未来は、コードやケーブルがなくなる?

2014年12月掲載

いわゆる“たこ足配線”に象徴されるように、電源のコードやケーブルはわずらわしく、事故の原因にもなりかねません。現在でも携帯電話のワイヤレス充電をはじめ、様々な電気機器のコードレス化が進んでいますが、未来の私たちの生活ではもっと色々なものが「非接触で給電」できると言われています。

電磁誘導の法則で生まれた、実は身近にある「非接触給電」

非接触給電(※1)とは、端子やコネクタなどの金属接点を介さずに、空間を通してコードレスで電力を伝送する技術です。身近な例としては、携帯電話や電動歯ブラシ、電気シェーバーなどに応用されており、充電器の上に機器を置いたり、近づけておくだけで電力が供給され充電ができる製品があります。また、非接触で料金の支払いができるSuicaなどのICカードも、非接触給電技術が用いられています。
これらはすべて、ファラデーの電磁誘導の法則を原理として生まれた製品です。2つのコイルの一方に電流を流すと、もう一方のコイルにも電流が流れ、離れていても電気を流すことができるというわけです。

非接触給電の仕組み 「電磁誘導式」の非接触給電。最近では、携帯電話の充電用パットで、デジカメやPCも充電するといったことも可能になっています。

(※1)ワイヤレス給電や電力無線伝送とも呼ばれる。

非接触給電でコンセントがない社会がやってくる!

従来の電磁誘導の法則に基づいた非接触給電は、電力伝送の効率が悪く、近距離(数mm~数cm)での送電しかできなかったため、主に低消費電力で充電できる小型電気機器に使用されていました。
ところが、2007年にアメリカのMIT(マサチューセッツ工科大学)が発表した磁気共鳴方式(※2)により、非接触給電は大きな進化を遂げることになります。数m規模の中距離に対して給電の可能性を実証したのです。現在、非接触給電は大きな注目を浴びており、未来へ向けて様々な分野で研究がなされています。

非接触給電の未来の可能性

非接触給電の未来の可能性

(※2)磁気共鳴方式とは、送電側のコイルと受電側のコンデンサの共振器を磁界共鳴させて、電力を伝送する方式である。この他に、宇宙太陽光発電に使用される、電力を電磁波に変換して送受信する「電波方式」がある。

非接触の未来社会へ向けて、電気工学の研究が重要になる

現在の非接触給電に関する大きなトピックスは、電気自動車(EV)へ給電を行う給電ステーションの応用です。EVを停めておくだけで給電が可能で、給電ステーションのさらなる発展を促し、EVの普及に大きく寄与します。また、スマートグリッドをはじめとする新たなエネルギー社会の実現にも貢献します。さらに、走行中や停車中でも給電できる非接触給電システムの研究・開発も行われています。EVだけでなくひょっとしたら、未来はすべての電気機器がコードやケーブルを使わずに、電力が供給されるのではないでしょうか。この非接触給電の研究は電気工学の研究者が中心となって、未来の電気社会の実現へ向けて取り組みが進められています。そこで将来、大きな役割を果たしそうな研究を、パワーアカデミーのインタビューコーナーから一部、ご紹介しましょう。

ワイヤレス電力伝送の電力変換回路の研究

ワイヤレスにすることによって、電気自動車を駐車場に停めておくだけで充電できるようにするのが最終目標です。

学生インタビューvol.24 長岡技術科学大学 日下佳祐さん 

「ワイヤレス電力伝送は、高周波で電力を送る必要があることから、受電側(EV側)ではバッテリーを充電するために高周波の交流から直流へ電力を変換する回路が必要です。私の研究は、この高周波の交流から直流への変換を高効率に行う回路を開発することです。」

※一部を抜粋。 全文はこちら。

走行中電気自動車への非接触給電方式の研究

走行中電気自動車への非接触給電方式

図1.走行中電気自動車への非接触給電方式

研究助成2010年度採択者インタビュー
富山大学 伊藤弘昭准教授

「本研究では、走行中の電気自動車への非接触給電法として、電磁誘導を利用して短時間にエネルギーを転送するパルス給電法を提案し、その実現に向けて実証実験を行っています。」

※一部を抜粋。 全文はこちら。

この記事に関連する電気工学のキーワード

  • 電力機器
  • 蓄電池

バックナンバー一覧

[2023年7月載] 第37回 人工知能と電気工学

人間も人工知能も「学習」と「電気」が不可...

