電気の施設訪問レポート vol.28

「大規模CO2分離回収実証設備」をご紹介します

「大規模CO2分離回収実証設備」をご紹介します

福岡県の最南端に位置する大牟田市。広大な干潟の有明海に面し、かつては炭坑の町としても知られていた同市が、今、エネルギーや環境問題の関係者から熱い視線を浴びています。注目の的となっているのは、バイオマス発電所である「(株)シグマパワー有明 三川発電所」に設置された「大規模CO2分離回収実証設備」。世界初の大規模BECCS(CCS付きバイオマス発電)対応設備として知られるこのプロジェクトについてご紹介しましょう。
※今回は、コロナ禍の影響に伴い、オンラインにて取材しました。

社会に大きなインパクト

世界全体で増え続けるCO2(二酸化炭素)排出量。気候変動という地球規模の課題に立ち向かうために、さまざまなイノベーションへの挑戦が続けられています。政府も、2050年までに温暖化ガスの排出を実質ゼロにする、カーボンニュートラルを宣言。脱炭素社会の実現に向けた取り組みには、いっそう拍車がかかります。

こうした中、注目されているのが福岡県大牟田市で2020年10月にスタートした「大規模CO2分離回収実証設備」による実証運転。東芝エネルギーシステムズ株式会社が、環境省の委託を受けた18機関による「環境配慮型CCS実証事業」の枠組みの中で行われています。

この実証設備は、発電所から排出されるCO2を分離回収するもので、隣接する「(株)シグマパワー有明 三川発電所」から1日に排出されるCO2の50%にあたる500トン以上のCO2を分離回収します。バイオマス発電所から排出されるCO2を分離回収する大規模BECCS対応設備は、ここが世界で初めてです。

「CCS(CO2分離回収・貯留)に対する一般的な認知度はまだまだ十分とは言えません。その中でこのプロジェクトが注目されるのは、脱炭素社会実現に向けてCCSの優位性を広くアピールすることにつながると考えています。CCSの研究に取り組んでいる競合他社もきっと喜んでくれているに違いありません。それほど広くインパクトを与えることになる取り組みだと自負しています」と、東芝エネルギーシステムズの岩浅清彦さん(パワーシステム事業部 パワーシステム技術・開発部)は胸を張ります。

世界最大規模の施設として

温室効果ガス削減の枠組みを定めたのが、2015年の第21回気候変動枠組条約締約国会議(COP21)の「パリ協定」。同協定を受けて環境省が環境配慮型CCS事業への取り組みを呼びかけ、その呼びかけに応じた東芝エネルギーシステムズをはじめとする13機関が2016年から5カ年の計画で「CO2分離回収実証設備の建設、その技術、性能、コスト、環境影響等の評価を行うとともに、国内でのCCS導入に向けた政策・措置についての検討」の本格整備をスタートさせました。そして最終年度の2020年には18機関が参加するプロジェクトとなりました。

「この18機関によるコンソーシアムの取りまとめを、当社が代表事業者として担当しました。それぞれの意見を調整しながら、限られた期間内に設計・建設を終わらせることには、苦労がありました」(岩浅さん)

実は大牟田市にはバイオマス発電、太陽光発電などエネルギーに関する多くの施設が集積されており、経済産業省 資源エネルギー庁から「次世代エネルギーパーク」の認定を受けています。「CO2分離回収実証設備」は、この「次世代エネルギーパーク」を通じて構成する一つである「(株)シグマパワー有明 三川発電所」と統合された設備です。具体的にはCO2を分離するために必要なエネルギー源には、「(株)シグマパワー有明 三川発電所」の蒸気タービンからの抽気蒸気を用いています。

このようにCO2分離回収設備と一体化したバイオマス発電からCO2を回収し、そのCO2を地中に貯留することをBECCS(Bio-energy with Carbon Capture and Storage)と呼び、このプラントはBECCS対応設備として世界最大規模を誇ります。

なお「(株)シグマパワー有明 三川発電所」は、パーム椰子の種の殻を燃料とするバイオマス発電所で、およそ8万世帯分の電力を発電。近接する大牟田発電所(2021年秋運転開始予定)と合わせて、一般家庭約15万世帯の消費量に相当する電力が供給可能となります。

