JERAトヨタ自動車「大容量スイープ蓄電システム」を訪問しました

2023年3月31日掲載

2023年2月、パワーアカデミー事務局は、JERA四日市火力発電所構内(三重県)に設置された、「大容量スイープ蓄電システム」を訪問しました。株式会社JERA(以下JERA)とトヨタ自動車株式会社(以下トヨタ)が共同で構築した大容量スイープ蓄電システムは、電動車の使用済みバッテリーを再利用する蓄電システムです。1月23日には中部電力パワーグリッドの配電系統に接続して系統用蓄電池としての充放電運転を開始しました。カーボンニュートラルの実現に貢献するため、JERAとトヨタが共同で取り組んだ、画期的な取り組みをレポートします。

JERAとトヨタ自動車が共同で取り組んだ背景

地球温暖化の主な要因となっているCO2(二酸化炭素)排出量の削減は、現在、世界中の人々が直面する課題となっています。日本政府は、2050年までにCO2をはじめとする温暖化ガスの排出を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」を宣言し、脱炭素社会の実現に向けて取り組んでいます。また、この取り組みの一つとして、2035年までに乗用車の新車販売で「電動車100%」を実現できるよう、包括的な措置を講じるとしています。従って今後ガソリン車は減っていき、バッテリーを動力源とする電動車(ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車、電気自動車など)が社会の主流となってくると予想されています。

そうした中、トヨタはこれから電動車の普及が進む中で、地球環境保全や資源活用などの観点から、需要が拡大する車載バッテリーのリサイクルやリユースの取り組みを進めています。一方、JERAは、再生可能エネルギーの導入拡大に際して、電力の安定供給のため必要性が高まっている蓄電池の活用について積極的に取り組んでいます。JERAもトヨタもCO2排出量削減をミッションとして掲げており、両社の課題と目的が合致、共同で車載バッテリーをリユースする大容量スイープ蓄電システムの開発・運用の実証試験を実施しました。

電動車のリユースバッテリーを使い切る!大容量スイープ蓄電システムとは?

大容量スイープ蓄電システムの、スイープ機能とは、直列につないだ各バッテリーの通電と非通電(バイパス)を数マイクロ秒で切り替えることにより、充放電量を任意に制御できるデバイスのことです。使用済みバッテリーは通常、リユースのために性能および容量のバラツキがあります。そのため、直列に複数のバッテリーをつなげて使用する場合、劣化した電池の性能に影響されて性能を出し切れないという課題がありました。

スイープ機能は、低圧MOSという半導体スイッチによって、各バッテリーの通電と非通電をマイクロ秒単位で切り替えることで、充放電を任意に制御することに成功。いわば、バッテリーを個別に監視して効率よく使えるシステムで、電池の劣化状態を問わず、異なる電池が混合した状態でも容量を使い切ることを実現しました。

ずらっと並ぶリユースバッテリー。これらは直列につながり、大容量スイープ蓄電システムを構成しています。

電力変換装置を使用しない、パワーエレクロニクスの最先端技術

さらに、大容量スイープ蓄電システムには、もう一つ大きな特長があります。通常、こうした電力機器には、パワーコンディショナー(PCS)と呼ばれる、直流の電気を交流に変換して利用できるようにする装置が必要です。ところが、大容量スイープ蓄電システムはスイープ機能により、PCSを使用せずに直流を直接、交流へ変換することを可能にしました。これにより、PCSにかかるコストやスペースを削減できると共に、PCSを使用する際の電力損失を抑えてエネルギーの利用効率向上につながります。また、システム運転を止めずに個別に解列(系統から切り離された状態)し電池を交換することが可能です。大容量スイープ蓄電システムは、電気工学におけるパワーエレクトロニクスを応用した最先端技術といえます。

多種多様なリユース電池に対応し、系統連系を実現

JERAとトヨタは2018年より、ニッケル水素電池、リチウムイオン電池、両電池のハイブリッド、他社製リユース電池や鉛電池など、多種多様なリユース電池に対応した大容量スイープ蓄電システムの実証試験を行っています。その結果、2023年1月23日よりJERA四日市火力発電所において、大容量スイープ蓄電システムを中部電力パワーグリッドの配電系統に接続して、系統用蓄電池としての充放電運転を開始しました。一般家庭145世帯の1日の電力使用量に相当する設備規模(485kW/1260kWh)で、3つのコンテナ棟に車両120台分のリユースバッテリーが収容されています。前例がない蓄電システムの系統連系なため、接続に関する協議を綿密に行いつつ、特にノイズ対策などに苦慮したと言いますが、現在では四日市をはじめとする三重県北勢エリアへの電力供給網に接続しています。

