「大規模CO2分離回収実証設備」をご紹介します

2021年3月31日掲載

福岡県の最南端に位置する大牟田市。広大な干潟の有明海に面し、かつては炭坑の町としても知られていた同市が、今、エネルギーや環境問題の関係者から熱い視線を浴びています。注目の的となっているのは、バイオマス発電所である「(株)シグマパワー有明 三川発電所」に設置された「大規模CO2分離回収実証設備」。世界初の大規模BECCS(CCS付きバイオマス発電)対応設備として知られるこのプロジェクトについてご紹介しましょう。
※今回は、コロナ禍の影響に伴い、オンラインにて取材しました。

社会に大きなインパクト

世界全体で増え続けるCO2(二酸化炭素)排出量。気候変動という地球規模の課題に立ち向かうために、さまざまなイノベーションへの挑戦が続けられています。政府も、2050年までに温暖化ガスの排出を実質ゼロにする、カーボンニュートラルを宣言。脱炭素社会の実現に向けた取り組みには、いっそう拍車がかかります。

こうした中、注目されているのが福岡県大牟田市で2020年10月にスタートした「大規模CO2分離回収実証設備」による実証運転。東芝エネルギーシステムズ株式会社が、環境省の委託を受けた18機関による「環境配慮型CCS実証事業」の枠組みの中で行われています。

この実証設備は、発電所から排出されるCO2を分離回収するもので、隣接する「(株)シグマパワー有明 三川発電所」から1日に排出されるCO2の50%にあたる500トン以上のCO2を分離回収します。バイオマス発電所から排出されるCO2を分離回収する大規模BECCS対応設備は、ここが世界で初めてです。

「CCS(CO2分離回収・貯留)に対する一般的な認知度はまだまだ十分とは言えません。その中でこのプロジェクトが注目されるのは、脱炭素社会実現に向けてCCSの優位性を広くアピールすることにつながると考えています。CCSの研究に取り組んでいる競合他社もきっと喜んでくれているに違いありません。それほど広くインパクトを与えることになる取り組みだと自負しています」と、東芝エネルギーシステムズの岩浅清彦さん(パワーシステム事業部 パワーシステム技術・開発部)は胸を張ります。

世界最大規模の施設として

温室効果ガス削減の枠組みを定めたのが、2015年の第21回気候変動枠組条約締約国会議(COP21)の「パリ協定」。同協定を受けて環境省が環境配慮型CCS事業への取り組みを呼びかけ、その呼びかけに応じた東芝エネルギーシステムズをはじめとする13機関が2016年から5カ年の計画で「CO2分離回収実証設備の建設、その技術、性能、コスト、環境影響等の評価を行うとともに、国内でのCCS導入に向けた政策・措置についての検討」の本格整備をスタートさせました。そして最終年度の2020年には18機関が参加するプロジェクトとなりました。

「この18機関によるコンソーシアムの取りまとめを、当社が代表事業者として担当しました。それぞれの意見を調整しながら、限られた期間内に設計・建設を終わらせることには、苦労がありました」(岩浅さん)

実は大牟田市にはバイオマス発電、太陽光発電などエネルギーに関する多くの施設が集積されており、経済産業省 資源エネルギー庁から「次世代エネルギーパーク」の認定を受けています。「CO2分離回収実証設備」は、この「次世代エネルギーパーク」を通じて構成する一つである「(株)シグマパワー有明 三川発電所」と統合された設備です。具体的にはCO2を分離するために必要なエネルギー源には、「(株)シグマパワー有明 三川発電所」の蒸気タービンからの抽気蒸気を用いています。

このようにCO2分離回収設備と一体化したバイオマス発電からCO2を回収し、そのCO2を地中に貯留することをBECCS(Bio-energy with Carbon Capture and Storage)と呼び、このプラントはBECCS対応設備として世界最大規模を誇ります。

なお「(株)シグマパワー有明 三川発電所」は、パーム椰子の種の殻を燃料とするバイオマス発電所で、およそ8万世帯分の電力を発電。近接する大牟田発電所(2021年秋運転開始予定)と合わせて、一般家庭約15万世帯の消費量に相当する電力が供給可能となります。

CCSの仕組みと特徴

ではCCSについて詳しくご紹介しましょう。

CCSとは、火力発電所などで発生するCO2を分離・回収(同施設は貯留を除く)する技術のことです。これによって大気に放出されるCO2の量を大幅に減らすことが可能です。

CCSの方式にはいくつかあり、「(株)シグマパワー有明 三川発電所」の「CO2分離回収実証設備」で採用されたのは「燃焼後回収方式」です。これはプロセスそのものが化学業界で既に確立されており、回収されたCO2の純度も99%と高いことが特徴です。

