電気の施設訪問レポート vol.11

新出雲ウインドファームを訪問しました

新出雲ウインドファームを訪問しました

2012年11月、パワーアカデミー事務局は、島根県出雲市にある株式会社新出雲ウインドファームを訪問しました。同社は、2009年4月に営業運転を開始した、日本最大規模の集合型風力発電施設「新出雲風力発電所」を運営しています。本レポートでは、風力発電の意義と課題、新出雲風力発電所の様々な特徴や取り組みなどをご紹介します。

風力発電の意義と課題

株式会社新出雲ウインドファームは、株式会社ユーラスエナジーホールディングスのグループ企業です。

風力発電は、太陽光発電と並んで普及が進んでいる再生可能エネルギーです。風のエネルギーを風車の回転エネルギーに変換し、発電機を回して電気エネルギーに変換する発電システムです。自然の風なので、エネルギー源はほぼ無尽蔵。その上、発電時にCO2等の大気汚染物質を一切排出しないクリーンな発電方法です。

一方で、風車による騒音、鳥獣への影響、不安定な出力変動、強風(台風)時の対応、景観への配慮、落雷対策など様々な課題も抱えています。また設備稼働率は、一般的に約20~25%と言われています。さらに日本列島は、国土が狭く山が多いため設置場所が限られています。そのため、洋上風力発電(海の上に風車を置く)の研究も進められています。

※風力発電について、パワーアカデミーWEBサイトでは様々なコーナーで取り上げています。頁下の「あわせて読みたい」もぜひご覧ください。

国内最大級の発電量を誇る"新出雲風力発電所"

こちらが風車26基の電気を集めるウインドファーム内の変電所です。

新出雲ウインドファームが運営する新出雲風力発電所は、7万8,000kWの発電設備容量を誇る風力発電所です(風車1基3,000kW×26基)。出雲市の北浜地区に位置し、西サイトに20基、東サイトに6基の風車が設置されています。風車で発電した電気は、ウインドファーム内の変電所に集まり、約15kmにおよぶ地中送電線を通じ中国電力川跡変電所を経由して一般家庭に届けられます。尚"ウインドファーム"とは、多くの風力発電機を設置して、全体を一つの発電所として運営する形態を意味します。

西サイトに20基、東サイトに6基の風車が設置されています。西サイトより6基目の風力発電所が騒音の計測ポイントです。

国内最大級の発電量を実現できた理由「用地と輸送路」

一番大きな理由は、1基3,000kWの大型風力発電機26基が設置できる広大な用地を確保できたことです。さらに風車の大型部品が運搬できる輸送路も確保できたことも重要な点です。島根県東部の出雲市河下港へ風車の部品を水揚げして、最長約20kmにおよぶ陸上輸送を実施しました。また、長さ44mもあるブレード(羽根)や重さ70トンにもなるナセルなどの風車の大型部品を運搬する特殊車両は通常、夜間しか道路を通行できませんが、地元の協力で日中も通行が可能になりました。その結果、基礎工事1年、組み立て工事1年の約2年間で新出雲風力発電所は完成しました。

基礎工事の様子。風車タワーを支持するアンカーリングを基礎の中に配置しています。

風車組み立て工事の様子。重さ7トン、長さ44mのブレードを一枚ずつクレーンでつり上げてハブに取り付けています。

大型風力発電機の特徴

新出雲風力発電所は、国内では最大級となる1基3,000kWの風力発電機が26基設置されています。この風力発電機は、風力発電の世界シェアトップクラスを占めるデンマークのヴェスタス社製を採用しています。タワーの高さは75m、ブレードの長さは44mです。ブレードがついている中心の部分をハブ(直径2m)と言い、このハブは風車の動きや電圧を制御する様々な機器が内蔵されているナセルが設置されています。風車は全て自動制御で運転されています。

