vol.46 岡山大学

高温超電導の研究を通じて、さまざまな社会課題を解決したい。

学生インタビュー vol.46

高温超電導の研究を通じて、さまざまな社会課題を解決したい。

岡山大学 超電導応用工学研究室
立田貴裕さん、大草晴義さん、西川大亮さん

今回は、岡山大学の超電導応用工学研究室にお邪魔しました。こちらでは高温超電導体を用いた超電導応用機器の研究・開発を幅広く手掛けています。今回、インタビューしたのは、高温超電導コイルについての研究を行っているグループで、発電機の小型化や電力貯蔵装置への応用などを目指しています。研究室内の風通しのよさは抜群で、日々のコミュニケーションを楽しみながら研究に取り組んでいらっしゃいます。

※2018年12月現在。文章中の敬称は略させていただきました。

超電導と、研究室の自由な雰囲気に惹かれて

皆さんが電気工学を学ぼうと思われた動機を教えてください。大草さん、いかがですか。

大草:高校時代は物理が得意で、最初は別の大学に進学してソフトウェアを勉強していました。しかし、次第に電気や機械の方が面白そうと感じ、ハードウェアの方が得意な物理も活かせるのではと思うようになり、大学3年生の時に岡山大学へ編入しました。また、電気自動車や蓄電池に関するニュースをよく耳にするようになり、これからの社会では電気技術者がより活躍できるという確信があったことも大きな理由です。

現在の研究室を選ばれたのはどうしてでしょう。

大草:超電導に興味があったというのが一番の動機です。コイルも面白そうだと感じました。あとは、金先生の研究室の自由な雰囲気にも惹かれました。私はきっちりと決められたスケジュールに則って進めるより、自分のペースで取り組める方が、性に合っていますので。

では立田さん、いかがでしょう。

立田:私は、高校2年生の時に岡山大学のオープンキャンパスを訪れたことがきっかけで、電気に興味を持つようになりました。あとは親の影響も大きかったです。というのも父親が電気系の仕事をしていて、「電気というものは社会のいたるところに需要があり、どの分野でも活躍できる」と教えてもらっていました。

なるほど。お父様のおかげですか。

立田:はい、特にやりたいことが明確だったわけではなかったので、それなら電気を勉強しておけば将来はどこにでもいけるのでは、と思いました。

研究室を選ばれた理由は何でしたか。

立田:MRIなどの医療機器に携わってみたいという思いがあり、超電導を学びたいと思いました。あとは大草さんと同じなんですが、研究室の雰囲気がとてもよいと感じました。研究する時は真剣に取り組み、休むときは休んで、というメリハリのある生活がいいと思ったのです。

では西川さん、お願いします。

西川:私はもともと音楽が好きで、将来は音響機器の設計に携わりたいという思いが高校時代にあったためです。

趣味が電気工学のきっかけでしたか。

西川:理系に進もうとは思っていましたが、将来のことを考えたら自分の好きなことを仕事にできたらいいと考え、音楽好きだったものですから、音響や楽器の設計に役立つのではないかと考えて電気を選びました。もちろん楽器に限らず電力や電気製品など幅広い分野に就職することもできると思いました。

では、本当は音響関係の研究室に行きたかったのですか。

西川:そうですね(笑)。でも、岡山大学には音響関係の研究室がなかったというのもありますが、今先輩二人が話したように、私も研究室見学で感じた雰囲気のよさに惹かれたことが一番の理由です。先輩方同様、自分のペースで頑張れそうなところがいいと思いました。

高温超電導コイルの常識をくつがえす研究にチームで挑む

では、皆さんの研究内容について教えていただけますか。3人とも同じチームとのことですが、代表して大草さんからお願いします。

大草:私たちの研究室では、熱的安定性と機械強度が高い高温超電導コイルを開発しています。現在MRIなどで使われている超電導コイルに比べ、高温超電導コイルは少ないエネルギーで大きな磁力を生み出すことができる点が特徴です。

どのような分野への応用が考えられますか。

大草:大型船舶の電動化、風力発電機の小型化、不安定な再生可能エネルギーを補助するための電力貯蔵装置(SMES)などへの応用が期待されています。一方で、高温超電導コイルには熱的安定性と機械強度が低いという課題があるため、それらの同時解決も目標としています。

その熱的安定性と機械強度が低いという課題について、ちょっと詳しく教えてください。

大草:超電導線材のコイル応用では、コイルの一部が超電導状態から常電導状態に戻る現象(クエンチ現象)が発生することがあります。そうなると抵抗が発生し、急激なジュール加熱で機器の損傷が発生する恐れがあるので、従来の研究では、コイルの外部にクエンチを検出する機器や保護装置が必要でした。ただ、風力発電や船舶用モータに高温超電導線材を利用すると、クエンチ検出機器や保護装置をつけるのが難しいのです。

