宇宙で発電、地球へ送電。

2025年11月掲載

コンセントなどの有線接続を用いず、ケーブルなしで機器に電力を供給して充電できる技術がワイヤレス送電(ワイヤレス電力伝送)です。最近ではスマートフォンの充電などで身近になっており、宇宙空間から地上へワイヤレス送電を行う「宇宙太陽光発電」の研究も注目されています。

ワイヤレス送電が大注目

『身近な電気工学 第20回』で紹介したように、送電線やコードを使わない無線(ワイヤレス)による電力伝送が注目を集めています。近年は、スマートフォンをケーブルでつなぐ必要がなく、置くだけで充電できるQi規格(※1)対応のワイヤレス充電器が普及しつつあります。皆さんも「置くだけ充電」を使ったことがあるのではないでしょうか。さらに、電気自動車(EV)向けのワイヤレス給電も研究・開発が進んでおり、停車中だけでなく走行中の給電も構想されています。これらは新たなモビリティインフラとして期待されています。

(※1)Wireless Power Consortium(WPC)が策定した、ワイヤレス充電の国際標準規格

進化を続ける宇宙太陽光発電

大規模なワイヤレス送電として注目を集めているのが「宇宙太陽光発電(SSP※2)」です。地上約3万6000kmの静止軌道に配置した人工衛星で太陽光を受けて発電し、マイクロ波やレーザーで地上へ送電する構想です。

発電のメリットは、地上と比較して、昼夜・天候の影響を受け難く、かつ、強度の高い太陽エネルギーを利用することができるため、安定供給に貢献できることです。また送電のメリットは、将来的には電気機器への直接給電も期待されます。宇宙からのマイクロ波で直接、スマートフォンやEVへの充電が可能になる日が来るかもしれません。
一方で、巨大な施設の建設費や運用コストなど多くの課題があり、JAXA(宇宙航空研究開発機構)や企業、大学などで研究・開発が進められています。
近年は月面で発電して地球へ送電する「月面発電(月太陽発電)」も注目されています。各国の研究機関や民間企業(※3)が提案しており、月の資源を活用して大規模化できるメリットがありますが、人工衛星より地球まで遠く送電損失が大きいことや、月面開発・長期運用のための巨額コストなどが課題です。

スマートフォンのワイヤレス充電から宇宙太陽光発電まで、ワイヤレス送電には大きな可能性があり、電気工学など関連分野のさらなる研究・技術革新が求められます。

(※2)Space-based solar powerの略。1968年に米国で構想が発表されたのが最初と言われる
(※3)清水建設(株)が提案する月太陽発電「ルナリング」が挙げられる

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