「既存の設備に後付けで採用可能な点も大きなメリットです。新設の発電所だけでなく、既に稼働中の発電所にも対応できることで、幅広いニーズにお応えします」(岩浅さん)

「CO2分離回収実証設備」は大きく「吸収塔」と「再生塔」に分けられます。

①CO2を含む排ガスは、まず「吸収塔」に入ります

②「吸収塔」の中で排ガスは、アミン液と呼ばれる水溶液に吸収されます。アミン液には、低温でCO2を吸収し、高温でCO2を排出するという特徴があります

③CO2を取り除かれた排ガスは、煙突から大気に排出されます

④一方、CO2を吸い込んだアミン液は「再生塔」へ送られます

⑤アミン液は加熱され、CO2を吐き出します(この際に発電所の蒸気タービンの熱が使われます)

⑥排出されたCO2は回収されます

⑦アミン液は「吸収塔」へと戻っていき、再びCO2を吸収します

この①から⑦のサイクルを繰り返すことで、「CO2分離回収実証設備」は連続的にCO2の分離と回収を行います。

回収量は「(株)シグマパワー有明 三川発電所」から1日に排出されるCO2の50%に相当する500トン以上にも達します。これは火力発電所から排出されるCO2の50%以上を回収できる設備としては、日本初のことです(2020年10月時点/東芝エネルギーシステムズ調べ)。

なお今回のプロジェクトでは、回収したCO2についてはリリースされますが、同社が佐賀市の清掃工場CCU(CO2分離回収・利用)向けに納入したCO2分離回収設備では、パイプラインで運ばれて藻類の培養プラントや施設園芸等へと供給されています。

脱炭素社会へのソリューションとして

この実証実験は2021年3月まで行われ、その後、報告書がまとめられる予定です。今後の課題等は、その中で検証されていくことでしょう。

火力発電は国内外で大部分を占める重要な電源であり、排出されるCO2の削減は大きなテーマです。そうした中でこの「CO2分離回収実証設備」によるチャレンジは、CCSの普及浸透を力強く後押しすることになるでしょう。

「もちろんCCSは脱炭素社会の実現を目指す上での一つのアイデアです。CO2削減には、さまざまなアプローチが可能でしょう。ぜひこれからの社会を担っていく若い世代の皆さんには、CCSの普及はもちろんのこと、さらにCO2削減に資するようなソリューションの開発に取り組んでいただけたらと期待しています」

岩浅さんは、そんなメッセージを送ってくれました。

さいごに

2020年12月、政府が2050年までに温暖化ガスの排出を実質ゼロにする、カーボンニュートラルを宣言したことを、非常にポジティブに受け止めています。その後、CCSに関するお問い合わせの数も一気に増えました。この分野で日本は国際的に出遅れていたものの、風向きが変わったことで、私たちの取り組みにも一層力が入ります。(岩浅清彦さん)

編集後記

今回はコロナ禍の中、オンライン取材となりましたが、ご協力いただいた東芝エネルギーシステムズ株式会社様にはお礼申し上げます。脱炭素化という課題に正面から向き合う実証設備のお話は大変に興味深く、世界初の施設であるという点には特に誇らしさを感じました。美しい有明海を心に思い浮かべつつ、編集スタッフ一同、実証設備の成功を願っています。

バイオマス発電について、こちらでご紹介しています。

【電気の施設訪問レポート vol.25】「竹のバイオマス熱電供給事業施設を訪問しました」

この記事に関連する電気工学のキーワード

  • 電力系統

バックナンバー一覧

電気の施設訪問レポート vol.272020年9月掲載

「東北電力奥会津水力館 みお里 MIORI®」をご紹介します
2020年7月9日、福島県大沼郡金山町に「東北電力奥会津水力館 みお里 MIORI®」がオープンしました。東北電力としては初めての本格的な水力発電のPR施設となります。パワーアカデミー事務局で…>>続きを読む

電気の施設訪問レポート vol.262020年3月掲載

「沖縄県海洋温度差発電実証試験設備」を訪問しました
2019年12月、パワーアカデミー事務局は、沖縄県・久米島町にある「沖縄県海洋温度差発電実証試験設備」を訪問しました。同施設は、太陽からの熱で温められた表層水と深海の冷たい海洋深層水(深層水)との温度…>>続きを読む

