vol.53 北海道大学

電気工学の研究を通じて、本格的な再エネ時代に貢献したい。

学生インタビュー vol.53

電気工学の研究を通じて、本格的な再エネ時代に貢献したい。

北海道大学 北研究室
中村 綾(なかむら あや)、吉澤 優樹(よしざわ ゆうき)、渡邊 将太(わたなべ しょうた)

電力システムの安定運用を目指した研究に力を入れている北海道大学の北研究室。学生それぞれが関心の高いテーマに主体的に取り組む、自由な雰囲気を大切にしています。皆さん“研究を通じて社会に貢献したい”という高い志を胸に秘め、テーマに取り組んでいらっしゃいます。

※2022年2月現在。文章中の敬称は略させていただきました。なお、取材はオンラインで行いました。

電気のありがたさを改めて実感

皆さんはなぜ電気工学を学ぼうと思われましたか。動機を教えてください。

中村:私はもともと数学や物理が好きで、高校時代にはパソコンを自作するなど、ものづくりにも興味がありました。そうしたことが理由で、工業大学に進学しました。その工業大学の授業で出会ったのが再生可能エネルギーです。より深く研究したいと思うようになり、再生可能エネルギー導入のための技術開発に取り組もうと、この道に進みました。

いわゆる“リケジョ”だったのでしょうか。

中村:中学生の頃から数学は好きでしたね。残念ながら数学や物理などは敷居が高いと思われているようで、学ぼうとする女性はあまりいません。でも実際に学んでみるとすごく面白い学問だと気づくと思います。もっと多くの女性に理系の道に進んでほしいですね。

その通りですね。吉澤さん、いかがでしょうか。

吉澤:私は生活の根底を支えているインフラの研究に携わりたいと思ったことがきっかけでした。

とおっしゃいますと。

吉澤:社会への影響の大きい分野の研究に携わりたいと思ったんです。それが電気でした。電力系の研究室をいくつか見学するうちに、ふだんから無意識で使っている電気がどのようにつくられ、どうやって届けられているのか、誰がそれを支えているのかということに興味を抱くようになりました。

ありがとうございます。では渡邊さん、お願いします。

渡邊:私は、父が電気に関わる仕事をしていたことがそもそもの出発点でした。同時にものづくりにも興味があったことから、電気工学の道に進むことにしました。電気系は就職に強いという点も、動機の一つです。

皆さんが北研究室を選んだ理由は何でしょう。

吉澤:私は北海道の出身なんですが、2018年に北海道胆振東部の大地震をきっかけに発生したブラックアウトを経験しました。ふだん当たり前のように使っている電気のありがたみを改めて実感し、電気の安定供給を支える技術について学びたいと考えて、北研究室を選びました。

渡邊:私もブラックアウトを経験したことで電気のありがたさを実感しました。その経験から電気の安定供給を支える技術を学びたいと思い、北研究室を希望しました。

中村:私の場合は工業大学で自分が教わった先生が、北先生の研究室の出身だったことが一番の理由です。それで博士課程から北海道大学の大学院に入り、こちらの研究室に所属することにしました。

吉澤:いくつか研究室を見学させていただいた中で一番雰囲気がよかったことも決め手になりました。自由な空気の中、先輩方が和気あいあいと研究に打ち込んでいる姿に惹かれました。

自分のやりたいテーマに打ち込める環境

皆さんの研究内容について教えてください。

中村:私の研究テーマは、洋上風力発電所の適地から大需要地までの長距離において、効率的な送電を可能とする信頼性の高い多端子直流送電システムの潮流制御手法の開発です。

中村さんの研究は、パワーアカデミーの研究助成に採択されましたね。

中村:はい、ありがとうございます。大変嬉しく感じています。洋上風力発電は大量導入・コスト低減が期待され、世界中で導入拡大が進められていますが、我が国では洋上風力発電所の適地は一部地域に偏在しています。そうした状況を踏まえ、北海道と本州を結ぶ既存の連系設備へ新たに洋上発電を安定的に接続する技術の確立を目指しています。社会に大きな貢献ができる技術ですので使命感を持って取り組んでいます。