立田:一方で、高温超電導線材を無絶縁巻線方式でコイル化することで、コイル自身でクエンチによる問題を解決できることが分かってきました。そこで、私たちは巻線間の絶縁を取り除いた巻線間無絶縁コイルについて研究しています。(※1)

普通のコイルには巻線間に絶縁体が必ずありますが、そこを無絶縁にするというわけですね。具体的にクエンチによる問題をどのように解決できるのですか。

超電導コイルチームにとって、もっとも重要なコイルづくり。巻線機でつくります。

立田:無絶縁コイルでは、クエンチ現象により発生した抵抗を避けるように電流を他層へ分流させることができます。それによって、ジュール熱で焼損することがないようにするわけです。これが熱安定性に関する研究です。また、無絶縁コイルでは逆にクエンチ現象を利用して、有効ターン数を制御することで、コイルのインダクタンスを変化させることが可能です。そうすることで利用の幅が広がります。(※2)

大草:一方の機械強度が低いということについては、コイルの外から力をかけて形状変化を防止することで解決できると考えています。超電導コイルは77K(-196℃)まで冷やすことにより熱収縮が起きて縮み、大きな電流を通電することにより激しく膨張します。これらを繰り返すことによって巻き線間の接触状況が変化し、コイルの劣化が進みます。

(※1)パワーアカデミー研究助成2014年度特別推進研究では、金錫範教授を代表研究者とするコイルの無絶縁巻線方式とインダクタンス制御法に関係する研究が採択されました。詳細は、採択者一覧と、採択者インタビューをご覧ください。

(※2)インダクタンスとは、コイルを流れる電流の変化に対して、発生する電圧の割合を表す量。ジュール熱との関係は、高校理科と電気工学「エネルギーを発見した、ジュール」もご覧ください。

電気抵抗がゼロになる現象を目の当たりにして

皆さんが研究されている高温超電導が実用化されると、省エネ化が進むということですか。

大草:そうですね。小型化というのは現在の超電導でもある程度可能ですが、高温超電導の場合はやはり省エネ化という点が一番の魅力ですね。

西川さんはそんな2人の研究を手伝っていらっしゃるわけですね。

西川:ええ、私はまだ学部生ですから、先輩方の研究のお手伝いをしながら必要な知識や技術を学んでいるところです。今は研究補助を通じて来年以降どのように発展させていくかを考えながら過ごしています。

超電導の研究に携わってみて、どんな印象をお持ちですか。

西川:超電導という言葉自体はリニアモーターカーなどでなじみはありましたが、電気抵抗がゼロになるというのはまったくイメージがわきませんでした。ですから実験してみて「あっ、本当にゼロになるんだ」と数値を見てストレートに感じたことが、率直な印象です。電気抵抗がゼロになるというのは不思議な現象なんですが、本当のことなんだと驚きました。

立田さんは研究でどんなことを感じましたか。

立田:100 Aという大きな電流を流すことに加え、そんな大きなエネルギーが超電導線材のような厚さ0.1ミリという薄い線に流れていることに驚きました。

大草さんは国際学会で発表もされたそうですね。

立田:ええ。外国人研究者たちの勢いには驚かされました。「そんなことまで」と思うような細かい実験条件について矢継ぎ早に質問されたことや、他の解決方法と比べてどちらが有効かという議論をしたことが印象に残っています。彼らの研究に対する貪欲さを肌で感じ、自分もより努力しなければと思いました。

ゴルフで楽しくコミュニケーションする、風通しのいい研究室

では、皆さんの研究室の特徴について教えてください。

大草:とにかく実験機材のスケールが大きいですね。例えば、磁石と言われれば一般の人は小さな永久磁石を想像するでしょうが、私たちが扱っているのは超電導技術を利用した電磁石であり、周りの金属体を引きつけるほど強力なものです。また、超電導線をはじめとして、一般では入手できないようなものを用いて実験を行っています。そのように、ほかではできない経験をできるのがこの研究室のいいところだと思っています。

立田:私は先ほども言ったことに通じるのですが、先輩や後輩の仲がよくて、雰囲気もいいことが魅力だと感じています。やるときはやる、遊ぶときはきっちり遊ぶと、メリハリがしっかりしています。

西川:私も立田さんと同じで、オンとオフの切り替えのうまい人が集まった研究室だと感じています。息抜きの時間に談笑していても、研究に戻ると誰もがすぐに真剣な表情で集中しています。また、みんないろいろ趣味を持っているという点も研究室の特徴ですね。研究室で空き時間には筋トレに打ち込んでいる人もいます(笑)。

これが、超電導技術を利用した電磁石(超電導マグネット)です。

風通しのいい風土は、研究室の自慢!先輩・後輩が助け合って研究を進めています。

多趣味な方が多いようですね。

西川:金先生の趣味がゴルフということで、その影響か、ゴルフをやる人が目立ちますね。私も時々打ちっぱなしにいき、みんなと交流を深めています。ゴルフはプレーしながら会話が楽しめるので、親睦を深めるにはぴったりですよ。

