電気の施設訪問レポート vol.22

「新島プロジェクト事業」を訪問しました

「新島プロジェクト事業」を訪問しました

2017年12月、パワーアカデミー事務局は、東京都新島村を訪問しました。新島村では、再生可能エネルギーを最大限受け入れ可能な電力系統システムの構築を目指した実証試験「電力系統出力変動対応技術研究開発事業」の一環として、新島プロジェクト事業が、始まっています。今後の日本における再生可能エネルギー導入拡大に寄与する重要な実証試験になる新島プロジェクト事業の概要を紹介します。

2030年の再生可能エネルギー導入比率を模擬した電力系統

CO2排出削減とエネルギー自給率の向上を目指して、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギー導入拡大の期待が高まっています。日本政府は2015年7月に公表した「長期エネルギー需給見通し」において、2030年頃のエネルギーミックスにおける再生可能エネルギーの導入比率を22~24%まで引き上げることを目標としています。

しかし、再生可能エネルギーは、天候による出力変動が大きく、電力の安定供給に悪影響が出ることが懸念されています。これを解決するためには、出力変動の予測など電力系統の安定運用を実現するための技術開発が必要です。

そこで進められているのが、離島(東京都新島村)の電力系統を実証フィールドとして行われている実証試験です。2030年頃に想定される再生可能エネルギーの導入比率を新島村の電力系統で模擬し、通常はシミュレーション等で行う研究を実系統にて実施し、技術的課題とその解決策を明らかにする画期的なプロジェクトです。2017年4月から実証試験が開始されました。

2030年の電源構成案

出典:総合資源エネルギー調査会(経済産業省の諮問機関より)

新島と式根島で、再生可能エネルギー25%の実現を目指して

実証設備を構築した新島村は、東京都心の南約160kmの太平洋上に位置しており、新島と式根島の2島から成り立っています。新島と式根島は海底ケーブルで連系しており、1つの電力系統として運用されています。今回の試験では、島の再生可能エネルギー導入量が約1100kWとなる量を導入しました。これにより長期エネルギー需給見通しで示されている電力量(kWh)での再エネ比率9%(太陽光・風力)を達成しています。特に、風況に恵まれた東日本地域を想定して、風力発電の比率が高い電力系統になっているのが特長です。

尚、本実証試験は、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)事業の一環として行うもので、東京電力ホールディングス株式会社、東京電力パワーグリッド株式会社、株式会社東光高岳が行っています。研究統括は東京大学 横山明彦教授が、蓄熱システム、ヒートポンプによる実証試験の担当は東京大学 馬場旬平准教授が務めています。そのほか、電力中央研究所(発電機ガバナモデルの作成など)、日本気象協会(出力予測手法など)、NRIセキュアテクノロジーズ(セキュリティ対策、リスク分析など)も参画しています。

新島実証試験および配置図

出典:東京電力パワーグリッド株式会社

技術課題である「予測」「制御」「需給運用」を解決する

具体的に実証試験では、天候による風速の急変による出力変動(ランプという)や強風時の発電停止といった再生可能エネルギーの出力『予測』技術を開発します。さらに予測だけにとどまらず、風力制御技術や蓄エネルギー制御技術といった変動『制御』技術も開発します。加えて、再生可能エネルギーに蓄電池、既存電力設備を組み合わせて、再生可能エネルギーを無駄なく使う効果的な『需給運用』のためのシステム開発および試験を行っていきます。これにより、再生可能エネルギーを最大限受入れ可能な電力系統システムの構築およびコストが最小となるような最適手段の確立を目指しています。

分かりやすく言えば、翌日の需要予測や再生可能エネルギーの出力予測を立て、どのような組み合わせで発電機を運用したら、コストが最小になるかを計画して電力系統を運用していく取り組みです。

また、再生可能エネルギーが電力系統に大量導入された2030年頃を見据え、余剰電力の発生、周波数調整力不足などの発生が見込まれるため、これらの技術的課題とその課題解決策を明らかにすることも行っています。

実証試験の概要

出典:東京電力パワーグリッド株式会社

新島実証試験設備をご案内いただきました

それでは当日、ご案内いただいた、新島実証試験の設備をご紹介します。今回は新島にある設備をご案内いただきました。

新島村役場

本実証試験は、地元・新島村の協力を得て行われています。この実証実験により、新島村は再生可能エネルギーの実証先進地の一つとなります。写真は、村役場に隣接する住民センターに設置された展示コーナーです。

