vol.5 住友電気工業株式会社

夢の超電導ケーブルを、世界中で実現したい!住友電気工業株式会社 西村崇さん

社会人インタビュー vol.5

夢の超電導ケーブルを、世界中で実現したい!住友電気工業株式会社 西村崇さん

住友電気工業株式会社
西村崇さん

住友電気工業株式会社は、光ファイバー、電線、ケーブルなどを製造する非鉄金属の総合メーカーです。電気工学の最先端技術「超電導」にもいち早く取り組み、2006年にはアメリカ・ニューヨーク州で、世界初の長尺の超電導ケーブル線路を実現しました。今回の社会人インタビューは、超電導ケーブルの開発・研究に取り組むエンジニア・西村さんに話を伺いました。

プロフィール

2005年
東京大学工学部電気工学科卒業※
2007年
東京大学大学院 工学系研究科 電気系工学専攻 終了
2007年4月
住友電気工業株式会社入社

※現・東京大学工学部 電子情報工学科・電気電子工学科 日高・熊田研究室

※2009年9月現在。インタビュー中の敬称は略させて頂きました

学園祭で雷を起こす。電気って面白い!

まず西村さんが、大学受験のとき、電気工学を志望された理由を教えて下さい。

西村崇(以下、西村):実は私は、正直なところ、工学部へ入ったものの何を学ぼうかというのは、入学した時点ではあまり決めていなかったのです(苦笑)。

そうですか。では、いつ決めたのですか。

西村:東京大学工学部は、学部の2年の終わりに専門教科へ振り分けられるのです。その時に電気工学を専攻しました。電気を選んだ理由は、ありきたりですが、やっぱり日常生活で欠かせないイメージがあったからですね。それと、ちょっと恥ずかしい話なのですが、大学に入ってすぐに電気が止まったことがありまして(笑)。

それは家のですか。

西村:はい。1人暮らしをしていましたが、いざ電気が使えなくなると、いかに今まで自分が生活する上で、電気に頼ってきたのかというのを嫌というほど思い知らされました(笑)。それで、電気のことを知っておかなきゃいけないな、と思ったわけです。

なるほど。それで電気工学科へ進んだのですね。研究室は、日高・熊田研究室ですね。

西村:そうです。日高・熊田研究室を選択した理由は、3年生のときに5月祭で雷の実験のお手伝いをしたことがきっかけです。

東京大学の本郷キャンパスで、毎年5月に開催される大学祭・学園祭のことですね。実際に雷を発生させたのですか。

西村:ええ。日高・熊田研究室は、高電圧を扱う研究室で、天井まで届くような設備がたくさん並んでいます。3階まで吹き抜けになっているホールがあって、雷を起こせるのです。とにかく音の迫力が、凄まじいものがありますね。

まさに雷の「ドーン」という感じですか。

西村:はい、実際に雷が落ちるのを見て、衝撃を受けましたね。それから、「木と人間のどっちに、雷は落ちるのか」という実験もやりました。

どっちに落ちるのですか(苦笑)。

西村:雷は高い方に落ちやすいので、木に落ちます(笑)。ただし、あまりに近いと側雷といって人間にも落ちますが。このような実験を色々とお手伝いしている中で「高電圧って面白いな」と思いまして、日高・熊田研究室へ入ったわけです。

光で電気を測る、超電導ケーブルの謎の解明、史上初の研究に挑む

それでは、大学時代は、どのような研究をされていたのですか。

西村:はい、気体の中にある放電の現象などの研究をしていました。私がやっていたのは、ポッケルス効果という現象の応用研究です。

ポッケルス効果とは何ですか。

西村:簡単に言えば、特殊な誘電体を電界の中に置いた状態で、光を通過させると、光の屈折率が(誘電体の中で)変化するという不思議な現象があるのです。これをポッケルス効果と呼んでいます。私は、この現象を利用して、光の屈折率の変化を見ることで電界の大きさを測る研究を行っていました。

光で電界を測ることによって、従来の計測と何が違うのですか。

西村:これまでの測定は、計測機器を電界に接触する必要があるため、電界が乱れ、正確な測定が出来なくなることがあったのです。一方、このポッケルス効果の場合は、光を当てるだけなので、接触しないで計測ができます。そのため、非常に理想的な計測方法と言われており、従来不可能だった放電現象の直接計測も可能になるのでは、と期待されている新技術です。

凄いですね!歴史上初の計測技術ですか。そのポッケルス効果をずっと研究されていたのですか。

西村:いや、これは学部生の頃の研究です。大学院へ進んでからは研究が変わりまして、今まさに住友電工でやっている超電導ケーブル※に用いられる電気絶縁材料の特性を調べるということをやっていました。

具体的に言うと、どういう研究なのでしょうか。

西村:超電導ケーブルの絶縁材料には、PPLP(ポリプロピレンラミネート合成絶縁紙)という絶縁紙が使用されているのですが、-200℃の低温状態での特性が十分には解明できていないのです。この特性を解明することによって、もっとPPLPを薄くして、ケーブルをコンパクト化しようとする取り組みです。小型化することにより、超電導ケーブルのメリットをさらに向上させることを目指す研究です

そのPPLPの特性は解明されましたか。

西村:いや、残念ながら、いまだに十分には解明されていません(笑)。でも、解明の難しいハードルの高い研究のお陰で、超電導ケーブルが私にとってライフワークとなりました。