ゴルフで交流とはすごいですね(笑)。

大草:ちょっとクルマで郊外にいけば、安くできますよ。クラブを個人で持っている人もいますが、研究室には共有のクラブもあります。年1回はゴルフ合宿という感じで、泊まりがけで楽しんでいます。

研究室内のコミュニケーションはしっかりできているようですね。

大草:ソフトウェアや電源の操作などを全員で連携して行うことが多く、自然と仲よくなっていきますね。また、合宿等のイベントもあり、先生方と学生の距離も近いと思います。合宿でもゴルフはみんなで楽しんでいます。

立田:先輩と後輩の垣根がなく、定期的に飲み会もあって、雰囲気はとてもいいですよ。

普段の生活ぶりについても教えてください。

西川:研究室には特にコアタイムが設けられていないので、私はだいたい家でできる作業をしてからお昼前ぐらいに来て、研究をします。実験の日は朝から夜までずっと実験ですが。あとは、高校時代からギターをやっていて、今も軽音サークルに所属してバンド活動をしており、研究の合間に練習しています。学園祭ではライブをしましたが、研究室の先輩方も観に来てくださいました。

橋口:僕も観に行きましたよ。

立田:僕は、普段は11時頃に研究室に来て夕方まで研究を行い、夜は友人とご飯を食べたり、「うらじゃ」の練習に行ったりしています。

「うらじゃ」とは?

立田:簡単に言えば、岡山の伝統的な「よさこい」のようなものですね。その伝統的な踊りを、自分たち流にアレンジして踊っています。私は今、社会人のチームに参加して、週に3回ほど練習しています。けっこうハードな踊りですよ。

大草:僕の場合、午前中は研究室内にいることが多く、午後も引き続き研究室で実験データを分析したり、実験室でコイルの部品を作ったりしています。あとはサッカー観戦が趣味なので、スタジアムにも足を運んでいます。海外にも観戦に行きました。

研究室の皆さんに集合していただきました。前段、左から3番目が金錫範教授。2番目が植田浩史准教授です。

就職先のレンジの広さが、電気工学のもっとも大きな強み

電気工学を学んでいてよかったと思うのは、どんな点でしょうか。

大草:社会問題への関心が高まったことですね。現代社会に電気は不可欠ですから、電気を通じてエネルギー、環境、ITといった分野に目が向くようになり、さらにはこれから社会がどのように発展するかということにも興味を持つようになりました。電気自動車や再生可能エネルギーを普及させるためにも、電気工学のさらなる発展が必要不可欠だと感じています。

大草さんは就職も決まっているんですよね。

大草:ええ、エネルギー関係の会社に入社が決まりました。現在はほとんどの企業で製造過程が電動化されているため、電気を学んだ学生は様々な業界で求められていると就職活動中に実感しました。

立田さんはいかがですか。

立田:私も就職に強いという点は電気工学を学んでよかったと思うことです。就職活動の一環でインターンシップに行ったのですが、電気工学は幅広い分野で活躍することができると感じました。今後はIoT化もさらに進むでしょうから、社会の中でますます重要な役割を担っていくと思います。

西川さんは、就職活動はまだ先ですね。

西川:ええ。ただ、友人や先輩方の話を聞いていると、やはり電気工学出身者は幅広い分野で求められているような気がします。あらゆる分野、場面で電気に関する知識・技術が必要とされるためか、電気系は他の学科に比べて就職先のレンジが広いように感じます。また、個人的に電気工学を学んでよかったと思うのは、回路図が読めるようになったことで趣味のギターに役立っているという点ですね。ギターのエフェクターやアンプなどの回路図が読めるのでバンドの仲間に説明しています。趣味の知識が深まったことは、シンプルに嬉しいです。超電導ギターを作ったら面白いよね、なんていう話で盛り上がることもあります。

では、最後に皆さんの将来の夢を聞かせてください。

大草:私は電気系の技術者として就職することが決まっています。現在、電気自動車や再生可能エネルギーの普及が見込まれていますが、まだまだ技術的な課題も残されています。一人の技術者として、私はそのような社会的課題の解決に貢献したいと思っています。

立田:将来は電機メーカーに勤められたらいいと考えています。特に医療機器に携われたら嬉しいですね。

西川:私は将来、音響機器の設計に携わりたいと考えています。そのため研究活動を通じて主体的に研究に取り組む姿勢や様々な事象を多面的にとらえる思考力などを身につけ、それらを仕事に活かせたらと思います。

皆さん、生き生きと超電導の研究に取り組まれていると実感しました。本日は、どうもありがとうございました。

※インタビューへのご質問、お問い合せにつきましては、「こちら」にお願いします。

バックナンバー

バックナンバーを絞り込む

研究キーワードから探す

大学の所在地から探す

サイト更新情報をお届け

「インタビュー」「身近な電気工学」など、サイトの更新情報や電気工学にかかわる情報をお届けします。

メールマガジン登録