CCSの仕組みと特徴

ではCCSについて詳しくご紹介しましょう。

CCSとは、火力発電所などで発生するCO2を分離・回収(同施設は貯留を除く)する技術のことです。これによって大気に放出されるCO2の量を大幅に減らすことが可能です。

CCSの方式にはいくつかあり、「(株)シグマパワー有明 三川発電所」の「CO2分離回収実証設備」で採用されたのは「燃焼後回収方式」です。これはプロセスそのものが化学業界で既に確立されており、回収されたCO2の純度も99%と高いことが特徴です。

「既存の設備に後付けで採用可能な点も大きなメリットです。新設の発電所だけでなく、既に稼働中の発電所にも対応できることで、幅広いニーズにお応えします」(岩浅さん)

「CO2分離回収実証設備」は大きく「吸収塔」と「再生塔」に分けられます。

①CO2を含む排ガスは、まず「吸収塔」に入ります

②「吸収塔」の中で排ガスは、アミン液と呼ばれる水溶液に吸収されます。アミン液には、低温でCO2を吸収し、高温でCO2を排出するという特徴があります

③CO2を取り除かれた排ガスは、煙突から大気に排出されます

④一方、CO2を吸い込んだアミン液は「再生塔」へ送られます

⑤アミン液は加熱され、CO2を吐き出します(この際に発電所の蒸気タービンの熱が使われます)

⑥排出されたCO2は回収されます

⑦アミン液は「吸収塔」へと戻っていき、再びCO2を吸収します

この①から⑦のサイクルを繰り返すことで、「CO2分離回収実証設備」は連続的にCO2の分離と回収を行います。

回収量は「(株)シグマパワー有明 三川発電所」から1日に排出されるCO2の50%に相当する500トン以上にも達します。これは火力発電所から排出されるCO2の50%以上を回収できる設備としては、日本初のことです(2020年10月時点/東芝エネルギーシステムズ調べ)。

なお今回のプロジェクトでは、回収したCO2についてはリリースされますが、同社が佐賀市の清掃工場CCU(CO2分離回収・利用)向けに納入したCO2分離回収設備では、パイプラインで運ばれて藻類の培養プラントや施設園芸等へと供給されています。

脱炭素社会へのソリューションとして

この実証実験は2021年3月まで行われ、その後、報告書がまとめられる予定です。今後の課題等は、その中で検証されていくことでしょう。

火力発電は国内外で大部分を占める重要な電源であり、排出されるCO2の削減は大きなテーマです。そうした中でこの「CO2分離回収実証設備」によるチャレンジは、CCSの普及浸透を力強く後押しすることになるでしょう。

「もちろんCCSは脱炭素社会の実現を目指す上での一つのアイデアです。CO2削減には、さまざまなアプローチが可能でしょう。ぜひこれからの社会を担っていく若い世代の皆さんには、CCSの普及はもちろんのこと、さらにCO2削減に資するようなソリューションの開発に取り組んでいただけたらと期待しています」

岩浅さんは、そんなメッセージを送ってくれました。

さいごに

2020年12月、政府が2050年までに温暖化ガスの排出を実質ゼロにする、カーボンニュートラルを宣言したことを、非常にポジティブに受け止めています。その後、CCSに関するお問い合わせの数も一気に増えました。この分野で日本は国際的に出遅れていたものの、風向きが変わったことで、私たちの取り組みにも一層力が入ります。(岩浅清彦さん)

編集後記

今回はコロナ禍の中、オンライン取材となりましたが、ご協力いただいた東芝エネルギーシステムズ株式会社様にはお礼申し上げます。脱炭素化という課題に正面から向き合う実証設備のお話は大変に興味深く、世界初の施設であるという点には特に誇らしさを感じました。美しい有明海を心に思い浮かべつつ、編集スタッフ一同、実証設備の成功を願っています。

バイオマス発電について、こちらでご紹介しています。

【電気の施設訪問レポート vol.25】「竹のバイオマス熱電供給事業施設を訪問しました」

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