今後の課題としては、使用済みバッテリーを大規模かつ継続的に集めるシステムの確立が挙げられます。また、JERAは住友化学株式会社と共同で資源循環にあたって新たなリサイクルプロセスも開発中で、これからの発展が注目されます。

こちらのコンテナ棟内に、車両約40台分のリユースバッテリーが収容されています。

「大容量スイープ蓄電システム」をご案内いただきました

当日、ご案内いただいた、「大容量スイープ蓄電システム」の設備をご紹介します。

コンテナ棟(蓄電システム)内部

ニッケル水素電池およびリチウムイオン電池、さらにノイズフィルター、リユースした車載用インバータ(直流電流を交流電流に変換する回路)などで構成されています。その他、ワイヤーハーネスなどの装置も、ほとんどが電動車のものを使用しています。

ニッケル水素電池

トヨタのハイブリッド車に主に使用されているバッテリーである、ニッケル水素電池による蓄電システムです。

リチウムイオン電池

電気自動車のバッテリーとしてもっとも普及しているリチウムイオン電池による蓄電システムです。

半導体スイッチ(筐体・内部(裏))

各バッテリーの通電と非通電を数マイクロ秒で切り替えている低圧MOSという半導体スイッチになります。大容量スイープ蓄電システムの心臓部と言ってよい装置です。

上部の筐体が半導体スイッチ。

内部の半導体スイッチ。

大容量スイープ蓄電システムのデモ機

10台分の使用済み駆動用バッテリーを乾電池で模したデモ機です。動作原理についてご説明いただきました。

編集後記

大容量スイープ蓄電システムにおいてPCSを不要として電力系統に接続したことは、世界に先駆けて実現した画期的な技術成果と言ってよく、取材に訪れたマスコミ関係者は驚きの声を上げているそうです。カーボンニュートラルの実現へ向けて、日本だけでなく世界展開も求められる、大容量スイープ蓄電システムの今後がますます楽しみです。

ご案内いただいたのは、JERA 技術経営戦略部 技術開発ユニットの尾崎亮一ユニット長(写真左)と森山友広課長代理(右)です。お二人とも電気系のご出身でしたので、最後にパワーアカデミーWEBサイトをご覧の皆様宛に下記のメッセージをいただきました。

「大容量スイープ蓄電システムは業種の垣根を超えた取り組みだったこともあり、新たなイノベーションが生まれたと考えています。既成概念の枠にとどまらず、異業者同士がお互いアイデアを出し合う事で、世の中が困っていることを解決することができると考えています。学生の皆様は幅広い視点でいろいろなことを学ぶ姿勢を身につけていただければと思います。」

この記事に関連する電気工学のキーワード

  • 蓄電池

バックナンバー一覧

電気の施設訪問レポート vol.302023年3月掲載

JERAトヨタ自動車「大容量スイープ蓄電システム」を訪問しました
2023年2月、パワーアカデミー事務局は、JERA四日市火力発電所構内(三重県)に設置された、「大容量スイープ蓄電システム」を訪問しました。株式会社JERA(以下JERA)とトヨタ自動車株式会社(以下…>>続きを読む

電気の施設訪問レポート vol.292022年3月掲載

「Jファーム スマートアグリプラント」をご紹介します
今回の電気の施設訪問レポートはエネルギー分野へと展開し、エネルギーを上手く活用した施設のご紹介です。最先端のスマートアグリシステムを活用した太陽型植物工場が、北海道で高糖度ミニトマトなどの栽培に大きな…>>続きを読む

電気の施設訪問レポート vol.282021年3月掲載

「大規模CO2分離回収実証設備」をご紹介します
福岡県の最南端に位置する大牟田市。広大な干潟の有明海に面し、かつては炭坑の町としても知られていた同市が、今、エネルギーや環境問題の関係者から熱い視線を浴びています。注目の的となっているのは、バイオマス…>>続きを読む

電気の施設訪問レポート vol.272020年9月掲載

「東北電力奥会津水力館 みお里 MIORI®」をご紹介します
2020年7月9日、福島県大沼郡金山町に「東北電力奥会津水力館 みお里 MIORI®」がオープンしました。東北電力としては初めての本格的な水力発電のPR施設となります。パワーアカデミー事務局で…>>続きを読む

電気の施設訪問レポート vol.262020年3月掲載

「沖縄県海洋温度差発電実証試験設備」を訪問しました
2019年12月、パワーアカデミー事務局は、沖縄県・久米島町にある「沖縄県海洋温度差発電実証試験設備」を訪問しました。同施設は、太陽からの熱で温められた表層水と深海の冷たい海洋深層水(深層水)との温度…>>続きを読む