※超電導ケーブルとは、電気抵抗がない超電導体を使用した送電ケーブルのこと。電気抵抗が"ゼロ"であるため、現在、使用されている銅よりもはるかに、高効率・省電力なケーブルとなる。

日本初!超電導ケーブルの電力系統をつくる

それでは、住友電工へ入社された理由を教えてください。

西村:理由は、やはり大学院の研究の延長ですね。実用化の段階までは至っていない(実用化の一歩手前の段階)のですが、発電所や変電所などで実現するまで付き合ってみたいなと考えて、住友電工を志望しました。

では、入社されてから2年経つと伺いました。今どのような仕事をされていますか。

西村:私は、超電導を電力ケーブルに応用する開発をやっています。具体的に言いますと、住友電工は、平成22年度から、東京電力さんと共同で、高温超電導ケーブルを電力系統に連系する日本で初めての実証試験を実施します。このプロジェクトに私は加わっています。

日本初の超電導ケーブルの電力系統ですか!どのようなプロジェクトですか。

西村:実際の変電所には、長さ200~300メートルの超電導ケーブルが入りますが、その前に30メートル程の短いケーブルで事前検証をします。その試験を大阪府の熊取町で行っています。

高温超電導ケーブルの断面図(サンプル)。

具体的な仕事は、どういう感じでしょうか。

西村:実験がメインです。分かりやすくいいますと、超電導ケーブルに電流や電圧をかけて、それを検証する実験です。その結果を、実際の変電所に入る超電導ケーブルの仕様にフィードバックします。ケーブルの設計自体には私は関わっていませんが、実際の系統の運転や、電流を流してデータ監視および解析を行う作業を行っています。

分かりました。これまで仕事をされてきて、何か印象に残っていることはありますか。

西村:今話した30mケーブルの実験ですね。とにかく、重いものなので準備が大変なのです(苦笑)。一般的にケーブルというと、街中にある細い電線をイメージすると思いますが、超電導ケーブルは、電圧および電流容量が街中にあるケーブルの20万倍もあります(細いケーブルは容量1kVAに対し、超電導ケーブルは200MVA)。これをどうやってレイアウト通りに布設するか、そういった難しさです。

どちらかと言うと肉体労働ですか。

西村:ええ。屋外にケーブルを敷設して電気を流すという試験ですが、とにかく大掛かりな分、本当にきついです。ここ3~4ヶ月ずっとやっていて。やっと安定した試験に入って今ほっとしているところです(苦笑)。

他に何か、嬉しかったこととか、面白かったことがあれば。

西村:今の話の続きですが、実際に自分が汗水流して敷設したケーブルが無事に、狙い通りに動いてくれると嬉しいです。苦労が報われたといいますか。あとは、やっぱり、超電導ケーブルの実用化という夢に一歩一歩進んでいる実感を持てることですね。

2002年に実施された、三心一括型高温超電導
ケーブルの世界初の長期試験の様子
(住友電工HPより)

実際に超電導ケーブルが実用化されれば、私たちの生活はどのように良くなるのですか。

西村:実際に実用化するのは、おそらく20年後ぐらいだと思いますが、超電導ケーブルは、大容量送電が可能な上に電力ロスがほとんどありません。ですから、電気の経済性はもっと良くなると思います。それから、やはり環境面ですね。電力ロスがないことで、CO2の排出量が少なくなるという特徴があります。電気という便利で使いやすいものが画期的な進化を遂げるということは、大きな恩恵を私たちに与えてくれるはずです。

グローバルな視点で、電気工学を楽しく学ぼう!

今振り返って、電気工学を学んで良かったな、と思うことを教えてください。

西村:言い方は偉そうですが、私を頼ってくれることですね。と言うのは、高電圧を扱える人がなかなかいません。あとは計測ですね。具体的に言うと、オシロスコープなどの機器をスムーズに扱えるというのは、電気を学んでいて良かったな、と思います。でも、やはり超電導に出会えたことに尽きるかもしれません。

分かりました。では最後に、電気工学を学ぼうとする学生さんへのアドバイスをお願いしたいと思います。

西村:電気の道に進む人が少なくなった理由として、電気が難しいからという話をチラッと聞いたことがあります。ですから、電気の勉強の仕方を考えてほしいなと思うのです。机の上でガリガリ勉強していても面白くないので、例えば工作をしてみたり。実際に自分の手を動かしてモノを作って、そういった面から電気の勉強をしてほしいな、と思います。

考えてみたら、極端な言い方ですけど、西村さんがやっているのも、とても大きな電気工作と言えますよね。

西村:まぁ、そうですね。それから、電気は世界中どこでも使える技術です。特にメーカー系に進む人にとっては、大きなアドバンテージになるはずです。グローバルな視野を持ってもらうと嬉しいな、と思います。

西村さんご自身は、世界へ行って活躍したいという希望はありますか。

西村:そうですね。超電導ケーブルは、大容量が売りなので、必要な市場を探すとすれば日本だけにはとどまりません。いずれは世界中に広がると思います。「超電導ケーブルといえば住友電工の製品」という知名度を世界中で得ることが、私の大きな目標です。

分かりました。ぜひ超電導ケーブルを実用化して、私たちの生活をより豊かなものにして頂くことを願っています。ありがとうございました。

※インタビューへのご質問、お問い合せにつきましては、「こちら」にお願いします。

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