vol.36 東京工業大学

パワエレの専門性を武器に社会のニーズにこたえたい。

学生インタビュー vol.36

パワエレの専門性を武器に社会のニーズにこたえたい。

東京工業大学 赤木研究室
川村弥さん、小熊功太さん、鈴木敦詞さん

今回は東京工業大学の赤木研究室におじゃましました。パワーエレクトロニクスを専門に研究されており、30名を超える学生・スタッフが在籍しているマンモス研究室です。大人数ですが、チームワークを大切にしているオープンな雰囲気で、メンバーが互いに刺激しあいながら研究を続けている様子が、お話の中から十分に感じられました。また研究スペースや実験設備の充実ぶりにも圧倒されました。

※2015年10月現在。文章中の敬称は略させていただきました。

幼い頃の好奇心が電気工学の道への第一歩

最初に、皆さんが電気工学を志望された動機について教えてください。川村さん、いかがでしょう。

川村:私はもともと鉄道に興味があり、電車の駆動システムに関連する分野に関心を抱くようになって電気を意識しました。また、高校時代に適性試験のようなものを受けたときに電気の成績がよくて、自然と電気工学の道を進んだ感じです。ただ、東工大は電気・電子で学科の区別がないので、はっきりとパワーエレクトロニクスを志望したのは研究室配属のときですね。

そもそもは鉄道好きというところが原点でしたか。

川村:インバーター車両の音にひかれていました。

小熊さんも小さいときから電気工学に興味をお持ちだったとか。

小熊:小学生の頃にテレビで石油の枯渇問題を知り、エネルギー問題の解決策としてパワーエレクトロニクス関連の研究をしたいと思うようになったんです。

高校の頃にははっきりと進路が決まった感じでしたか。

小熊:そうですね。核融合にも興味がありましたが、最終的にはパワーエレクトロニクスを選びました。

鈴木さんは、東日本大震災がきっかけだったとか。

鈴木:はい。震災で電力不足に直面して、今の私たちの生活は電気で支えられていることを実感しました。ちょうど高校2年で進路に迷っていた時でしたので、それをきっかけに電力を扱う分野に進みたいと決心したんです。

赤木研究室を選んだのはどうしてでしょう。

鈴木:学部の授業で、パワーエレクトロニクスは幅広い分野の知識が複合された学問だと感じたんです。そこがとても面白く感じ、この研究室に進むことに決めました。

巨大な産業機械のモーター制御を行う、次世代インバーター研究

皆さんの現在の研究内容について教えてください。川村さん、いかがでしょう。

川村:産業に用いられる高圧大容量の交流モーターを駆動するための次世代型電力変換器の制御法およびシステム小型化、効率向上に関する研究を行っています。現在使われているインバーターは大型で高コストなので、それに代わるモジュラー・マルチレベルPWMインバーター(※1)を用いたモータードライブについて検討しています。研究室では400V、15kW程度のミニモデルを使用して実際にモーターを駆動していますが、それでも半導体が結構な数になるので、制御がかなり複雑になってきます。

巨大な産業機器のモーターを制御する、次世代のインバーターを研究されているわけですね。

川村:そうです。具体的なターゲットは、金属工業などで必要な大型の粉砕機の駆動に用いられる高圧の低速大トルクモーターから、天然ガスの液化に使用される高速回転コンプレッサーまで多岐にわたります。

ミニモデルとは言え、実際にモーターを動かすとなるとかなり大がかりな感じですね。

川村:大きなモーターを駆動しますし、扱う電力が大きい分、装置のインダクターが半導体デバイスのスイッチングに伴って大きな音を出すので、実験をしていても非常に迫力があります。また自分が考えた制御が、この実験装置やシミュレーションでうまく動くと、大きな達成感が得られますね。