電気の施設訪問レポート vol.252019年9月掲載

竹のバイオマス熱電併給事業施設を訪問しました
2019年6月、パワーアカデミー事務局は、熊本県南関町(なんかんまち)にあるバンブーエナジー株式会社のバイオマス熱電併給事業施設を訪問しました。同施設は、竹をバイオマス原料として活用するという困難なテ…>>続きを読む

電気の施設訪問レポート vol.242019年2月掲載

「山川発電所/山川バイナリー発電所」を訪問しました
2018年12月、パワーアカデミー事務局は、指宿市山川地区にある地熱発電所、九州電力「山川(やまがわ)発電所」および九電みらいエナジー「山川バイナリー発電所」を訪問しました。山川バイナリー発電所は、山…>>続きを読む

電気の施設訪問レポート vol.232018年8月掲載

関西電力「蹴上発電所」を訪問しました
2018年6月、パワーアカデミー事務局は、京都市左京区にある関西電力・蹴上(けあげ)発電所を訪問しました。蹴上発電所は、日本ではじめての事業用水力発電所として京都の近代化に大きく貢献、現在でも現役の発…>>続きを読む

電気の施設訪問レポート vol.222018年1月掲載

「新島プロジェクト事業」を訪問しました
2017年12月、パワーアカデミー事務局は、東京都新島村を訪問しました。新島村では、再生可能エネルギーを最大限受け入れ可能な電力系統システムの構築を目指した実証試験「電力系統出力変動対応技術研究開発事…>>続きを読む

電気の施設訪問レポート vol.212017年8月掲載

「圧縮空気エネルギー貯蔵(CAES)実証設備」を訪問しました
今回、パワーアカデミー事務局は、静岡県賀茂郡河津町にある圧縮空気エネルギー貯蔵(CAES:Compressed Air Energy Storage)システムの実証試験設備を訪問しました。…>>続きを読む

電気の施設訪問レポート vol.202016年11月掲載

三菱電機「中低圧直流配電システム実証棟」を訪問しました
2016年9月、パワーアカデミー事務局は、香川県丸亀市にある三菱電機株式会社の受配電システム製作所「中低圧直流配電システム実証棟」を訪問しました。…>>続きを読む

電気の施設訪問レポート vol.192016年7月掲載

「柏の葉スマートシティ」を訪問しました
2016年3月、パワーアカデミー事務局は「柏の葉スマートシティ」を訪問しました。柏の葉スマートシティは、内閣府の地域活性化総合特区に指定されており、国家的事業として取り組んでいる、…>>続きを読む

電気の施設訪問レポート vol.182015年10月掲載

東北電力「新仙台火力発電所」を訪問しました
2015年10月、パワーアカデミー事務局は東北電力の新仙台火力発電所(仙台市宮城野区)を訪問しました。仙台市の一番東にある仙台港に位置する新仙台火力発電所は、…>>続きを読む

電気の施設訪問レポート vol.172015年1月掲載

中部電力「南福光連系所」を訪問しました
2014年11月、パワーアカデミー事務局は中部電力と北陸電力の電力系統を連系している南福光連系所(富山県南砺市※とやまけんなんとし)を訪問しました。南福光連系所……>>続きを読む

電気の施設訪問レポート vol.162014年9月掲載

東京電力「常陸那珂火力発電所」を訪問しました
2014年7月、パワーアカデミー事務局は東京電力の常陸那珂(ひたちなか)火力発電所(茨城県那珂郡東海村)を訪問しました。緑豊かな自然と太平洋の大海原が広がる常……>>続きを読む

電気の施設訪問レポート vol.152014年5月掲載

「沖縄やんばる海水揚水発電所」を訪問しました
2014年2月、パワーアカデミー事務局は、沖縄県北部の国頭村(くにがみそん)にある、J-POWER(電源開発株式会社)の「沖縄やんばる海水揚水発電所」を訪問しました。沖縄やんばる海水揚水発電所は、世界…>>続きを読む

電気の施設訪問レポート vol.142013年11月掲載

「神之池バイオマス発電所」を訪問しました
2013年9月、パワーアカデミー事務局は、茨城県神栖市にある、国内最大級の木質バイオマス専焼発電所「神之池バイオマス発電所」を訪問しました。これは、9月18日(水)に行われた第2回GPAN(パワーアカ…>>続きを読む

電気の施設訪問レポート vol.132013年10月掲載

「浮島太陽光発電所」を訪問しました
2013年8月、パワーアカデミー事務局は、神奈川県川崎市にある「浮島太陽光発電所」を訪問しました。浮島太陽光発電所は、川崎市と東京電力株式会社の共同事業として、川崎市の臨海部に建設した大規模太陽光発電…>>続きを読む