吉澤さんはいかがですか。

吉澤:私は“ならし効果”による蓄電池容量の削減効果やPV(太陽光発電)の変動抑制の際の経済性などを研究しています。系統用蓄電池は複数のPVをまとめて制御するため、個々でPVを制御するより大きな削減効果が得られます。それによって結果的に必要とされる蓄電池の容量の削減につながると考えられるわけです。また経済性については、kWhとして生じる余剰容量を需要家に貸し出すことで収入が得られるのではないかと考えています。

手応えはいかがでしょう。

吉澤:自分のやりたいテーマについて研究できることは、やはり面白いですね。kWhの余剰容量の研究は私が思いついたテーマなので、自分の力でなんとか解決したいというモチベーションがあります。

ありがとうございます。では渡邊さん、研究について教えてください。

渡邊:私は再生可能エネルギー電源の大量導入に伴う送電線容量の不足という問題に取り組んでいます。

こちらも社会的ニーズの高い研究テーマですね。

渡邊:はい、期待の大きさを感じています。具体的にはN-1電源抑制やダイナミックレーティングといった新しい考え方の送電線の運用方法について、将来の再生可能エネルギー電源導入の不確実性を考慮しつつ、有効性について検討を行っています。今は検討段階にありますが、将来の実証段階への移行を楽しみにしています。

GPANを通じて得た成長

研究活動での印象深かったエピソードを教えてください。

中村:初めて国際学会に参加したことが一番の思い出です。私は参加するだけで精一杯だったのですが、自分と同年代の女性が堂々と発表し、白熱した議論をしている姿に大きな衝撃を受けました。参加することが目標だった自分の意識の低さを痛感し、いつかは彼女のようになりたいという強い志が芽生えました。

中村さんご自身の発表は順調でしたか。

中村さんの国際学会での発表の様子

中村:それが緊張のあまり、マイクを持つのも忘れて地声で発表してしまったんです。しかも終えるまでそのことに気づかなかったほどでした。でも周囲の方に「よかったよ」と言っていただけたのは嬉しかったです。

吉澤:私はパワーアカデミーのGPANに学生幹事として参加したことが印象に残っています。

渡邊:私もGPANが一番の思い出ですね。

吉澤:準備は大変だったんですが、他大学の学生や教員、パワーアカデミー事務局など、大勢の人を巻き込みながら進めていったことで、調整力や巻き込む力を身につけられたと思います。

渡邊:私も他大学の学生とコミュニケーションできたことが大きな刺激になりました。同じテーマについて話していても、ハード的なアプローチをする人もいればソフト的な切り口で話す人もいて、様々です。そうした多様な考え方、価値観に接したことで、自分の幅がずいぶん広がったと感じました。

吉澤さん、渡邊さんが参加されたGPANのレポートはこちら

研究活動のペーパーレス化が進む

研究室の特徴について教えてください。

吉澤:環境面では非常に恵まれています。全員に高性能なパソコンが支給されており、デュアルディスプレイとキーボードを置いてもまだ十分に余裕があるほど、デスクも広々としています。

中村:1人1台、タブレットも配布されています。そのため打ち合わせ時の資料が簡単に共有できるなど、研究室全体でペーパーレス化が進んでいます。大学のハイスペックなコンピュータを自宅からでもリモートで使える点も、ありがたいです。

渡邊:私は同じ志の仲間がたくさんいることに喜びを感じています。研究室に配属されるまでは、周囲には電力に興味のある人がいませんでした。しかし今は研究室の先輩や同期と存分に電力の話ができ、十分な刺激を受けています。

