vol.6 京セラ株式会社

電気工学で、日本のケータイを世界へ広めたい。

社会人インタビュー vol.6

電気工学で、日本のケータイを世界へ広めたい。

京セラ株式会社
田中 賢司さん

おなじみの「au」向けの携帯端末を開発する京セラ株式会社は、ファインセラミックス専業メーカーとして1959 年に創業し、現在ではファインセラミック関連製品以外にも、電子デバイス関連、通信機器関連、太陽光発電システムなど多岐にわたる事業を展開しています。今回の社会人インタビューは、最先端のCDMA方式(※)の携帯端末を開発しているエンジニア・田中賢司さんに話を伺いました。

プロフィール

1997年3月
東京理科大学 電気工学科卒業
1999年3月
東京理科大学 大学院 工学研究科 電気工学専攻修了
1999年4月
京セラ株式会社 入社

※2009年10月現在。文中の敬称は略させて頂きました。

エコ社会のキーデバイス「太陽電池」の素材研究

大学受験のときに工学部の中で電気工学科を選択された理由を教えて下さい。

田中 賢司(以下、田中):もともと電気が小さいころから好きだったからです。電気製品の中がどうなっているのだろうか、どうやって動いているのだろうか、興味がありました。結局、その延長で電気工学科に入った感じです。

自然と電気工学の道へ進まれたのですね。

田中:はい。私の場合は、特に意識せず気がついたら、電気の世界にいました(笑)。

分かりました。それでは、大学の研究室ではどのような研究をされていたのですか。

田中:私は、太陽電池の素材の製造研究をしていました。具体的には、現在、太陽電池の素材というのはシリコンが主なのですが、私の場合は化合物半導体を使用した太陽電池の製造方法を研究していました。

素材ですか。電気というより化学的な研究ですね。

田中:そうですね。ご存じのとおり電気工学は応用範囲が広いですから。東京理科大学の電気工学科には、色々な研究室があります。当然電力系の研究をしているところもあれば、通信や化学を取り入れた研究をしているところもあります。当時は、パワーアカデミーの運営委員長をしている関根先生の研究室もありまして、私も関根先生の授業を受けたことがあります(笑)。

それでは、研究室の思い出を教えて下さい。

田中:思い出に残っていることは、電着法の研究における「再現性」で悩まされたことですね(苦笑)。

少し、具体的に教えて下さい。

田中:電着法というのは、先ほどお話しした化合物半導体の太陽電池の製造方法です。極端なことを言えばビーカーと水溶液だけで安価につくれるメリットがあるのですが、一方で、製造のパラメータ(条件)がすごく多いといったデメリットがあります。例えば水溶液の量や温度、材料であるカッパー、インジウム、セレンの比率、濃度、電圧、電圧の印可時間など、とにかく色々な条件があるので、何度も同じモノをつくることが大変難しいのです。この問題に、学部時代の研究期間を含めて3年間悩まされ続けましたね。

他に思い出に残っていることはありますか。

田中:研究中は時間を拘束されて、どうしても入り浸ってしまうことになるので、結構、仲間内で飲んだりしていました。泊り込んだこともあります。特に再現性の問題を、みんなで愚痴りあっていましたね(苦笑)。

携帯電話の開発は、電気工学が支えている

では、京セラに入社された理由を教えて下さい。

田中:きっかけとしては大学の先輩で京セラに勤めている方がいまして、その方に会社のことを色々教わったことですね。京セラは、部品もつくっていますし、携帯電話もやっていますし、グループ会社も多く様々な事業をやっていることが魅力的でした。

自分の学生時代の研究を活かすという意味で太陽電池をつくりたいという希望はなかったのですか。

田中:少しはありました。ただ、元々私は電気製品に興味があり、また大学時代は太陽電池の研究をしていましたが、電気工学全般を学んでいたので、色々なところに応用が利くと思って入社しました。

分かりました。それで入社後、どのような仕事をされたのですか。

田中:最初に、信頼性評価課という部署で携帯電話の品質保証をやりました。製品の信頼性をテストすることがミッションで、携帯電話に静電気を何回かけたら壊れるかとか、ある高さから携帯を落として何回までなら壊れないかとか、高温状態でも故障しないか、などですね。

その品質保証の仕事に電気工学の知識は、どういうふうに活かされていましたか。

田中:静電気を扱うので、電磁気学の知識が必要です。それと回路図を見ますから、電気回路の知識も必要です。

そうですか!