電気の施設訪問レポート vol.122013年7月掲載

電気の歴史につながる九州電力・黒川第一発電所を訪問しました
2013年4月、パワーアカデミー事務局は、熊本県南阿蘇村にある九州電力の黒川第一発電所を訪問しました。黒川第一発電所は、約100年前の大正3年(1914)につくられた歴史ある水力発電所で、現在も現役で…>>続きを読む

電気の施設訪問レポート vol.112013年2月掲載

新出雲ウインドファームを訪問しました
2012年11月、パワーアカデミー事務局は、島根県出雲市にある株式会社新出雲ウインドファームを訪問しました。同社は、2009年4月に営業運転を開始した、日本最大規模の集合型風力発電施設「新出雲風力発電…>>続きを読む

電気の施設訪問レポート vol.102012年10月掲載

宮崎ウッドペレットを訪問しました
2012年8月、パワーアカデミー事務局は、宮崎県小林市にある宮崎ウッドペレット株式会社を訪問しました。宮崎ウッドペレット株式会社は、未利用となっている国内林地残材などを「木質ペレット」に加工し、バイオ…>>続きを読む

電気の施設訪問レポート vol.92012年9月掲載

九州電力・小丸川発電所を訪問しました
2012年8月、パワーアカデミー事務局は、宮崎県児湯郡木城町にある九州電力の小丸川発電所を訪問しました。小丸川発電所は、九州で最大規模の発電出力を誇る揚水式発電所。本レポートでは、小丸川発電所の仕組み…>>続きを読む

電気の施設訪問レポート vol.82012年5月掲載

電源開発・北本連系設備を訪問しました
2011年11月、パワーアカデミー事務局は、北海道・本州間電力連系設備(北本連系設備)の函館交直変換所を訪問しました。北本連系設備は、日本初の高電圧直流送電線という技術で、1979年に完成した北海道と…>>続きを読む

電気の施設訪問レポート vol.72012年4月掲載

東北電力・上の岱地熱発電所を訪問しました
2011年11月末、パワーアカデミー事務局は、秋田県湯沢市にある東北電力・上の岱地熱発電所を訪問しました。本レポートでは、震災後、注目を集める再生可能エネルギーのひとつ「地熱発電」の仕組みや特徴、そし…>>続きを読む

電気の施設訪問レポート vol.62012年4月掲載

関西電力堺港発電所と堺太陽光発電所を訪問しました
2011年10月、パワーアカデミー事務局は、大阪府堺市にある関西電力 堺港発電所と堺太陽光発電所を訪問しました。堺市の臨海部に位置する堺港発電所は、低炭素社会の実現とより低廉な電力の供給に向け、天然ガ…>>続きを読む

電気の施設訪問レポート vol.52010年9月掲載

四国電力「伊方ビジターズハウス」を訪問しました
2010年9月、パワーアカデミー事務局は、愛媛県西宇和郡にある「伊方ビジターズハウス」を訪問しました。伊方ビジターズハウスは、四国の約4割の電力をまかなう伊方発電所に隣接するPR施設です。施設は本館・…>>続きを読む

電気の施設訪問レポート vol.42009年12月掲載

中国電力「水島発電所」を訪問しました
2009年12月、パワーアカデミー事務局は、岡山県倉敷市にある、中国電力の水島発電所を訪れました。水島発電所は、水島コンビナートの電力をまかなうため、1961年に運転を開始した火力発電所です。発電所の…>>続きを読む

電気の施設訪問レポート vol.32009年11月掲載

中部電力PR展示施設「でんきの科学館」を訪問しました
2009年9月、パワーアカデミー事務局は、愛知県名古屋市にある「でんきの科学館」を訪れました。でんきの科学館は、見て、触れて、体験しながら電気の世界を発見できる参加・体験型の科学館。さまざまな角度から…>>続きを読む

電気の施設訪問レポート vol.22009年11月掲載

三居沢電気百年館を訪問しました
2009年11月、パワーアカデミー事務局は、仙台市にある「三居沢電気百年館」を訪れました。三居沢電気百年館は、東北の電気誕生から百年目を記念して、1988年に建てられたものです。主に東北地方における電…>>続きを読む

電気の施設訪問レポート vol.12009年8月掲載

関西電力「エル・シティ館」を訪問しました
2009年8月、パワーアカデミー事務局は、大阪府にある「エル・シティ館」を訪れました。エル・シティ館は、関西電力南港発電所のエル・シティ・ナンコウ内にあるPR施設。子供から大人まで、科学について遊び感…>>続きを読む

電気工学を知る