こちらは企業との共同研究ですか。

川村:はい。主回路を製作していただいたのが、共同研究をしている企業です。私たちは制御を担当しました。私たちは卒業までの限られた時間の中で研究に取り組まなくてはなりません。赤木先生も「時間を有効に使って欲しい」という考えの方なので、こうした信頼性の高い装置があると、制御アルゴリズムやインターフェイス回路、ハードウェア、ソフトウェアの研究に専念することができました。

学会にも多く出席されているとか。

川村:日本の電気学会やIEEE(※2)の学会にはよく参加しています。海外にしろ、国内にしろ、同年代の学生たちとの交流は非常に刺激になりますね。国境を越えて人とつながるというのは、大きな醍醐味です。

こちらが赤木研究室のマルチレベルPWMインバーターです。

「こちらの400V、15kWモーター実験システムにより、マルチレベルPWMインバーターの運転特性を確認しています。実験中は半導体スイッチングにより大きな音が出るのではじめて研究室へ来た人はみんな驚いていますね」川村さん。

(※1)マルチレベルPWMインバーターとは、PWM(pulse width modulation/パルス幅変調)で制御するマルチレベルインバーターのこと。マルチレべルインバーターについては、学生インタビューvol.16 千葉大学をご覧ください。分かりやすく解説されています。

(※2)IEEE(The Institute of Electrical and Electronic Engineers)とは、アメリカに本部を持つ電気電子工学技術の学会。

洋上風力で発電した電力を、直流送電する

小熊さんの研究内容について教えてください。

小熊:私が行っているのは、洋上風力発電に適用する高圧直流送電システムの研究です。洋上で発電した電力を陸上まで送電する場合、交流より直流のほうがより効率的に電力を送電することができます。私は、洋上で複数の風力発電機から電力を集電し、陸上まで直流で送電するために用いられる直流-直流変換システムに関する研究を行っており、特に小型・軽量化に注目した研究を進めています。

洋上風力発電の場合、交流より直流がメリットということですか。

小熊:ええ。送電距離が長くなると直流のほうがコスト面でのメリットが大きくなります。洋上の場合はどうしても陸から距離がありますので、ケーブル部分だけ直流にするわけです。そこで必要となる系統の電力潮流を制御する次世代型のパワーエレクトロニクス機器を研究しています。

研究で印象的だったエピソードはありますか。

小熊:私が提案した制御法を実装し、実験を行った際に、予定通りの動作を確認できたときは達成感がありました。私は今の実験システムの立ち上げから担当しているのですが、実験がすんなりとうまくいくことは滅多にないので、意図したとおりに動作すると特にうれしかったです。

こちらも企業との共同研究ですか。

小熊:実験装置は経済産業省の支援で作っていただきました。思い出に残っているのは、最初に参加した学会で論文発表賞をいただいたことですね。これは論文を聞いた人が興味を持ったらもらえる賞で、私の発表に対して面白いと思ってくれた人がいたことが嬉しかったです。

続けて、鈴木さんの研究内容はいかがでしょう。

鈴木:将来、電力系統の送電方式を、交流ではなくて直流で送電しようという動きがあります。直流で送電する場合、問題となるのは事故が発生した際に電流遮断が難しいという点です。私は、そこで必要となる直流遮断器についての基礎研究を行っています。

これまでの研究で特に印象的だったことはありますか。

鈴木:大学院入試などもあって、まだこの研究を始めて2ヵ月ほどですが、シミュレーションを行っていて、自分の考えたプログラムが時間をかけてようやく動いたときのことは印象に残っています。小さなことですが、嬉しかったですね。

敷居のないオープンな雰囲気が研究室の魅力

赤木研究室には、どんな特徴がありますか。

川村:3人の教授・准教授と30人を超える学生が一体となって研究生活をしているため、先輩や仲間から多くのノウハウを得ることができるのが強みです。全員が参加する週に一度の研究輪講以外に定期的な報告会はありませんが、研究進捗に関しては先生や仲間たちと必要に応じて気が済むまで議論します。

