水泳も送電も抵抗をなくそう!

2012年7月掲載

ついにロンドン五輪が開催されました!日本のメダルラッシュの期待が高まるのが、競泳陣。前人未踏の大偉業となる「二冠・三連覇」に挑む北島康介選手を筆頭に、男女とも精鋭ぞろいです。
北島選手をはじめとして、近年の競泳の高速化は目を見張るものがありますが、その要因のひとつとして、競泳水着が改良されて水の抵抗を減らしたことが挙げられています。低抵抗化は電力の世界、特に送電分野でも大きなテーマです。

記録ラッシュの陰に水の抵抗の低減

高速水着

4年前の2008年の北京五輪で話題になった「高速水着」を覚えているでしょうか。アメリカのスピード社が開発した『レーザー・レーサー』は、参加選手のほとんどが着用。世界新記録が続出しました。そのため、国際水泳連盟は2009年7月に、公式大会に使用できる競泳水着の形や素材の規制を発表したほどでした。

レーザー・レーサーをはじめとする、近年の高速水着のスピード化の秘密は、一言で言えば、水の抵抗を減らしたことによるものです。流体である水の中を泳ぐときは、必ず抵抗が生まれます。高速水着は、体全体を締め付けて、体積を小さくすることで水の抵抗を減らしています。また水着の素材自体を向上させて、抵抗を低減する取り組みも行われています。その結果、レーザー・レーサーをはるかにしのぐ、水をほとんど通さないラバー素材までも開発されました(国際水泳連盟により2009年7月より着用禁止)。

電気抵抗による送電ロスをどうやって減らすか?

電力の送電線の世界も、抵抗を小さくして、送電ロスを減らすことが大きなテーマです。どんなに電気を通しやすい電線でも、電気抵抗があって、電気エネルギーの一部が熱(ジュール熱)となって空中に逃げてしまいます。これを送電ロスと言い、大量のエネルギー損失につながります。そのため、様々な送電ロスの対策が行われています。

高電圧送電

高電圧で電気を送ることも送電ロス対策のひとつです。発電所でつくられた電気は、27万5000V~50万Vという高い電圧で送り出されます。家庭で使われている電圧は、100V/200Vですから、不思議だと思いませんか?これは、高電圧を用いるほど、送電の途中で失われる電気エネルギーを抑えられるからです。

例えば、送電線の抵抗や電源、電気の使用する値を下記図のように簡略化して、送電ロスを見てみます。電圧100kVと1000kVを比較した場合、電圧を10倍に高くすると、電流が1/10と小さくなるので、送電ロスは元の1/100と大変小さくなります。

送電によるロスの違い

詳細は、高校理科と電気工学「エネルギーを発見したジュール」をご覧ください。

電線の太線化(ふとせんか)と抵抗率の低い材料の使用

また送電ロスを小さくする方法は、オームの法則からも分かるとおり、抵抗は面積に反比例するので、送電線を太くしたり、送電線により抵抗率の低い材料を使うなどの方法もあります。

下記図は、一般的な送電線の断面です。外側がアルミ線です。アルミは銅より抵抗率が高いのですが、加工しやすく、軽いので送電線の材料として多く使われています。中心部分には亜鉛メッキ鋼線を使い、ひっぱる力にも耐えられるようにしています。

電気は、主にアルミ線の部分に流れるので、この部分の抵抗率を低減する努力が必要です。これと同時に、送電ロスにより発生する熱に耐えられ、加工しやすい材料でなければならず、日々の研究が続けられています。

鋼心アルミより線(ACSR)の断面

送電線の一例:鋼心アルミより線(ACSR)の断面

超電導ケーブル

三心一括型高温超電導ケーブルの世界初の長期試験の様子

2002年に実施された、三心一括型高温超電導ケーブルの世界初の長期試験の様子(住友電工HPより)。詳細は「社会人インタビュー 住友電工」をご覧ください。

さらに、送電ケーブル自体の性能を向上させて、電気抵抗を抑える取り組みも行われています。代表的な研究として、「超電導ケーブル」が挙げられます。これは簡単に言えば、電気抵抗が限りなくゼロになるという、超電導の特性を送電ケーブルに応用するというもの。実現すれば、送電電力の大きな省エネルギー化となります。また、CO2の発生の抑制にもつながります。現在、電気工学系の様々な研究室や企業(電機メーカー)が中心となって取り組んでおり、一刻も早い実用化が待ち望まれています。

まとめ

"抵抗を減らす"ということは、一般的にはなじみが薄い概念かもしれません。しかし競泳の例を見れば分かる通り、スポーツに限らず、機械、自動車など流体力学に関連する分野で技術テーマになっています。一方、電気の"抵抗を小さくする"取り組みは、電気工学が中心となって行われており、省エネルギー社会の実現に大きく寄与します。東日本大震災以降、その重要性はますます増しており、さらなる発展が望まれます。

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