田中:はい。ただ単に試験だけをしていればいいわけではないのです。例えば、どういう静電気量が適正なのかとか、電気工学の知識がなければ対応できないことが多々あります。

※ CDMA方式とは
CDMA方式(Code Division Multiple Access)とは、符号分割多重接続の略で、無線通信の通信方式の一つである。複数の音声信号を合成して1つの周波数で送信するため、周波数の利用効率を高めることができる。受け手は、音声信号の符号を認識することで、相手の音声信号のみを取り出すことができる。

電気回路は、携帯電話の心臓です

現在、携帯電話の設計・開発業務に従事しているということですが、具体的にどのような仕事をされているのですか。

田中:国内外のCDMA方式の携帯電話の電源ブロックの設計を担当しています。携帯電話を人間にたとえることがあると思います。例えばディスプレイが顔であったり、マイクが口であったり、CPUやメモリは脳であったりと。私の担当している電源はちょうど心臓に該当する部分です。

人間の心臓だと。

田中:そうですね。心臓なので各ブロックに対して適切な電圧や電流を供給していくことが役割になります。適切というのは、ただ単に正しい電圧、電流だけではなくて、当然その中には面積やコスト、電源効率も考慮しなくてはなりません。それから生産性や安全性など、ベストな構成となる回路を考えていく仕事です。

現在、田中さんが手掛けている京セラ製品

携帯電話に電気工学はどのように活かされていますか。

田中:私が担当している電源ブロックは電気回路の一部なので、当然、電気回路の知識が必要になります。他に静電気に関する電磁気学の知識も必要になりますし、通信におけるノイズ対策、電磁波の知識も必要で、これらは全て電気工学になります。

苦労して開発したケータイが、街中に溢れている

今までの仕事で印象に残っているエピソードはありますか。

田中:システム電源ICの開発に携わったことですね。システム電源ICというのは、電源だけでなく色々な機能が統合されたICのことです。その仕様を決めるのがすごく大変だったことを覚えています。仕様決めとは、電源ICの数をいくつにするとか、何ボルトの電圧を出力するのとか、電流を何ミリアンペアに出力するのとかを決めていく作業です。

どうして大変だったのですか。

田中:一つのモデルに合わせ込んでつくれば、特に悩む必要はないのですが、汎用的に色々なモデルに使えるシステム電源ICにすることが大変でした。つまり、様々な機種があるので、とにかく色々な状況を想定しないといけないわけです。電圧の値や回路構成などはもちろん、ICのピンの配置まで。気が遠くなるような感じでした(苦笑)。

では、これまで仕事をしていてうれしかったことは何ですか。

田中:自分が関わった製品が世の中で使われることですね。電車や街中で自分が手がけた製品を見つけると、技術者としては最高にうれしいです。

初めて自分が携わった製品が、世に出た時を覚えていますか。

田中:もちろん。私は、最初、海外の端末を開発していました。ですから、皆さんが使用しているところを見られなくて残念だったことを、よく覚えています(笑)。はじめて国内のモデルを手がけたのがW41Kという機種(※現在は生産終了)です。街中で見かけたときは、うれしかったですね。

世の中の進化の根幹には、電気工学がある

これから電気工学を学ぼうとする方に、電気工学の良さをアピールしていただければと思います。

田中:世の中どんどん便利になってきていると思うのですが、その根幹には絶対に電気工学があると思うのです。そういった将来の発展に自分たちの力が役に立っていることを自負して学んで欲しいと思っています。また、電気工学は応用範囲がすごく広いですよね。だから、電気工学を必要とする企業も多いですし、入社してからも活躍できる場が数多くあります。

分かりました。最後に田中さんのこれからの夢や目標を教えてください。

田中:海外で通用するような端末をつくっていきたいです。日本は、これだけ進んでいる技術がありますので、海外勢に技術で負けることはないと思っています。日本人特有の細かさや責任感、信頼性を持って、盛り返していきたいです。

自動車や家電は、日本製は強いですよね。

田中:そうですね。電気工学の知識を武器に、京セラの携帯端末を世界へ広めていきたいと考えています。

将来、京セラの携帯電話を、世界中で見かける日を期待しています。本日は、ありがとうございました。

※インタビューへのご質問、お問い合せにつきましては、「こちら」にお願いします。

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