自然と調和した、東北独自の電力システムをつくりたい 東北大学大学院工学研究科 斎藤 浩海教授

電力システムの安定性と、最先端の電力システムの研究を行う

斎藤先生の研究内容を教えてください。

「情報通信技術を活用して電力ネットワークを高機能化させる研究を行っています」と語る斎藤教授

斎藤:大きく分けて3つあります。1つめは「広域電力ネットワークのリアルタイム安定性評価」です。

簡単に言えば、電力システムの安定度の評価、監視を目的とした研究です。学生時代から東北電力の電力システム部の解析グループと共に、約25年以上にわたって行っています。 2つめは、「分散型電源と電力ネットワークの協調制御・運用」です。分散型電源、つまり太陽光発電や風力発電の出力は、天候などにより変動するため、電力ネットワークの電圧や周波数に悪い影響を及ぼす可能性があります。この問題を解決するために、情報通信技術を活用して電力ネットワークを高機能化させる研究を行っています。最近、よく聞く"スマートグリッド(※)"に近い研究です。私は今から20年ほど前からはじめましたが、"開放型電力ネットワーク"という名前を使用していました。

3つめは、2つめの延長にあるのですが、電気を供給する側と電気を使う側が協力しながら、再生可能エネルギーなどをうまく使っていくための技術に関する研究を行っています。

  • ※斎藤先生は、スマートグリッドに関して東北大学のサイエンスカフェというセミナーで、一般の方向けに講義も行っています。詳細は下記をご覧ください。
    http://www.tohoku.ac.jp/cafe/event/fukushima/

震災発生から現在までの大学の状況は

震災が発生した当時のことを教えてください。

斎藤:まず震災発生前から、東北大学では宮城県沖地震の対策を準備していました。というのは、宮城県地震が30年以内に90数%の確率で来ると予測されていたからです。また、3月11日の2日前、3月9日には、震度4の地震がありました。今から思うと、前震でした。

そして、3月11日。私は昨年度から就職担当をつとめていまして、震災発生当時は、総合研究棟の9階の教授室で数名の学生と面談をしていました。ちょうど面談の真っ最中でした。

震災発生当日から、その後の様子をお教え下さい。

「隣に8階建ての建築系の学科が入っている建物(人間・環境系 研究棟)があるのですが、ねじれているのが見えたのです」と語る斎藤教授

斎藤:とにかく驚いたのは、揺れが本当に長かったことです。それから、隣に8階建ての建築系の学科が入っている建物(人間・環境系 研究棟)があるのですが、ねじれているのが見えたのです。冗談ではなく、ゆっくりぎゅーっと、ねじれていました。 しばらくたって揺れが収まった後は、教授室に居た秘書と学生とともに地震発生時の避難マニュアルにそって全員で駐車場に集まりました。ただ、駐車場に立っているときでも、3回ぐらい凄い地震がありました。周囲の建物のガラスがみんな「バシン!バシン!」と鳴るほどです。異常事態が起きていると確信しました。

震災当日は、帰れる人は帰りました。私は大学の近くに住んでいるので、歩いて帰りました。幸いにも、私が住んでいる仙台市の中心部は比較的被害が少なくて、有り難いことに私の自宅のある町内の水道は1日も止まりませんでした。自宅も被害はほとんどありませんでした。

震災発生から現在までの大学の状況を教えてください。

「5月中旬から、私の研究室では、研究ができるようになりましたが実験を主にやっている研究室は、現在もまだ日常の研究ができていません」と語る斎藤教授

斎藤:私自身は、震災の翌日から毎日、大学へ来ました。大学では、私たちの研究室がある総合研究棟を震災の対策本部として、学生の安否確認から始まって、様々な対応を行いました。総合研究棟に本部を置いたのは、唯一この建物だけが被害がなかったからです。そのため、総合研究棟には、約200人の学生や緊急対応の工学研究科長などが1週間ぐらい泊まっていました。みんな自宅へも帰れないし、帰っても水や食料のことを考えると大学へ居たほうが良いと判断したからです。最終的には卒業式も行わないこととなり、すべての学生に一時的に実家に戻るように大学から指示が出ました。それが3月から4月にかけてです。

5月中旬から、私の研究室では、研究ができるようになりました。計算機シミュレーションが主体なので電気が復旧すれば、PCを使えるので研究ができるからです。しかし、実験を主にやっている研究室は、現在もまだ日常の研究ができていません。というのは建物の中に実験装置があるのですが、危なくて入れないので取り出せないのです。また、大学の実験装置というのは自分たちが開発した特注品のようなものなので、標準の装置を買うことでは実験を再開できません。8月ぐらいから、少しずつ実験装置を取り出せるようにはなってきていますが。。。

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