シャーロック・ホームズのメールは、電報でした。

2015年8月掲載

文字で手軽にコミュニケーションがとれる、電子メール。現代社会に欠かせないツールですが、この電子メールの元祖といえば“電報”でしょう。あの有名なシャーロック・ホームズ物語(アーサー・コナン・ドイル著)に欠かせないアイテムである電報は、実は電灯よりもはやく、電気を実用目的に使って普及したサービスでした。

電報が発明されるまでの高速通信システムは"手旗"

シャーロック・ホームズが活躍した19世紀末のイギリスは、いまだ電灯ではなくガス灯の時代でした。そんなイギリスの首都・ロンドンへ、ホームズに送られる"電報"。イギリスだけでなく、他のヨーロッパ諸国やアメリカからも電報がやってきました(もちろんホームズ自身も国内外へ多くの電報を打っています)。

このようにどんなに離れていても、高速で目的の場所へ「メッセージ=文字」を送れるのが、電報の特徴です。電報とは、電気で信号を送る通信(電信)を利用した文章サービスのことで、電話が普及するまでは世界でもっとも主要な通信手段でした。ちなみに電報が発明される以前の通信手段のメインは手紙で、緊急の場合、ヨーロッパでは複数の腕木(うでぎ※1)を利用したり、日本では手旗による通信(※2)も行っていました。いかに電報の発明が革命的な出来事か、お分かりになるでしょう。

腕木通信

腕木通信

(※1)腕木通信とは、複数の腕木の位置の組み合わせによって情報を伝える通信方式。腕木の表す情報を、望遠鏡で確認してリレー方式で伝えた。広義の意味では手旗となる。
(※2)例えば、江戸時代中期では、全国の米価の基準であった大阪の米相場の上り下がりを、手旗によるリレー方式で各地域へ伝えていた。

電気で信号を送る「モールス通信」は、今日の情報化社会の基盤です

電報を送るときに使われる電気信号は、1837年にサミュエル・モールス(モールス信号)が発明しました。モールス信号の仕組みは、伝えたい文字を符号化(短点「トン(・)」と長点「ツー(-)」の2種類)して、電気の信号に変えて送るというものです。このような信号を使った通信を「電信」と呼んでいます。

モールス電信の仕組み

モールス電信の仕組み

モールス信号は、電流のオン・オフの間隔で、「長い」「短い」を表現する通信方式です。スイッチを短く押すと短点、長く押すと長点を表現できます。

実はTOPのイラストの中で、ホームズが見ているメール。
モールス信号で「パワーアカデミー」と意味していたのです。分かりましたか?

モールス信号の発明後、次々と海底ケーブルや国内回線が建設され、遠く離れていても、高速で情報のやりとりができるようになりました。また、その後の電話や無線通信システムにも応用されています。現在でもモールス信号の仕組みは、コンピューター通信に形を変えて残っており、もっとも初期のデジタル信号と言われる偉大な発明です。ホームズ物語で大活躍する電報は、現在のIT情報化社会の基盤であり、電気の大きな可能性を示すものと言えるでしょう。

この記事に関連する電気工学のキーワード

  • 電力機器
  • 超電導
  • IT

バックナンバー一覧

[2023年7月載] 第37回 人工知能と電気工学

人間も人工知能も「学習」と「電気」が不可...

[2022年11月載] 第36回 ヒートポンプの応用

熱エネルギーの「もったいない」を減らそう...

[2022年7月載] 第35回 避雷針の仕組み

避雷針は、雷を避けるのでなく誘うもの。

[2021年11月載] 第34回 虫めがね実験と太陽熱発電

太陽の「光」ではなく、「熱」で発電する方...

[2021年7月載] 第33回 ごみ発電のメリット・デメリット

「燃えるごみ」で発電しよう!

[2020年12月載] 第32回 引力と潮力発電

なんと、潮の満ち引きで発電できた!

[2020年7月載] 第31回 生体の電気現象と医療機器

人のカラダの中には、弱い電気が流れている...

[2019年12月載] 第30回 静電気の利用

コピー機は、 冬の天敵・静電気を利用して...

[2019年7月載] 第29回 太陽とプラズマ

宇宙にも天気予報があった!

[2018年12月載] 第28回 マイクロ波の利用

電子レンジは、なぜ食べ物をあたためられる...

[2018年7月載] 第27回 環境発電(エネルギーハーベスト)とは

小さなエネルギー、収穫しませんか?

[2017年12月載] 第26回 電車が動く仕組み

電車が、電線1本で走れる理由。

[2017年8月載] 第25回 雷の不思議

なぜ、カミナリはジグザグに落ちていくのか...

[2016年12月載] 第24回 地球とプラズマ

オーロラの光の正体、それは?

[2016年7月載] 第23回 電気魚の不思議

電気ウナギは、なぜ電気を出せるのか?

[2015年12月載] 第22回 モーターと回生ブレーキ

時速270kmの新幹線は、発電しながら止...

[2015年8月載] 第21回 電気通信の仕組み

シャーロック・ホームズのメールは、電報で...

[2014年12月載] 第20回 電気の未来社会

未来は、コードやケーブルがなくなる?

[2014年8月載] 第19回 スピーカーとフレミングの法則

テレビの音を小さくすると、節電になるのか...

[2014年1月載] 第18回 電気のトリビアその3

身近な電気のフシギ、集めました

[2013年11月載] 第17回 電気のトリビアその2

ちょっと得する電気の雑学、集めました

[2013年9月載] 第16回 電気のトリビア

暮らしの中の電気トリビア、集めました

[2013年3月載] 第15回 野球と電気エネルギー

万能選手!電気は多才なエネルギー。

[2012年9月載] 第14回 オリンピックと電気工学その2

バレーも電力もIT管理。

[2012年7月載] 第13回 オリンピックと電気工学その1

水泳も送電も抵抗をなくそう!

[2012年5月載] 第12回 震災と電気工学その3

電気工学的、節電とは?

[2012年1月載] 第11回 震災と電気工学その2

電気は、本当に貯められないのか?

[2011年11月載] 第10回 震災と電気工学その1

周波数変換の謎、徹底解剖。

[2011年6月載] 第9回 LED照明のメリット/デメリット

いま流行(はやり)のLED照明とは、何も...

[2010年12月載] 第8回 電力系統と駅伝

電力も駅伝も、最適配置で勝負。

[2010年9月載] 第7回 医療機器応用の歴史

日本最古の電気機器「エレキテル」は、医療...

[2010年4月載] 第6回 人工衛星と太陽電池

世界ではじめての太陽電池は、人工衛星に積...

[2010年4月載] 第5回 宇宙船と燃料電池

2010 年、宇宙の旅のおともに「燃料電...

[2009年12月載] 第4回 ヒートポンプと打ち水

ヒートポンプの元祖は、「打ち水」でした。

[2009年5月載] 第3回 電気自動車とミニ四駆

電気自動車は実物大"ミニ四駆&...

[2008年10月載] 第2回 パワーエレクトロニクスとボランチ

サッカーと電力の舵を取れ!

[2008年7月載] 第1回 超電導と浮遊術

ハリーポッターの空飛ぶホウキと超電導体

すべて表示する

5件だけ表示

サイトの更新情報をお届けします。

「インタビュー」「身近な電気工学」など、サイトの更新情報や電気工学にかかわる情報をお届けします。

メールマガジン登録


電気工学を知る