ヒューズ開発の大きなブレークスルーに/名古屋大学 大学院 兒玉 直人 助教

2023年7月掲載

研究者名古屋大学 兒玉 直人 助教

※上記肩書きは、採択時のものです
また本HPでの当該情報の公開についてご了承をいただいている題目のみ掲載しています。

材料の元素と熱プラズマの電子の相互作用に注目して、熱プラズマの効果的な消滅を可能にする窒化物系材料を選出。模擬ヒューズの遮断性能の向上という結果が得られました。

研究を軌道に乗せる資金として

Q.「パワーアカデミー研究助成」に応募したきっかけをお教え下さい。

パワーアカデミー研究助成については学生時代の指導教員が過去に特別推進研究に採択されたこともあり、その存在自体は知っていました。実際の応募は、現在、研究チームを組んでいる先生の一人が、私にも勧めてくれたことがきっかけです。
採択を頂いたのは、「直流回路の保護に用いられる限流ヒューズを、ヒューズに用いられている材料の観点から高性能化しよう」という研究でした。この研究分野は未だ理論体系が整備されておらず、取り組み始めたばかりの当時は研究に必要となるものがその時々で大きく変化し得る状況でした。
そのため、この研究を軌道に乗せるために資金運用の自由度が高い外部資金の獲得が必要不可欠でした。パワーアカデミー研究助成の資金は非常に使いやすいとお聞きしており、かつ、私の研究は熱プラズマを電気工学に役立てるという方向性のため、パワーアカデミーの助成目的にも合致しているかと思いましたので、応募をさせて頂きました。

伝統的な珪砂に代わる材料を見出す

Q.研究内容をお教え下さい。

現在、再生可能エネルギーの導入を進める上での課題の一つが、直流の系統を安全に保護することです。電気的な事故が発生した時に直流系統を安全に保護できる設備がなければ、我々が安心して電気を使用することはできません。私の研究では、直流回路保護用の限流ヒューズに焦点を当てています。回路保護動作中の限流ヒューズ内では、高温(数千度~数万度)の熱プラズマが生じます。この熱プラズマを効率的に消滅させることが、ヒューズの高性能化に繋がります。熱プラズマを消滅させる材料として、これまでは数十年間、珪砂が用いられていました。今回の研究では、材料の固体時の物性(電気の絶縁性や熱の放熱性)や気化した時の物性(熱プラズマ内の電子と材料を構成する元素の相互作用)を包括的に考慮することで、珪砂以上に熱プラズマの効率的な消滅が可能な材料を見出しました。

ハイブリッド限流遮断器の実現へ

Q.現在までの研究成果と今後の展開についてお教え下さい。

今回の研究成果では、材料に含まれる元素と熱プラズマに含まれる電子がどのような相互作用をするかという点に注目して材料を選定した結果、窒化物系の材料を選定することができました。選定した材料を実際に模擬ヒューズに用いて実験をした結果、模擬ヒューズの遮断性能が向上するような結果が得られました。これは、数十年にわたるヒューズの開発の中で、一つの大きなブレイクスルーになるのではないかと思っています。 今回の助成により得られた研究成果を基に、現在は、NEDOの先導研究プログラム/未踏チャレンジ2050の中で限流ヒューズの高性能化、実用化、および限流ヒューズを併用したハイブリッド限流遮断器の実現に向けた研究を進めています。今後、ヒューズの遮断性能を更に向上可能な材料の選定や、この分野の体系化ができたらと考えています。

物理や化学、情報工学の知識も活きる

Q.最後にひとことお願いします。

限流ヒューズは直流保護のために非常に重要な素子の一つですが、内部で起こる現象の解明の難しさから技術発展が中々進まない分野だと思います。そのような中で、パワーアカデミーに支援いただいたことで、限流ヒューズ技術の発展に大きく寄与できる見通しが得られ、今後の自身の研究の基盤にもなり得る成果が出せたことを非常に喜ばしく思います。今後も、今回の研究成果を基に、更なる発展を続けていきます。 「電気工学」というと電気回路(系統)だけを取り扱うイメージもあるかもしれませんが、実は情報科学分野なども柔軟に取り入れる懐の深さがあります。私の研究の様に電気回路(系統)を安全に使うために物理や化学の知識を幅広く融合させることができるのも、電気工学の面白さだと思います。電気工学を中心に多様な分野を取り入れることで、現在の様々な社会問題を解決することができますので、学生の方にはどんどん新しいことに挑戦をしてもらいたいと思います。


電気工学の未来