第11回 震災と電気工学その2

電気は、本当に貯められないのか?

身近な電気工学 第11回 震災と電気工学その2

電気は、本当に貯められないのか?

電気は「生モノ」だから、貯められない!?

電気はよく「生モノ」だから、貯められないと言われます。これは正確に言うと、「安く、大量に貯めておくのが難しい」という意味です。家庭においては、少ない電気ならば、身近にある乾電池やバッテリーに貯めることができます。しかし、社会全体で使う膨大な量の電気をすべて貯めておくことは、現在の技術では事実上、不可能と言わざるを得ません。

●家庭で使う電気を単3乾電池で賄うと1日50万円!

これを詳しく説明すると、電気を貯める為には、一旦別のエネルギーに変換する必要があります(※)。この変換時にはエネルギーのロスが発生するため、大量の電気を貯蔵するには、エネルギーロスも大量に発生し、大きなコストがかかります。そのため、社会全体を賄う電気を貯めるには、莫大なコストと広大な敷地が必要となり現実的ではありません。身近な例では1日に家庭で使う電気を単3乾電池で賄うと、約5000本も必要になり、乾電池1本100円とすると、1日50万円もかかる計算です。

ちなみに、家庭やオフィスで使っている電気は、光と同じ秒速30万㎞の速さで発電所から届いたものです。これは、1秒で地球を約7周半できる速さです。今、皆さんを照らしている照明の電気は、まさにたった今、発電所で生まれたものと言えます。電気は、まさしく「生モノ」なのです。

(※)一部の機器では電気を直接貯めることもできます。

電気を貯める取り組み

とはいえ、電気を大量に貯めることは、今回の震災のような緊急時の備えや、次世代の電力システムなどに大きく貢献する、重要な技術課題であることは間違いありません。今回は、「電気を貯める」取り組みについていくつかご紹介します。

揚水式発電

揚水式発電は、発電所の上部と下部に大きな調整池をつくり、電力供給に余裕のある夜間帯に水を汲み上げ、昼間帯にその水を利用して発電します。電気を水の位置エネルギーとして蓄えています。電気量は元の7割程度に減りますが、余った電気によって貯めることができ、電力系統を安定的に保つことに役立っています。現状の揚水式発電の供給量は2600万キロワット(2010年度最大電力の15%)程度あります。様々な制約により、一度に全ての揚水式発電は使えませんが、主に需要のピーク時に使用され、今回の東日本大震災でも活躍しました。

揚水式発電の仕組み

電気自動車

東日本大震災以降、電気自動車(EVカー)を、家電などと接続できる電源車として使う取り組みが急ピッチに進んでいます。例えば、日本初の量産型・電気自動車の三菱自動車i-MiEV(アイ・ミーブ)は、蓄電池に一般家庭の1日~1.5日分の電力を蓄える事ができ、災害時の非常用電源としての利用が期待されています。

揚水式発電の仕組み

電気自動車/アイ・ミーブ

NAS電池

NAS電池(ナトリウム(Na)・硫黄(S)電池)とは、繰り返し使用できる二次電池で、メガワット級の電力貯蔵システムです。大容量、高エネルギー密度、長寿命を特長とし、鉛電池の約3分の1のコンパクトサイズで、長期にわたって安定した電力供給が可能です。ただし大型の電池であるため、家庭用としては難しく、ビルや工場向けに開発されています。また、NAS電池の特性上、高温状態で使用するため補機として温度維持のための保温装置が必要です。

超電導電力貯蔵(SMES)

SMES(Superconducting Magnetic Energy Storage) は、超電導の電気抵抗がゼロという特性を活かして、電気を直接超電導コイルに磁気エネルギーとして貯蔵するものです。電気を直接貯蔵することで、高い貯蔵効率で大電力を素早く供給することができます。大容量の電力を瞬時に繰り返し充電・放電することができるなど、従来の技術をはるかに超える優れた特長を有しており、これが実用化されると、電力ネットワーク制御用として極めて有望な機器となります。

Q3 まとめ

東日本大震災以降、このように、様々な電気を貯める取り組みが進んでいます。経済産業省でも蓄電池戦略プロジェクトチームが設置され、多様な面での活用を検討しています。しかし、まだまだ多くの技術課題が残されているのも現実です。その課題を1つ1つ解決するためには、キーテクノロジーとなる電気工学の一層の発展が必要なのです。

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