電気の施設訪問レポート vol.30

JERAトヨタ自動車「大容量スイープ蓄電システム」を訪問しました

JERAトヨタ自動車「大容量スイープ蓄電システム」を訪問しました

2023年2月、パワーアカデミー事務局は、JERA四日市火力発電所構内(三重県)に設置された、「大容量スイープ蓄電システム」を訪問しました。株式会社JERA(以下JERA)とトヨタ自動車株式会社(以下トヨタ)が共同で構築した大容量スイープ蓄電システムは、電動車の使用済みバッテリーを再利用する蓄電システムです。1月23日には中部電力パワーグリッドの配電系統に接続して系統用蓄電池としての充放電運転を開始しました。カーボンニュートラルの実現に貢献するため、JERAとトヨタが共同で取り組んだ、画期的な取り組みをレポートします。

JERAとトヨタ自動車が共同で取り組んだ背景

地球温暖化の主な要因となっているCO2(二酸化炭素)排出量の削減は、現在、世界中の人々が直面する課題となっています。日本政府は、2050年までにCO2をはじめとする温暖化ガスの排出を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」を宣言し、脱炭素社会の実現に向けて取り組んでいます。また、この取り組みの一つとして、2035年までに乗用車の新車販売で「電動車100%」を実現できるよう、包括的な措置を講じるとしています。従って今後ガソリン車は減っていき、バッテリーを動力源とする電動車(ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車、電気自動車など)が社会の主流となってくると予想されています。

そうした中、トヨタはこれから電動車の普及が進む中で、地球環境保全や資源活用などの観点から、需要が拡大する車載バッテリーのリサイクルやリユースの取り組みを進めています。一方、JERAは、再生可能エネルギーの導入拡大に際して、電力の安定供給のため必要性が高まっている蓄電池の活用について積極的に取り組んでいます。JERAもトヨタもCO2排出量削減をミッションとして掲げており、両社の課題と目的が合致、共同で車載バッテリーをリユースする大容量スイープ蓄電システムの開発・運用の実証試験を実施しました。

電動車のリユースバッテリーを使い切る!大容量スイープ蓄電システムとは?

大容量スイープ蓄電システムの、スイープ機能とは、直列につないだ各バッテリーの通電と非通電(バイパス)を数マイクロ秒で切り替えることにより、充放電量を任意に制御できるデバイスのことです。使用済みバッテリーは通常、リユースのために性能および容量のバラツキがあります。そのため、直列に複数のバッテリーをつなげて使用する場合、劣化した電池の性能に影響されて性能を出し切れないという課題がありました。

スイープ機能は、低圧MOSという半導体スイッチによって、各バッテリーの通電と非通電をマイクロ秒単位で切り替えることで、充放電を任意に制御することに成功。いわば、バッテリーを個別に監視して効率よく使えるシステムで、電池の劣化状態を問わず、異なる電池が混合した状態でも容量を使い切ることを実現しました。

ずらっと並ぶリユースバッテリー。これらは直列につながり、大容量スイープ蓄電システムを構成しています。

電力変換装置を使用しない、パワーエレクロニクスの最先端技術

さらに、大容量スイープ蓄電システムには、もう一つ大きな特長があります。通常、こうした電力機器には、パワーコンディショナー(PCS)と呼ばれる、直流の電気を交流に変換して利用できるようにする装置が必要です。ところが、大容量スイープ蓄電システムはスイープ機能により、PCSを使用せずに直流を直接、交流へ変換することを可能にしました。これにより、PCSにかかるコストやスペースを削減できると共に、PCSを使用する際の電力損失を抑えてエネルギーの利用効率向上につながります。また、システム運転を止めずに個別に解列(系統から切り離された状態)し電池を交換することが可能です。大容量スイープ蓄電システムは、電気工学におけるパワーエレクトロニクスを応用した最先端技術といえます。

多種多様なリユース電池に対応し、系統連系を実現

JERAとトヨタは2018年より、ニッケル水素電池、リチウムイオン電池、両電池のハイブリッド、他社製リユース電池や鉛電池など、多種多様なリユース電池に対応した大容量スイープ蓄電システムの実証試験を行っています。その結果、2023年1月23日よりJERA四日市火力発電所において、大容量スイープ蓄電システムを中部電力パワーグリッドの配電系統に接続して、系統用蓄電池としての充放電運転を開始しました。一般家庭145世帯の1日の電力使用量に相当する設備規模(485kW/1260kWh)で、3つのコンテナ棟に車両120台分のリユースバッテリーが収容されています。前例がない蓄電システムの系統連系なため、接続に関する協議を綿密に行いつつ、特にノイズ対策などに苦慮したと言いますが、現在では四日市をはじめとする三重県北勢エリアへの電力供給網に接続しています。

今後の課題としては、使用済みバッテリーを大規模かつ継続的に集めるシステムの確立が挙げられます。また、JERAは住友化学株式会社と共同で資源循環にあたって新たなリサイクルプロセスも開発中で、これからの発展が注目されます。

こちらのコンテナ棟内に、車両約40台分のリユースバッテリーが収容されています。

「大容量スイープ蓄電システム」をご案内いただきました

当日、ご案内いただいた、「大容量スイープ蓄電システム」の設備をご紹介します。

コンテナ棟(蓄電システム)内部

ニッケル水素電池およびリチウムイオン電池、さらにノイズフィルター、リユースした車載用インバータ(直流電流を交流電流に変換する回路)などで構成されています。その他、ワイヤーハーネスなどの装置も、ほとんどが電動車のものを使用しています。

ニッケル水素電池

トヨタのハイブリッド車に主に使用されているバッテリーである、ニッケル水素電池による蓄電システムです。

リチウムイオン電池

電気自動車のバッテリーとしてもっとも普及しているリチウムイオン電池による蓄電システムです。

半導体スイッチ(筐体・内部(裏))

各バッテリーの通電と非通電を数マイクロ秒で切り替えている低圧MOSという半導体スイッチになります。大容量スイープ蓄電システムの心臓部と言ってよい装置です。

上部の筐体が半導体スイッチ。

内部の半導体スイッチ。

大容量スイープ蓄電システムのデモ機

10台分の使用済み駆動用バッテリーを乾電池で模したデモ機です。動作原理についてご説明いただきました。

編集後記

大容量スイープ蓄電システムにおいてPCSを不要として電力系統に接続したことは、世界に先駆けて実現した画期的な技術成果と言ってよく、取材に訪れたマスコミ関係者は驚きの声を上げているそうです。カーボンニュートラルの実現へ向けて、日本だけでなく世界展開も求められる、大容量スイープ蓄電システムの今後がますます楽しみです。

ご案内いただいたのは、JERA 技術経営戦略部 技術開発ユニットの尾崎亮一ユニット長(写真左)と森山友広課長代理(右)です。お二人とも電気系のご出身でしたので、最後にパワーアカデミーWEBサイトをご覧の皆様宛に下記のメッセージをいただきました。

「大容量スイープ蓄電システムは業種の垣根を超えた取り組みだったこともあり、新たなイノベーションが生まれたと考えています。既成概念の枠にとどまらず、異業者同士がお互いアイデアを出し合う事で、世の中が困っていることを解決することができると考えています。学生の皆様は幅広い視点でいろいろなことを学ぶ姿勢を身につけていただければと思います。」

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