[2022年11月載] 第36回 ヒートポンプの応用

熱エネルギーの「もったいない」を減らそう...

[2022年7月載] 第35回 避雷針の仕組み

避雷針は、雷を避けるのでなく誘うもの。

[2021年11月載] 第34回 虫めがね実験と太陽熱発電

太陽の「光」ではなく、「熱」で発電する方...

[2021年7月載] 第33回 ごみ発電のメリット・デメリット

「燃えるごみ」で発電しよう!

[2020年12月載] 第32回 引力と潮力発電

なんと、潮の満ち引きで発電できた!

[2020年7月載] 第31回 生体の電気現象と医療機器

人のカラダの中には、弱い電気が流れている...

[2019年12月載] 第30回 静電気の利用

コピー機は、 冬の天敵・静電気を利用して...

[2019年7月載] 第29回 太陽とプラズマ

宇宙にも天気予報があった!

[2018年12月載] 第28回 マイクロ波の利用

電子レンジは、なぜ食べ物をあたためられる...

[2018年7月載] 第27回 環境発電(エネルギーハーベスト)とは

小さなエネルギー、収穫しませんか?

[2017年12月載] 第26回 電車が動く仕組み

電車が、電線1本で走れる理由。

[2017年8月載] 第25回 雷の不思議

なぜ、カミナリはジグザグに落ちていくのか...

[2016年12月載] 第24回 地球とプラズマ

オーロラの光の正体、それは?

[2016年7月載] 第23回 電気魚の不思議

電気ウナギは、なぜ電気を出せるのか?

[2015年12月載] 第22回 モーターと回生ブレーキ

時速270kmの新幹線は、発電しながら止...

[2015年8月載] 第21回 電気通信の仕組み

シャーロック・ホームズのメールは、電報で...

[2014年12月載] 第20回 電気の未来社会

未来は、コードやケーブルがなくなる?

[2014年8月載] 第19回 スピーカーとフレミングの法則

テレビの音を小さくすると、節電になるのか...

[2014年1月載] 第18回 電気のトリビアその3

身近な電気のフシギ、集めました

[2013年11月載] 第17回 電気のトリビアその2

ちょっと得する電気の雑学、集めました

[2013年9月載] 第16回 電気のトリビア

暮らしの中の電気トリビア、集めました

[2013年3月載] 第15回 野球と電気エネルギー

万能選手!電気は多才なエネルギー。

[2012年9月載] 第14回 オリンピックと電気工学その2

バレーも電力もIT管理。

[2012年7月載] 第13回 オリンピックと電気工学その1

水泳も送電も抵抗をなくそう!

[2012年5月載] 第12回 震災と電気工学その3

電気工学的、節電とは?

[2012年1月載] 第11回 震災と電気工学その2

電気は、本当に貯められないのか?

[2011年11月載] 第10回 震災と電気工学その1

周波数変換の謎、徹底解剖。

[2011年6月載] 第9回 LED照明のメリット/デメリット

いま流行(はやり)のLED照明とは、何も...

[2010年12月載] 第8回 電力系統と駅伝

電力も駅伝も、最適配置で勝負。

[2010年9月載] 第7回 医療機器応用の歴史

日本最古の電気機器「エレキテル」は、医療...

[2010年4月載] 第6回 人工衛星と太陽電池

世界ではじめての太陽電池は、人工衛星に積...

[2010年4月載] 第5回 宇宙船と燃料電池

2010 年、宇宙の旅のおともに「燃料電...

[2009年12月載] 第4回 ヒートポンプと打ち水

ヒートポンプの元祖は、「打ち水」でした。

[2009年5月載] 第3回 電気自動車とミニ四駆

電気自動車は実物大"ミニ四駆&...

[2008年10月載] 第2回 パワーエレクトロニクスとボランチ

サッカーと電力の舵を取れ!

[2008年7月載] 第1回 超電導と浮遊術

ハリーポッターの空飛ぶホウキと超電導体

すべて表示する

5件だけ表示

サイトの更新情報をお届けします。

「インタビュー」「身近な電気工学」など、サイトの更新情報や電気工学にかかわる情報をお届けします。

メールマガジン登録


電気工学を知る