ナセル内の主要機器

  • 超音波風向風速計(図④)で風向と風速を計測し、風の吹く方向へ自動的に風車の向きを変えます。これをヨー制御と呼びます。超音波風向風速計は2個ついており、非常時のバックアップ用途も備えています。
  • ブレードの回転はギアボックス(図⑩)で増幅(850~1950回転/分)され、この回転エネルギーにより発電します。
  • 約15m(現在は18~19m)の風速で発電電力は定格の3,000kWになります。風速が25m以上の強風になると、ブレードの角度が風の向きに対して水平になり、回転が停止します(空中ブレーキ)。尚、通常の停止は、基本、ポーズモードと言われるもので行います(一時停止、羽は閉じきらない)。その他ストップモード、エマージェンシーモードと言われる完全停止状態もあり、天候や機器のメンテナンスなど状況に応じて選択されます。

ナセル内主要機器

風力発電の課題解決への取り組みについて

風力発電の様々な課題についての取り組みを伺いました。

騒音について

騒音については風車という特性上、どうしても風車が風を切る音が発生します。この風切り音については従業員がいつでも計測できるように発電所には計測機を配備しています。また、常時計測データについては、インターネット回線を使って、事務所に送信しています。事務所にて受信したデータは第三者機関に解析をお願いして、地元の皆様へ説明を行う資料にしています。常に情報をオープンにすることがモットーです。

鳥獣への影響について

鳥類が構造物に衝突する「バードストライク」は、風力発電に限らず、航空機、送電線などで大きな問題となります。

出雲市北浜地区は、第三者機関に依頼して調査を行ないましたが、渡り鳥のルートではありませんでした。また、希少種の営巣地を避けたレイアウトとし、専門家等からも、鳥類への影響は少ないとのコメントもいただきました。2009年の操業以来鳥類への影響はありません。当社は月1回の風車の定期検査において、鳥類の調査も行い記録をまとめています。異常があれば、島根県の担当部署へ報告します。

景観について

日本夕陽百選にも選定されている「水の都松江」の象徴、宍道湖の夕陽。新出雲風力発電所の風車は、その美しい景観に影響を与えない場所と高さで建てられました。建設にあたっては、地元住民、行政団体はもちろんのこと、自然保護団体とも話し合いを行いました。なお、75mというタワーの高さは、同じ規模の通常の風力発電機より低く設定されています。

日本夕陽百選にも選定されている、宍道湖(しんじこ)の夕陽です

雷について

落雷によって風車のブレードが破損したことを踏まえ、様々な対策を行っています。具体的には、ブレードの先端30cmに銅性のキャップをつけており、これによって落雷による被害を防いでいます。また、全てのブレードにセンサーをつけて、どのブレードに落雷したかを計測しています。このようにブレードにセンサーをつけて計測している風車は、日本国内では数少なく、新出雲風力発電所ならではの工夫と言えます。センサーで計測したデータは、日々の運転保守に役立てられます。

乱流について

乱流が起きる仕組み

新出雲風力発電所で、一番大きな対策が立てられているのは、乱流(風車近傍の地形などから生じる変則的な風)への対応です。実際に乱流によってブレードが大きくたわんでタワーに衝突し、ブレードの一部が破損する事故が発生しており、現在は事故を防ぐために風車の制御を変更して風の状況にあわせた運転を行っています。もともと、出雲市の北浜地区は、北西方向からの安定した風が90%以上を占めると調査されていました。しかし、実際に稼動すると谷間からの乱流が予想以上に発生していることがわかったため、注意を払って運転を行っています。

今後の新出雲ウインドファーム

変電所(写真右)の横が、新出雲ウインドファームの管理棟(写真左)です。

新出雲ウインドファームは、竣工以来ブレードの損傷で長期間運転が止まっている時期もありました。そのため、今後は安全で安定した運用を定着させ、さらなる高稼働率を目指していく、とのことです。震災以降、風力発電に大きな期待が高まる中、国内最大級の発電量を誇る新出雲ウインドファームの今後も目が離せません。

編集後記

日本における風力発電は、この新出雲風力発電所のように様々な課題を抱えながら、大量導入へ向けて日々取り組みを行っています。こうした課題を解決するためには、電気工学をはじめとする関連技術・学問のさらなる発展が不可欠です。特に電気工学は、風力発電の機器から、系統・システムに至るまで幅広く関わっているため、キーテクノロジーだと改めて認識しました。今後もパワーアカデミーWEBサイトでは、風力発電など再生可能エネルギーの現場を紹介していきます。

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