コロナ禍でのコミュニケーションの取り方はどうしていますか。

吉澤:以前はバーベキューなども行っていたのですが、コロナ禍になってからはオンライン飲み会になりました。新入生や新留学生などの歓迎会を兼ねて行うことが多いですね。

渡邊:基本的にはオンラインでの研究活動になるものの、月に数度は研究室に行くことを心がけています。そんなときは先輩方との何気ない雑談が楽しみです。

中村さん、研究室の女性の割合はどのくらいでしょう。

中村:おおよそ1割ですね。もっと女性が増えてくれたら嬉しく思うものの、工業大学で学んでいたこともあって、私自身は特に不自由は感じていません。むしろ気を使ってもらうことが多く、トクしてると感じることもあります。

研究以外ではどんなことに打ち込んでいますか。

吉澤:私はスキーですね。大学ではスキー部に所属し、今はクラブチームに入って「基礎スキー」という競技を続けています。私は栃木県の出身なんですが、スキーでは北海道ならではの大自然を堪能できるのが魅力です。非日常感が味わえますね。

羊蹄山をバックに。左の黄色いバイクが渡邊さんのバイク。

渡邊:私はツーリングが趣味です。夏はバイクで北海道各地へ走って、温泉を楽しんだりしています。吉澤さん同様、私もそんな非日常の時間が好きです。

中村:2人とは逆に、私は完全にインドア派なんです。自作したゲーム用のPCでゲームを楽しんだり、読書したりして過ごしています。

研究室での集合社写真
中村さん(後列、左から3番目)、吉澤さん(前列、右から3番目)、
渡邊さん(前列、左から2番目)、北先生(前列、左から5番目)
原先生(前列、 左から4番目)

人生の選択肢を広げてくれる電気工学

電気工学を学んでいてよかったと思うのはどんなときですか。

渡邊:日々の生活になくてはならない電気の大切さを改めて感じるようになりました。電気がどこから、誰の手によって届けられているのかを知って、ありがたさを噛みしめています。

吉澤:社会問題への関心が高まりました。スマートグリッドやVPPなど、ITと関連した電気技術の話題がメディアで取り上げられると、関心を持って聞くことができます。

中村:私も同じです。社会問題を人ごととして受け流すのではなく、自分の研究と結びつけて考えるようになりました。特に再エネについては、自分ならこんな貢献がしたいと思いながら報道に接しています。

就職活動について聞かせてください。吉澤さんは内定が決まったそうですが。

吉澤:ええ、外資系のコンサルティング会社に就職が決まりました。

電気工学の出身でコンサルティング会社という進路は珍しいですね。

吉澤:コンサルティング会社は産業ごとに担当が分かれているのが一般的なので、電気工学の専門知識は十分に発揮できると考えています。電気やエネルギー分野のクライアントと対等の知識を持って向き合えることは、私の強みだと感じています。私の入社する会社では政策への提言も行っているので、エネルギー系の部署に配属されたら、ぜひよりよい制度づくりに貢献したいと思います。

渡邊:学部生の私は大学院の修士課程に進む予定ですので、就職活動はまだ先です。大学院では深層学習など人工知能の技術を電力系統の分野に応用する研究をしたいと考えています。

中村:私は研究者の道に進むつもりです。大学に残るのもいいし、企業の研究室でもいいと考えています。できるなら将来的にはヨーロッパで研究活動に打ち込みたいですね。再生可能エネルギーの分野ではやはりヨーロッパが世界の最先端を走っていますから、そうした環境で研究に打ち込めたら嬉しいです。

女性にとっても電気工学を学ぶことは人生の可能性を広げることにつながるのでは。

中村:そう思います。女性には結婚や出産、子育てというライフイベントがありますが、電気工学という専門性を身につけておけば、働く場所はどこであっても、ずっと活躍し続けられると思います。私自身も将来的には研究活動と家庭を両立させるつもりです。先ほども触れましたが、電気工学は難しいと思い込んで敬遠している女性が多いと思うので、“食わず嫌い”はやめてぜひ一度学んでみてください。物理など、きっと想像以上に面白く、楽しめるはずです。多くの女性の後輩に電気工学の道を歩んで欲しいと思います。

皆さん、今日はありがとうございました。

※インタビューへのご質問、お問い合わせにつきましては、「こちら」にお願いします。

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