は、約65億人と言われていますから、いかに凄い数字かお分かりになるでしょう。その電車は、電気工学のほとんどが詰まっていると言われています。電車を動かすには電気エネルギー(電力)が必要です。その電気エネルギーを、モータで回転エネルギーに変換して、車輪を動かします。

最新型新幹線N700系にも電気工学の技術

N700系

写真提供:JR東海

また、電気は電車を止めるためにも使われます。モータの回転エネルギーを利用して電気を起こし、速度を落としていくのです。さらに、電車は長時間・長距離移動をするので、その間、安定した電気エネルギーを供給しなければなりません。冷暖房も稼動し続けることが要求されます。これらの電気技術は当然のことながら、全て電気工学によって成り立っています。最近では、最新型新幹線N700系の実現も電気工学が大きく貢献しています。新幹線の技術革新には、マイクロプロセッサの高性能・高速化や、VVVF制御と呼ばれるインバータ駆動など、パワーエレクトロニクス技術の進歩が大きな役割を果たしているのです。

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電気工学の活用先

パワーエレクトロニクス技術の利用

環境に貢献する

自動車/電気自動車

自動車は今やエレクトロニックカー

自動車にも電気工学がふんだんに活用されています。例えば、現在の自動車は、ブレーキやエアバッグ、ステアリングを制御する重要な役割を担うのは“ECU”と呼ばれる電子制御装置です。それ以外にもエンジン部の点火回路は、電磁ピックアップ(電磁式回転検出器)や制御回路、LSIなどが採用されています。さらに、みなさんがよくご存知のカーナビやGPS、DVDプレイヤー、パワーウィンドウなども挙げられます。これらは全て電気工学の技術であり、今や自動車は“走るコンピュータ”、“エレクトロニックカー”などと言われています。

夢の電気自動車も実現間近

そして、環境の面から注目され、次世代カーとして期待されているのが電気自動車です。電気自動車は、文字通り、電気エネルギーで走行する自動車です。外装やパーツを除いた、エンジン・モータなどの内部機構をはじめとする全ての要素に電気工学の技術が利用されています。電気自動車は排気ガスが出ないので、環境にやさしく、その上燃費も良いため、財布にもやさしい車です。燃費効率に関してはガソリン自動車の約10分の1とも言われているのです。すでに一部の公共機関や企業で導入が進められており、電気自動車が日常生活の一部になる日が間近に迫っています。

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電気工学の活用先

地球にも財布にも優しい電気自動車

給湯器/エコキュート

空気でお湯をつくる技術

電気工学による環境貢献の近年の代表例として挙げられるのは、「エコキュート」の実現です。エコキュートとは、環境を考え開発されたヒートポンプ式の家庭用給湯システムのことです。簡単に仕組みを説明すると、空気からくみあげた熱に圧力をかけて高温にし、その熱でお湯を沸かすシステムです。つまり、空気の熱でお湯を沸かすのです。これにより、従来のガスによる燃焼式給湯器に比べCO2排出量を約50%削減することが可能となりました(東京電力株式会社資料より)。

地球温暖化を防ぐ

また、燃焼式給湯器ですと冷媒*は主にフロンが使用されていましたが、エコキュートはCO2(二酸化炭素)を使用するため、オゾン層破壊や温室効果ガス排出の抑制につながります。ちなみに、日本をはじめ欧州(EU)各国政府は2050年までに全世界の温室効果ガスを50%以上削減することを目標とする声明を出しています。壮大な目標ではありますが、「エコキュート」が一人一台になるまで普及すれば、案外早く達成できるかもしれません。
(「エコキュート」の名称は、電力会社・給湯機メーカーが自然冷媒ヒートポンプ給湯機の愛称として使用しているものです)。

*冷媒
熱を移動させるために使用される物質

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エコキュートの仕組み

CO<sub>2</sub>削減

生活を便利にする

携帯電話

“電気通信”が可能にした携帯電話

携帯電話の急激な普及は、近年の産業発展においてもっとも大きいトピックスと言えるでしょう。1998年1月に約3000万人だった加入者数が、2008年1月には1億人を超えました。10年足らずで、7000万人が新しく携帯電話を購入したわけです(電気通信事業者協会統計調査より)。では電気工学はその普及にどのように貢献したのでしょうか。そもそも、携帯電話に限らず、固定電話・電信(電報)・インターネット・パソコン通信・アマチュア無線は”電気通信“と呼ばれ、社会を支える電気工学の重要な一分野です。携帯電話は、線を使わない電気通信“無線”を利用しています。

ワンセグ、有機ELも電気工学で実現

また、携帯電話の端末も、アンテナ、スピーカー、マイク、これらを制御する電子回路、入力のためのボタンと電源から成り立っており、これらは全て電気工学でカバーする技術により支えられています。最近では、ほとんどの機種でディスプレイが搭載され、ワンセグ等も楽しめます。ディスプレイは、液晶や最近話題の「有機EL」等に変わってきており、これらの最新技術も全て電気工学が活かされています。携帯電話の発展の影には、電気工学があったのです。

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電気通信″無線″

電気工学の活用先

医療を進化させる

医療機器

最先端医療の影には電気工学

近年、医療技術は急速に進歩・発展しました。それを支えているのは半導体集積回路をはじめ、医療機器、医用放射線機器に応用されている、電気工学です。例えば、最先端の医療機器ですと、MRI(Magnetic Resonance Imaging:核磁気共鳴映像法)が挙げられます。CT検査を超える特性を持ち、臨床画像診断と言われる、人体に磁気を当て画像を撮影する装置です。体内の水素原子が持つ弱い磁気を、強力な磁場でゆさぶり、原子の状態を画像にします。そのMRIには、超電導マグネットが使用され、大きな医療進歩となりました。例えば、これまで診断が難しかった、脳卒中(脳梗塞、脳出血、クモ膜下出血)のほか、脳腫瘍や脳の小さな病変などの早期発見が可能となった のです。

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MRI


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