電気の施設訪問レポート vol.252019年9月掲載

竹のバイオマス熱電併給事業施設を訪問しました
2019年6月、パワーアカデミー事務局は、熊本県南関町(なんかんまち)にあるバンブーエナジー株式会社のバイオマス熱電併給事業施設を訪問しました。同施設は、竹をバイオマス原料として活用するという困難なテ…>>続きを読む

電気の施設訪問レポート vol.242019年2月掲載

「山川発電所/山川バイナリー発電所」を訪問しました
2018年12月、パワーアカデミー事務局は、指宿市山川地区にある地熱発電所、九州電力「山川(やまがわ)発電所」および九電みらいエナジー「山川バイナリー発電所」を訪問しました。山川バイナリー発電所は、山…>>続きを読む

電気の施設訪問レポート vol.232018年8月掲載

関西電力「蹴上発電所」を訪問しました
2018年6月、パワーアカデミー事務局は、京都市左京区にある関西電力・蹴上(けあげ)発電所を訪問しました。蹴上発電所は、日本ではじめての事業用水力発電所として京都の近代化に大きく貢献、現在でも現役の発…>>続きを読む

電気の施設訪問レポート vol.222018年1月掲載

「新島プロジェクト事業」を訪問しました
2017年12月、パワーアカデミー事務局は、東京都新島村を訪問しました。新島村では、再生可能エネルギーを最大限受け入れ可能な電力系統システムの構築を目指した実証試験「電力系統出力変動対応技術研究開発事…>>続きを読む

電気の施設訪問レポート vol.212017年8月掲載

「圧縮空気エネルギー貯蔵(CAES)実証設備」を訪問しました
今回、パワーアカデミー事務局は、静岡県賀茂郡河津町にある圧縮空気エネルギー貯蔵(CAES:Compressed Air Energy Storage)システムの実証試験設備を訪問しました。…>>続きを読む

電気の施設訪問レポート vol.202016年11月掲載

三菱電機「中低圧直流配電システム実証棟」を訪問しました
2016年9月、パワーアカデミー事務局は、香川県丸亀市にある三菱電機株式会社の受配電システム製作所「中低圧直流配電システム実証棟」を訪問しました。…>>続きを読む

電気の施設訪問レポート vol.192016年7月掲載

「柏の葉スマートシティ」を訪問しました
2016年3月、パワーアカデミー事務局は「柏の葉スマートシティ」を訪問しました。柏の葉スマートシティは、内閣府の地域活性化総合特区に指定されており、国家的事業として取り組んでいる、…>>続きを読む

電気の施設訪問レポート vol.182015年10月掲載

東北電力「新仙台火力発電所」を訪問しました
2015年10月、パワーアカデミー事務局は東北電力の新仙台火力発電所(仙台市宮城野区)を訪問しました。仙台市の一番東にある仙台港に位置する新仙台火力発電所は、…>>続きを読む

電気の施設訪問レポート vol.172015年1月掲載

中部電力「南福光連系所」を訪問しました
2014年11月、パワーアカデミー事務局は中部電力と北陸電力の電力系統を連系している南福光連系所(富山県南砺市※とやまけんなんとし)を訪問しました。南福光連系所……>>続きを読む

電気の施設訪問レポート vol.162014年9月掲載

東京電力「常陸那珂火力発電所」を訪問しました
2014年7月、パワーアカデミー事務局は東京電力の常陸那珂(ひたちなか)火力発電所(茨城県那珂郡東海村)を訪問しました。緑豊かな自然と太平洋の大海原が広がる常……>>続きを読む

電気の施設訪問レポート vol.152014年5月掲載

「沖縄やんばる海水揚水発電所」を訪問しました
2014年2月、パワーアカデミー事務局は、沖縄県北部の国頭村(くにがみそん)にある、J-POWER(電源開発株式会社)の「沖縄やんばる海水揚水発電所」を訪問しました。沖縄やんばる海水揚水発電所は、世界…>>続きを読む

電気の施設訪問レポート vol.142013年11月掲載

「神之池バイオマス発電所」を訪問しました
2013年9月、パワーアカデミー事務局は、茨城県神栖市にある、国内最大級の木質バイオマス専焼発電所「神之池バイオマス発電所」を訪問しました。これは、9月18日(水)に行われた第2回GPAN(パワーアカ…>>続きを読む

電気の施設訪問レポート vol.132013年10月掲載

「浮島太陽光発電所」を訪問しました
2013年8月、パワーアカデミー事務局は、神奈川県川崎市にある「浮島太陽光発電所」を訪問しました。浮島太陽光発電所は、川崎市と東京電力株式会社の共同事業として、川崎市の臨海部に建設した大規模太陽光発電…>>続きを読む

