電気の施設訪問レポート vol.24

「山川発電所/山川バイナリー発電所」を訪問しました

「山川発電所/山川バイナリー発電所」を訪問しました

2018年12月、パワーアカデミー事務局は、指宿市山川地区にある地熱発電所、九州電力「山川(やまがわ)発電所」および九電みらいエナジー「山川バイナリー発電所」を訪問しました。山川バイナリー発電所は、山川発電所の敷地内にあり、2018年2月に営業運転を開始した、国内最大級のバイナリー発電所です。本記事では、地熱発電の新たな可能性を切り拓く、バイナリー発電にスポットを当ててレポートします。

九州で3番目の地熱発電所となる山川発電所

山川発電所の蒸気井(じょうきせい)。地下深部の地熱貯留槽から蒸気と熱水を取り出すための井戸です。この蒸気で蒸気タービンを回し発電します。

地熱発電は、化石燃料をまったく使わず、地下から取り出した蒸気を利用するクリーンな発電方法です。詳細の仕組みは、電気の施設訪問レポート vol.7 東北電力・上の岱地熱発電所をご覧ください。

九州電力・山川発電所は、事業用として九州では、大岳発電所、八丁原発電所に次いで3番目、全国では7番目に建設された地熱発電所で、1995年に営業運転を開始しました。発電能力は3万キロワットで、1件のご家庭で平均3キロワットを使うとすれば、1万戸をまかなうことができ、蒸気の使用量は1時間に225トンに及びます。指宿市は約2万戸のため、単純計算して約半分の世帯へ電力を供給することが可能です。

特徴としては、海岸近くの平坦地に立地しているということ。海抜43メートルという低地にある地熱発電所は大変珍しいものです。また、海岸に近いので、海水と同程度の塩分濃度2万~3万ppmの熱水を使用しているのも特徴です。

地域社会との共生、周辺の園芸農家に蒸気を無償提供

日本百名山の1つで薩摩富士と称される、標高924メートル開聞岳(かいもんだけ)です。

山川発電所/山川バイナリー発電所がある指宿市山川地区は、鹿児島県・薩摩半島の南東端に位置しており、砂むし温泉で大変有名な地域です。また、古くから薩摩の海の玄関口として利用され、琉球との貿易や、カツオを中心とした漁業や水産業も盛んです。発電所は海岸に近い畑に囲まれ、薩摩富士と称される、開聞岳(かいもんだけ)の眺望が大変美しいところにあります。

地熱という自然の恵みを利用する山川発電所/山川バイナリー発電所にとって、地域社会との共生は大変重要です。そこで、山川発電所では、発電に利用できない余剰蒸気を、2015年の5月から周辺の園芸農家に無償提供する取り組みを行っています。余剰蒸気は、園芸ハウス内の加温などのエネルギーとして活用され、胡蝶蘭、マンゴーや観葉植物が栽培されています。今後も山川発電所/山川バイナリー発電所は、地域と共に歩む発電所として活動を行っていきます。

バイナリー発電とは?山川バイナリー発電所の建設背景

山川バイナリー発電所の全景(山川発電所より撮影)。

地熱発電は、クリーンな発電方法ですが、基本的には、高温の蒸気を利用してタービン発電機を稼動させることで電気をつくります。そのため、比較的温度の低い蒸気・熱水は使用できませんでした。

そこで、こうした未利用エネルギーの有効活用などのために、今、地熱発電で採用されているのが、バイナリー発電方式です。バイナリー発電とは、水よりも沸点の低い"媒体"を加熱・蒸発させてその蒸気でタービンを回す方式です。加熱源系統と媒体系統の二つの熱サイクルを利用して発電することから、バイナリーサイクル(Binary※英語で"ふたつの"という意味)発電と呼ばれています。バイナリー発電に欠かせない"媒体"には通常、ペンタン、代替フロン、アンモニア水などが使用されています。

