2023年10月掲載
一般家庭では、オール電化という言葉が定着して久しいですが、最近では、工場などの産業分野も電化が進んでいます。カーボンニュートラルを目指す上で、二酸化炭素(CO2)の排出を大幅に削減するためには、産業分野も含めた社会全体の“電化”が不可欠です。
今、注目の産業分野の電化とは?
食品も含めた、身の回りの製品は大半のものが製造過程において、熱を加えてつくられています。照明や動力(電車やEVなど)に比べて目立ちませんが、実は電気は熱としても多く利用されているのです。一般家庭だと近年、注目されているオール電化住宅のキッチンや給湯、暖房機器などが電気の熱利用として挙げられます。これらの機器は、従来はガスや灯油などで熱を生み出していたものです。
一方、産業分野(工場)で使われているエネルギーの多くは熱で、この熱は化石エネルギーでつくられています。しかしこれから、日本社会がカーボンニュートラルを進める上では、CO2を排出しない非化石エネルギーへの転換が必要です。そこで現在、注目をされているのが産業分野の電化。再生可能エネルギー発電や、安全を最優先とした原子力発電によりつくられた電気の利用などにより、産業分野でCO2を排出しない電化を目指す動きが高まっているのです。
電気は火よりも高い温度をつくりだせる
熱というと火をイメージすることが多いかと思いますが、下の図1にあるとおり電気は最高で10,000℃超に達し、火よりも高い温度をつくり出すことができるのです。(一般的にガスバーナーの温度は1,700℃~1,900℃程度であり、燃焼による加熱で達成できる温度は、3,000℃程度)
図1 電気加熱の適用領域
出典:日本エレクトロヒートセンター
身近で利用している電気加熱システムが産業界でも大活躍!!
電気で熱をつくる方法は、「第36回 ヒートポンプの応用」においてはヒートポンプを紹介しましたが、これ以外にも様々な方法があります。ここでは、ヒートポンプを含めた代表的な電気加熱システムの種類と特長(図2)、さらに身近な利用や産業界の利用について紹介します。
図2 電気加熱システムの種類と特長
| 抵抗加熱 | 誘導加熱 |
身近な利用 |
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発熱の原理 ・しくみ |
電気を直接発熱体に流して発生する熱(ジュール熱)を利用。
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電磁誘導による「うず電流」によってジュール熱が発生する原理を利用。
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ポイント |
間接加熱にて低温から高温まで利用温度の幅が広くどのような素材の加熱にも利用が可能です。直接通電により加熱する場合もあります。 |
導電性の被加熱物そのものを直接加熱するので、熱損失が小さく省エネです。さらに急速、局部、非接触といった加熱も可能です。 |
利用が可能な 温度帯 |
30℃ ~ 3,000℃ |
70℃ ~ 3,000℃ |
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マイクロ波加熱・ 高周波誘導加熱 |
赤外線加熱 |
身近な利用 |
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発熱の原理 ・しくみ |
分子間で発生する摩擦熱(誘導損失)で、誘電体を内部から加熱。
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赤外線が直接被加熱物に吸収され、分子間の振動が増加し加熱。
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ポイント |
被加熱物(電気を通さない誘電体)の内部から加熱するため、非常に効率が良く、短時間で均一に加熱が行われます。尚、誘電体内に金属片が混入していると放電する恐れがあります。 |
被加熱物を直接加熱するので、周りの雰囲気に影響されず、被加熱物の表面のみを温めることができます。加熱の効率および速度にも優れます。尚、被加熱物の種類ごとに赤外線の吸収は異なります。 |
利用が可能な 温度帯 |
30℃ ~ 2,000℃ |
10℃ ~ 1,000℃ |
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アーク・プラズマ加熱 |
ヒートポンプ |
身近な利用 |
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発熱の原理 ・しくみ |
電極からアーク放電を発生させ、対流・放射・ジュール加熱の3つにより被加熱物を超高温に加熱。
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冷媒を利用して、熱を低温側から高温側に移動。
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ポイント |
超高温の熱を発生することが可能で、鉄鋼などの金属溶解と昇温に広く利用されています。局所加熱や急速加熱が可能かつ、加熱の大容量化も容易です。 |
電気は、熱エネルギーとしてではなく、圧縮機の動力源としてのみ使用される。大気の熱などを活用するため、消費電力の約3~6倍の熱を発生できます。そのため、省エネ・省CO2、ランニングコストを大幅に低減できます。 |
利用が可能な 温度帯 |
200℃ ~ 10,000℃超 |
-60℃ ~ 165℃ |
使用されている産業分野は、主に機械工場、鉄鋼・非鉄工場、電子デバイス工場、窯業工場、ゴム・プラスチック工場、化学工場、食品工場、紙パルプ・印刷工場、繊維・木材工場です。加えて、「マイクロ波加熱・高周波誘導加熱」は医療分野、「誘導加熱」「赤外線加熱」は建築・建設分野に、「アーク・プラズマ加熱」は清掃工場にも利用されます。
このように、産業分野でも様々な電気の利用方法があり、電気エネルギーを熱エネルギーに変換して利用する「エレクトロヒート」は、カーボンニュートラル実現に向けて、大きく期待されています。エレクトロヒートのキーテクノロジーは、もちろん電気工学です。
ご案内 第18回エレクトロヒートシンポジウムが今年も11月に開催されます(参加無料)
今回は学生の皆さんにも、産業電化「エレクトロヒート」を判りやすく解説するコーナーを作りました。
このボタンが目印
エレクトロヒートに関わる若手社員のインタビューを掲載。
出展企業のリクルートサイトへ直接アクセスできるページもあります。
ぜひ2023年11月1日(水)~11月30日(木)にWebにて開催されるエレクトロヒートシンポジウムにご参加ください!!
シンポジウムの入口はこちら→ URL:https://jehc-sympo.com/
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