電気の施設訪問レポート vol.122013年7月掲載

電気の歴史につながる九州電力・黒川第一発電所を訪問しました
2013年4月、パワーアカデミー事務局は、熊本県南阿蘇村にある九州電力の黒川第一発電所を訪問しました。黒川第一発電所は、約100年前の大正3年(1914)につくられた歴史ある水力発電所で、現在も現役で…>>続きを読む

電気の施設訪問レポート vol.112013年2月掲載

新出雲ウインドファームを訪問しました
2012年11月、パワーアカデミー事務局は、島根県出雲市にある株式会社新出雲ウインドファームを訪問しました。同社は、2009年4月に営業運転を開始した、日本最大規模の集合型風力発電施設「新出雲風力発電…>>続きを読む

電気の施設訪問レポート vol.102012年10月掲載

宮崎ウッドペレットを訪問しました
2012年8月、パワーアカデミー事務局は、宮崎県小林市にある宮崎ウッドペレット株式会社を訪問しました。宮崎ウッドペレット株式会社は、未利用となっている国内林地残材などを「木質ペレット」に加工し、バイオ…>>続きを読む

電気の施設訪問レポート vol.92012年9月掲載

九州電力・小丸川発電所を訪問しました
2012年8月、パワーアカデミー事務局は、宮崎県児湯郡木城町にある九州電力の小丸川発電所を訪問しました。小丸川発電所は、九州で最大規模の発電出力を誇る揚水式発電所。本レポートでは、小丸川発電所の仕組み…>>続きを読む

電気の施設訪問レポート vol.82012年5月掲載

電源開発・北本連系設備を訪問しました
2011年11月、パワーアカデミー事務局は、北海道・本州間電力連系設備(北本連系設備)の函館交直変換所を訪問しました。北本連系設備は、日本初の高電圧直流送電線という技術で、1979年に完成した北海道と…>>続きを読む

電気の施設訪問レポート vol.72012年4月掲載

東北電力・上の岱地熱発電所を訪問しました
2011年11月末、パワーアカデミー事務局は、秋田県湯沢市にある東北電力・上の岱地熱発電所を訪問しました。本レポートでは、震災後、注目を集める再生可能エネルギーのひとつ「地熱発電」の仕組みや特徴、そし…>>続きを読む

電気の施設訪問レポート vol.62012年4月掲載

関西電力堺港発電所と堺太陽光発電所を訪問しました
2011年10月、パワーアカデミー事務局は、大阪府堺市にある関西電力 堺港発電所と堺太陽光発電所を訪問しました。堺市の臨海部に位置する堺港発電所は、低炭素社会の実現とより低廉な電力の供給に向け、天然ガ…>>続きを読む

電気の施設訪問レポート vol.52010年9月掲載

四国電力「伊方ビジターズハウス」を訪問しました
2010年9月、パワーアカデミー事務局は、愛媛県西宇和郡にある「伊方ビジターズハウス」を訪問しました。伊方ビジターズハウスは、四国の約4割の電力をまかなう伊方発電所に隣接するPR施設です。施設は本館・…>>続きを読む

電気の施設訪問レポート vol.42009年12月掲載

中国電力「水島発電所」を訪問しました
2009年12月、パワーアカデミー事務局は、岡山県倉敷市にある、中国電力の水島発電所を訪れました。水島発電所は、水島コンビナートの電力をまかなうため、1961年に運転を開始した火力発電所です。発電所の…>>続きを読む

電気の施設訪問レポート vol.32009年11月掲載

中部電力PR展示施設「でんきの科学館」を訪問しました
2009年9月、パワーアカデミー事務局は、愛知県名古屋市にある「でんきの科学館」を訪れました。でんきの科学館は、見て、触れて、体験しながら電気の世界を発見できる参加・体験型の科学館。さまざまな角度から…>>続きを読む

電気の施設訪問レポート vol.22009年11月掲載

三居沢電気百年館を訪問しました
2009年11月、パワーアカデミー事務局は、仙台市にある「三居沢電気百年館」を訪れました。三居沢電気百年館は、東北の電気誕生から百年目を記念して、1988年に建てられたものです。主に東北地方における電…>>続きを読む

電気の施設訪問レポート vol.12009年8月掲載

関西電力「エル・シティ館」を訪問しました
2009年8月、パワーアカデミー事務局は、大阪府にある「エル・シティ館」を訪れました。エル・シティ館は、関西電力南港発電所のエル・シティ・ナンコウ内にあるPR施設。子供から大人まで、科学について遊び感…>>続きを読む

電気工学を知る