第3回 電気自動車とミニ四駆

電気自動車は実物大"ミニ四駆"

身近な電気工学 第3回 電気自動車とミニ四駆

電気自動車は実物大"ミニ四駆"

日本中が熱狂!国民的ホビー「ミニ四駆」

ミニ4駆(C)TAMIYA

おそらく皆さんも、子供の頃、一度は遊んだことがあるのではないでしょうか。ミニ四駆とは、株式会社タミヤから発売されている、動力付き自動車模型シリーズです。80年代・90年代と二度に渡って大ブームが起き、『ダッシュ!四駆郎』、『爆走兄弟レッツ&ゴー!!』といったミニ四駆を取り上げた漫画も大ヒット。アニメ化もされ、多くの小学生が熱中しました。2005年には、累計販売台数1億7000万台を突破。現在では、親子2代に渡ってのファンも多く、国民的ホビーと言ってよいでしょう。

ミニ四駆を高速化させた、高性能モータの登場

ミニ四駆が、これほどまでの大ヒットを記録した理由としては、(1)高速走行ができるメカニズム、(2)数百円台と安価、(3)はめ込み式で簡単に製作できること、(4)アニメ・漫画とのタイアップ、(5)かっこいいデザイン、(6)専用レーシング場でのイベント開催、などが挙げられますが、一番大きな理由は、主要ユーザーである小学生が自分で改造できることだと言われています。

ミニ四駆の動力源は、基本的に、単3形乾電池2本とFA-130サイズのモータ1個のみです。また、はめ込み式なので各パーツの交換が容易にできます。タイヤ、ホイール、モータ、ギア、シャフト・・・、これら全てを自由に変えることによって、性能アップがはかれることが小学生達の心を掴みました。特に走りの速さに直結するモータの高性能化は、誰もが競いあいました。「ミニ四駆はオモチャじゃねえ!レーシングマシンだ!」これは『ダッシュ!四駆郎』の主人公・四駆郎が発する決めゼリフです。

さて、こうした子供達の心を掴んだミニ四駆の魅力をそのままに、実物大になったかのような新たな自動車が、今大きな注目を集めています。それが、ミニ四駆と同じくエンジンなどの内燃機関を使用せずに、電気を動力源としてモータ駆動する"電気自動車"です。

環境を守り社会を変える、夢の車「電気自動車」

EVの仕組み

動力装置は、モータ、バッテリー、コントローラ(動力制御装置)などから構成されています。

電気自動車(※)とは、積載したバッテリー(繰り返し充放電できる二次電池)でモータ走行するクルマ(PureEV)です。ガソリンエンジン・ディーゼルエンジンなどの内燃機関を搭載した自動車とは違い、有害ガスや二酸化炭素を出さないため、環境にやさしいのが特徴です。

また、もし電気自動車が普及すれば、環境面だけでなく、私たちの生活においても様々なメリットをもたらすと言われています。例えば、緊急医療の効率化です。現在、病院の中を救急車が入ることはできず、患者を一度、玄関口で降ろす以外方法がありません。

しかし、電気自動車の救急車ならば、排気ガスを出さないため、そのまま病院の中に入ることができます。一分一秒を争う緊急医療にとっては、大きな前進となります。

その他にも、電気自動車はエンジン音がほとんどないため、街から騒音が消えることにもなります。また、家庭のコンセントで充電できる電気自動車も、どんどん開発・普及していくことになるでしょう(すでにイタリアでは実用化されています)。まさしく21世紀の生活・社会を一変するかもしれない夢の車、それが電気自動車なのです。

※電気自動車とは
広義の意味では、モータとエンジンを併用するHEV(ハイブリッド車)、燃料電池を搭載して発電・充電しながらモータ走行する燃料電池車なども電気自動車に含まれますが、本記事では、狭義の意味の電気自動車(PureEV)に限定します。

クルマの走りを進化させる、モータ配置

インホーイールモータ

強力なネオジム磁石(希土類磁石)によって、モータの小型化が実現し、インホイールモータが誕生しました。

電気自動車は、クルマの一番の魅力である"走り"の性能も優れていると言われています。その大きな理由として、シンプルな構造で、電気モータを含む駆動系統が構成できるからです。電気自動車は、シフトレバーやクラッチペダルはなく、損失の発生するトランスミッション(変速装置)などを使用しなくとも、直接タイヤに動力を伝達できます。そのため、電気モータは、起動段階から最大トルク(回転力)を得ることができ、またエネルギー効率がエンジン自動車に比べて格段に良いのです。

そこで、電気自動車に最適な駆動系統は何か?ということが重要になります。エンジンを単純に電気モータに置き換えたもの。減速機を省いたもの。後輪横に2つ別々にモータを配置し、減速ギアによって接続したもの・・・。様々な配置が考えられていますが、今もっとも注目を集めているのが、タイヤにモータを組み込んだ四輪独立方式「インホイールモータ」です。

インホイールモータで誕生!最高時速370km"エリーカ"

エリーカ写真

エリーカは、2004年に慶應義塾大学電気自動車研究室が開発しました。

インホイールモータ方式は、電気自動車のモータ配置としてはもっとも理想的な構成と考えられています。モータが車輪へ直結しているため、動力が直接タイヤへ伝達され、ギアや駆動軸などによるエネルギー損失がありません。また、四輪すべてを個別に制御できるため、駆動力の配分を自在に行えるなど、多くのメリットがあります。

そして、このインホイールモータを採用して、最高時速370kmを実現した夢の電気自動車が"エリーカ(Eliica)"です。エリーカは、四輪ではなく、八輪駆動によるインホイールモータ方式を採用。テスト走行における加速性能は、世界を代表するスポーツカーを凌ぎました。また、エネルギー効率も優れており、「100円で100kmの旅」をコンセプトに製作されています。近い将来、もしかしたら電気自動車によるF1レースも開催されるかもしれません。

電気自動車の開発が世界を救う

エリーカ写真

東京電力と三菱自動車の共同研究により開発された、i MiEV(アイ ミーブ)

良い事だらけの電気自動車ですが、もちろん、量産化に至るまではまだまだ多くの課題があります。一番大きいのは、バッテリーの容量・コストの面で、エンジン自動車なみの航続距離が得られないことです。しかし、これまでご紹介してきたとおり、今までになかった圧倒的な性能と利便性を誇り、環境にやさしい電気自動車の量産化は避けて通れません。今年1月に就任した、アメリカのオバマ大統領も、不況を脱するべく"グリーンニューディール政策"を掲げて、電気自動車の普及を目指すことを明言しました。

子供達が熱中したミニ四駆は、時を越えて実物化し、今、地球環境と人間社会を救う切り札になろうとしています。

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