阿土山(あづちやま)風力発電所

風力発電所は、新島北部に位置する阿土山に設置されています。阿土山は風が非常に強い地域で、特に冬は西風が強く吹いており風力発電には絶好のロケーションです。電力ケーブルおよび通信ケーブルは地中でつながっています。

風力発電機

写真は1基ですが、高さ41.6mの風力発電機300 kWを2基設置しています。いかに風を最大効率でとらえるかを検証しています。また、風力発電の出力を制御し、発電量を調整する試験等を通じて実運用へ向けた準備をおこなっています。

風向風速計

真中に見えるのは日本気象協会が設置した風向風速計です。ここで得たデータを活用して実証試験を行っています。

蓄電設備

写真内左が蓄電池(リチウムイオン電池※500kWh)となります。風力発電で出力変動が起きた場合に変動を緩和するための充放電を行います。右は風力発電機と蓄電設備の受変電設備です。

大原太陽光発電所

新島には、太陽光発電設備が小学校、中学校、村役場と設置されており、それぞれ系統につながっていますが、最大の発電出力(315kW)を誇るのが写真の大原太陽光発電です。

新島内燃力発電所

新島内の電力を供給する内燃力発電所です。発電設備容量は、2,500kW×1基、2,000kW×1基、1,200kW×1基、1,000kW×2基で、合計7,700kW。いずれもディーゼル発電機です。この既存電力設備と再生可能エネルギーや蓄電池をどう組み合わすかが、今回の実証試験のポイントとなります。

系統用蓄電設備(東光高岳新島電気所)

新島内燃力発電所に設置されている、写真左が蓄電池(リチウムイオン電池※500kWh))と写真右がパワーコンディショナ―(1000kW)です。共に2基設置されています。こちらは、風力発電に併設された蓄電池とは異なり、電力系統用のため、主に系統周波数の変動を抑制するための充放電を行っています。

統合EMS

同様に新島内燃力発電所に設置されているのが、統合EMS。今回の実証試験の目的となる、 再生可能エネルギーの出力予測情報に基づき、既設電源設備ならびに蓄エネ設備を効果的に運用・制御する頭脳となります。写真は、統合EMSのサーバ室です。

製氷用チラー(新島漁港)

今回の新島プロジェクト事業のユニークなところは、発電設備だけでなく、需要家設備となる温泉を利用したヒートポンプ(加熱能力56kW、消費電力16kW)や、製氷用チラー(冷凍能力78kW、消費電力35kW※1)を対象に、統合EMSによる消費電力"制御"を行い、電力供給余剰時や不足時の調整力として活用することです。新島漁港にある製氷用チラーをご案内いただきました。

こちらは、チラーによって氷をつくる装置です。ブライン(不凍液)は塩化カルシウムで、いわば塩化カルシウムの水槽をつくって氷をつくっています。氷の重さは1個約120kgです。

こちらは、つくった氷をストックする冷凍庫の中(マイナス7~8℃)です。漁業の場合、日によって水揚げがない場合もあるので氷のストックは不可欠です。ちなみに漁業用だけでなく、一般家庭用の氷もつくっています。

(※1)ブライン(不凍液)を用いたチラーのこと。チラー(chiller=冷やす)とは、水や熱媒体の液温を管理しながら循環させる装置の総称で、主に冷却用途に用いられる。

編集後記

本事業は2014年6月から2019年2月までの5年間の計画で実施しています。新島村における実証試験もはじまって、今まさに佳境といったところでしょうか。東京大学の横山教授や馬場准教授も関わっており、電気工学の技術成果にもなるプロジェクトです。今後の大きな成果を期待しています。尚、今回ご案内頂いた東京電力パワーグリッド株式会社の厚川貴生さんは、誠文堂新光社『子供の科学』2018年4月号の「めざせ!電気の達人」コーナーにも登場する予定ですので、ぜひご覧ください。

厚川貴生さんは、東京理科大学卒の電気工学出身者です。「電気をつくる仕事に携われば、人の生活に役立つので、充実感ややりがいを持てると思います」と電気工学を学ぶ方たちへメッセージをいただきました。

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