第14回 オリンピックと電気工学その2
身近な電気工学 第14回 オリンピックと電気工学その2
バレーも電力もIT管理。
"コートの中のITマネジメント"でメダルをつかむ!
女子バレー日本チームの快挙の要因のひとつに、"ITバレー"を導入したことが挙げられています。代表監督の真鍋政義氏が米アップル社のタブレット端末「iPad」を手に持って、コートの中で叱咤激励する姿が、印象深い方も多いでしょう。
この日本の"ITバレー"について、簡単に仕組みを説明します。バレーボールでは、監督がコンピューターをベンチに持ち込むことが許されています。ベンチサイトで、コーチの指示により、試合中にアナリストが選手のデータをPCへ入力、監督のタブレットPCへ最適なデータを送ります。例えば、「スパイクやサーブレシーブなどの成功率」や「サーブレシーブのミス本数」、「セッターに返した位置別のスパイク決定率」などが即座に数値化して表示されるのです。監督自身は、試合中に端末を操作する必要はなく、タブレットPCに表示される統計データだけを見て選手に指示を出します。また試合中だけでなく、試合前後の戦略資料としても有効です。まさにコートの中のITマネジメントを成功させたと言って良いでしょう。
新たなエネルギー制御を実現するITマネジメント
女子バレーのITマネジメントのように、電力の世界でも、IT(※1)を用いて家庭やビル、工場などのエネルギー使用をマネジメントするシステムが注目を集めています。これをEMS(エネルギーマネジメントシステム:Energy Management System)と言います。
EMSの代表としては、家庭を対象として導入が始まっている「HEMS(H=ホーム)」と、オフィスビルなどを対象として広く使われている「BEMS(B=ビルディング※2)」などがあります。基本的な仕組みは同じで、その規模や目的のレベルによって機能や性能が異なります。
ここでは、HEMS(Home Energy Management System)をご紹介します。下記図をご覧になれば分かる通り、家庭内のエネルギーを消費する機器をネットワークで接続します。これにより、機器の稼動状況やエネルギー消費状況を監視・可視化することで電気の使用量を常に知ることができるので、節電やCO2削減にとても役立ちます。また、太陽光発電や電気自動車の蓄電池(バッテリー)といった新しいエネルギーと協調することも可能となります。コート内で選手の動きを監督がタブレットPCひとつで分かるように、一般の需要家も家庭内の電気の動き(使用量)が全てHEMSで分かり、最適な指示が送れるようになるわけです。
(※1)2006年に総務省はIT(Information Technology)をICT(Information&Communication Technology)と言い方を変更したが、本記事ではITという言葉で統一する。尚、諸外国ではすでにICTという言い方が一般的と言われている。
(※2)Building Energy Management Systemの略。ビル内のエネルギー消費する機器をネットワークで接続し、稼動状況やエネルギー消費状況を監視し、省エネ・効率化を図るシステムのこと。導入する企業(ビル)は多い。
ITでスマートな社会を電気工学で実現しよう!
このようなITによるエネルギーマネジメントシステムは、もっと大きな電力の系統にも生かされていて、スマートグリッドやマイクログリッドなどの新しい電力系統と共に、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーの大量導入にも新たな力となるはずです。また、このITは交通システムや、家庭、オフィスビル、工場など、社会全体をさらに便利にし(スマート化し)、"スマートコミュニティ"と呼ぶ新たな社会を作っていくと思われます。これらは、現在の電気工学の重要な研究テーマです。パワーアカデミー研究助成の基礎となる「研究マップ」のテーマでもあり、電気工学のさらなる発展により実現可能となるでしょう。
【研究マップのテーマ(抜粋)】
A:「先進型電力システム」のために/新たなグリッド技術の開発
- 再生可能エネルギーと基幹系電源との協調を目指した新たなグリッド技術(日本型先進的スマートグリッド技術)の開発
- 電力・情報通信融合型ネットワーク(ユビキタスパワーネットワーク、分権型電力供給システムなど)
- IT技術、高速通信技術などの基礎技術の高度化・高信頼化
- 双方向通信技術
- 配電系電圧制御手法の高度化、次世代電圧制御技術の開発
B:「更なる高度エネルギー利用」のために/エネルギー管理システム、省エネ評価手法
- 需要家サイドのエネルギー・マネジメント(HEMS、BEMS、地域EMS)
- スマートメーター※3
- デマンド・レスポンス※4
(※3)スマートメーターとは 双方向通信機能や遠隔開閉装置機能などを持つ電力メーターを含んだシステムのこと。
(※4)デマンド・レスポンス(Demand Response)とは 日本語では「需要応答」と訳される、電力網における需要(デマンド、特にピーク需要時)に応答して顧客が電力消費を低減したり、他の需要家に余剰電力を供給することを指す。
バックナンバー
サイト更新情報をお届け
「インタビュー」「身近な電気工学」など、サイトの更新情報や電気工学にかかわる情報をお届けします。