第1回 超電導と浮遊術
ハリーポッターの空飛ぶホウキと超電導体
永久電流が流れる超電導体
超電導とは、限りなく電気抵抗が0に近い現象をいい、そのような性質を示す物質を超電導体といいます。少し分かりにくいと思うので噛み砕いて説明しましょう。石や木や紙などは一般に電気を通しにくく、電線によく使われている銅*などの金属は、電気をよく通すことはご存じだと思います。しかし、金属はあくまでも"電気を通しやすい"物質であって、多かれ少なかれ必ず電気抵抗をもっています。たとえば金属導線に電流を流すと熱が発生します。これは金属の電気抵抗により、電流が流れにくくなり、エネルギーの一部が熱となることによるものです。
ところが、金属の中には絶対零度(マイナス273℃度)近くまで冷やすと、いきなり電気抵抗がかぎりなくゼロになる物質が存在します。これが超電導体です。超電導体には電気抵抗がないわけですから、そこに電流を送り込めば、熱などのエネルギーロスなしに、いつまでも電流が流れ続けることになります。
*銅の電気抵抗 直径1mm、長さ100mの線で約1Ω
現代の浮遊術"超電導体"
『マイスナー効果』
※超電導工学研究所は、超電導材料の高性能化と磁石構造の改善により、土佐ノ海関を浮上させることに成功した。最高300kgまで浮上できることも確認している。
『ハリー・ポッターと賢者の石』の作品世界では、“浮遊術”がキーワードのひとつになっています。ハリー・ポッターは、入学した魔法魔術学校の講義において、魔法使いのもっとも基本的な技術は“浮遊術”だと教わります。物語の前半部のハイライトとなるのも“浮遊術”。架空の球技“クィディッチ”のシーンでは、空を飛ぶ魔法のホウキに乗り、スリルあふれる戦いを繰り広げます。
ハリー・ポッターの世界にかぎらず、物が宙に浮いたり、人が空を飛んだりする物語や伝承は世界各地に残っています。
いちばん有名なのは、『アラビアンナイト』に登場する“空飛ぶ魔法の絨毯(じゅうたん)”でしょう。中国の『西遊記』でも孫悟空が仙術を駆使して觔斗雲(きんとうん)で飛び回り、日本でも空飛ぶ天狗が山の神として祭られてきました。表現のカタチはお国柄で違いますが、“宙に浮く”“空を飛ぶ”という現象には、神秘的な力が作用していると 思われてきたようです。しかし、やがて飛行機の発達とともに、物体を宙に浮かせるような未知の力の追求は、非科学的で荒唐無稽な考え方となり、おとぎ話の世界に追いやられてしまいました。
ところが、20世紀前半に、空気の浮力などの利用なしに物体が宙に浮く不思議な現象が発見され、科学的に大きくクローズアップされるようになりました。それが超電導体による“マイスナー効果”です。