山川バイナリー発電所は、九電みらいエナジーが大分県九重町の菅原バイナリー発電所に次いで開発した、国内最大級のバイナリー発電所で、山川発電所のフラッシュ方式では発電に利用できずに地下に戻していた、熱水の未利用エネルギーを有効活用し、その熱で発電しています。九州電力が還元熱水(熱)を供給して、九電みらいエナジーが発電所を運営するという、九電グループ一体での取組みで、2018年2月に営業運転を開始しました。発電出力は、4990キロワットで、山川発電所の3万キロワットと合わせて電力を供給しています。

水よりも沸点が低い"媒体"が活躍する、山川バイナリー発電所の仕組み

それでは、具体的に山川バイナリー発電所の仕組みについて解説しましょう。
山川バイナリー発電所は、山川発電所のフラッシュ方式では発電に利用できずに地下へ戻していた還元熱水の熱で媒体・ペンタンを加熱・蒸発させて、その蒸気で発電しています。ペンタンは、水の沸点100℃に比べて、より低い温度で液体から蒸気に変えることができます。沸点は36.1℃で、無色透明の液体です。

具体的な発電までの流れを簡単に説明しますと、山川発電所から送られてきた熱水は、山川バイナリー発電所の汽水分離器で、一度蒸気と熱水に分離されます。分離された蒸気は、蒸発器に送られ、ペンタンは汽水分離器から送られてきた蒸気により、加熱、蒸発させられ気化し、高温高圧の状態となります。そして、蒸気タービンに送られて発電機を回し、電気をつくるという流れとなります。

山川バイナリー発電所の仕組み

山川バイナリー発電所の設備をご案内いただきました

当日、ご案内いただいた、山川バイナリー発電所の設備をご紹介します。併せて、山川発電所展示室もご紹介します。

山川発電所・熱水タンク

山川発電所の熱水タンクです。ここから山川バイナリー発電所の汽水分離器へ熱水輸送管を通じて、地熱熱水を送ります。

汽水分離器

汽水分離器では、山川発電所の熱水タンクから送られた地熱熱水を、蒸気と熱水に分離します。汽水分離後の蒸気は蒸発器でペンタンと熱交換後液化し、熱水は熱水タンクを経由して予熱器で熱交換した後、それぞれフラッシュタンクへ向かいます。

蒸発器

蒸発器では、汽水分離器から分離後の蒸気でペンタンを加熱し、蒸発させます。気化したペンタンは、蒸気タービンに送られます。

蒸気タービンと発電機

四角い壁で覆われた中に、蒸気タービンと発電機があります。四角い壁は、発生する騒音を低減させるための防音壁です。蒸気タービンに送られた、高温高圧のペンタンは、蒸気タービンを1分間に1800回転させます。蒸気タービンは連結された発電機を回し、電気をつくります。

屋外変電設備

発電機でつくった高圧6.6kVの電気を特別高圧66kVの電気に変圧して、送電線へ送電します。

復水器

蒸気タービンで使用されたペンタンを外部の空気によって、冷却・液化する設備です。低騒音モーターの採用などで騒音低減を図っています。

フラッシュタンク

フラッシュタンクは、蒸発器と予熱器から送られてきた地熱熱水を減圧し、山川発電所の熱水ピットに送る装置です。減圧により発生する水蒸気の白煙は、水を噴霧して軽減させています。

九州電力・山川発電所展示室

年末年始を除き、毎日開館しています。山川発電所や山川バイナリー発電所について、分かりやすく理解できる展示室です。展示室には、田園風景がステージになったシアターや楽しいゲームで学べる設備があります。

編集後記

写真右よりご案内いただいた、九州電力・山川発電所・山下孝信所長、九電みらいエナジー・山川バイナリー発電所・坂井貴彦所長、九州電力・山川発電所・新留輝幸副長。山川発電所展示室の受付の方と、山川発電所の余剰蒸気を使用して周辺農家の方が栽培した胡蝶蘭を囲んで撮影させていただきました。(取材当時)

九州電力はグループ会社を含めて、地熱発電に取り組んできた歴史が60年以上あります。そのため、認可出力では全国の約4割、発電電力量だと5割以上という実績を持っており、最新式のバイナリー発電の取り組みも積極的に行っていることが実感できました。ぜひ、指宿に訪れた際には、山川発電所/山川バイナリー発電所にもお立ち寄り頂きたいと思います。お問い合わせは、九州電力公式HPからどうぞ。

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