
2022年7月掲載
落雷から建物を守るために、屋上などに設置される「避雷針」。実はこの避雷針、雷を避けるのではなく、自ら雷を引き寄せて電流を地面に逃がしているのです。
雷を避けるのではなく、誘って大地へ逃がす
避雷針のことを説明する前に、まず落雷について簡単にご紹介します。一般的に「落雷」とは、雷雲の下層にたまったマイナスの電荷(電気の量)が、地面のプラスの電荷に流れて放電する現象で、雲と地面の間の火花放電と考えられています。そのときに発生する閃光が、稲妻です。
落雷が発生すると、ご存じの通り、経路となる樹木や建築物に巨大な電流が流れて、火災など大きな被害を及ぼします。時には人間に落雷することもあり、一瞬で尊い命が失われます。これを防ぐために建物の屋上に設置されている棒状の機器が避雷針で、日本の法律では20m以上の建物に設置義務(※1)があります。避雷針は、高いところに落雷しやすい雷の習性を利用し、 建物の上に立てて、雷を誘います。避雷針に落ちた雷の電気は、避雷針に接続した銅線から地面に埋めている銅などの金属の電極へ流して、大地へ逃がす(放電させる)という仕組みです。
避雷針の仕組み
避雷針による保護範囲は、 建物の避雷針から左右それぞれ約60度以内とされています。これは保護角と呼ばれ、建物の危険度、重要度等に応じて定められ、火薬倉庫や引火性物質の保管庫など危険物取扱所の場合は45度となっています。そのため、大きな建物だと避雷針を複数個設置するなどといった工夫がされています。ただし、避雷針で守られる範囲であっても"絶対"ではないので、雷鳴が聞こえたら、すぐさま建物の中などへ避難しましょう。外にいる場合は、大きな木には近づかないようにすることが大事です。
雷現象は大変複雑で、まだまだ解明されていないことがたくさんあります。また、雷害を防ぐ避雷針のさらなる進化も期待されます。これらは電気工学の主要な研究範囲で、日々研究が進められています。
※1 建築基準法第33条「高さ20mをこえる建築物には、有効に避雷設備を設けなければならない。ただし、周囲の状況によって安全上支障がない場合においては、この限りでない。」
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