小熊:学生は全員同じ部屋にいて、そこには敷居がありません。たとえ研究分野が違っても、先輩方は親身に相談に乗ってくれるし、異なる視点からアドバイスしてくれますね。

鈴木:先輩方は、研究に対する意識が非常に高いです。朝から晩までずっと実験に取り組んでいて、学部とはまったく違うのでびっくりしています。研究輪講では、先輩方の発表を間近で聴くことができ、得るものが多いですね。

先生とはどのように研究の相談をされていますか。

小熊:先生もしばしば学生室を回ってくださるため、ちょっとした問題でも気軽に相談できる環境です。

川村:別に先生に監視されているわけではないですよ(笑)。

小熊:むしろ先生が大学にいる時間に合わせて、我々も相談するという感じですよ。

研究は基本的にチームで進めているんですか。

川村:ええ。チームだから、効率よく研究が進められます。実験はそれなりに大掛かりですので、安全面からもチームで取り組むほうがいいです。発表会が近づいて忙しい時はお互いに補填し合えますから。

小熊:もうひとつ、赤木研究室の大きな特徴として、実験設備とそのノウハウが充実していることですね。私の研究分野では、シミュレーション結果だけでは研究の有用性を証明できません。ですから赤木研究室では実験検証に力を入れています。実験検証で難しいのが実験システムの構築ですが、研究室の先輩方が蓄積してくださったノウハウのおかげで可能になっています。

取材当日、研究室にいた方に集まっていただきました。前列右から3番目が赤木泰文教授です。

思い思いの交通手段で参加する研究室旅行

研究以外の時間では、皆さんのコミュニケーションはどんな感じですか。

川村:先生方が多忙で学生の数が多いため、学期の区切りでの飲み会や年一度の研究室旅行が中心ですね。そのほかには、学年ごとに小さなイベントがあります。

30人もいらっしゃる研究室でも、飲み会は全員そろいますか。

川村:ほぼそろいますね。場所は自由が丘が多いです。学校から歩いて15分くらいですから。

研究室旅行というのは?

小熊:先週の土日に行きました。

川村:以前は8月だったのですが、最近は10月になりました。基本は現地集合、現地解散です。これは伝統らしいんですが、クルマが好きな人はクルマで行き、バイクが好きな人はバイクで行く、という感じですね。今年は福島県の猪苗代湖に行きましたが、途中で電車から自転車に乗り換えて行った人もいましたよ(笑)。

研究以外にはどんなことに打ち込んでいらっしゃいますか。

川村:小さい時からクラシック音楽が好きだったので、今もピアノを弾いています。高校ではオーケストラ部でチェロを弾いており、現在はいくつかのアマチュアオーケストラに所属して週末に練習・演奏しています。鉄道を使った一人旅も楽しんでいます。

充実されていますね。小熊さんは、研究以外になにかやっていますか。

小熊:サイクリングです。朝1時間ほどサイクリングしてから登校することが多いですね。朝から運動すると肉体的にはキツいんですが、精神的にはリフレッシュして、研究に集中できます。私は家が近いので、研究室に来るのも早いですし、生活そのものが朝型ですね。研究も、19時過ぎたら一区切りつけて家に帰ります。

鈴木:私は逆に22時過ぎまでいることが多いです。まだまだパワエレについて知らないところが多いものですから勉強中です。あとは体を動かすことが好きで、大学でも野球部に所属していたので、今も息抜きで野球や筋トレをやっています。

企業がパワーエレクトロニクス技術を求めている

電気工学を学んでいてよかったと思うのは、どんなことですか。

小熊:パワーエレクトロニクス技術を学んだことで、鉄道や家電など、身近なところでそれらが利用されていることを実感できます。

鈴木:私も同じですね。今まで当たり前に思っていた生活が、実は先人たちの研究の成果によるものであると感謝することが増えました。

川村:パワーエレクトロニクスは電力工学だけでなく、制御や電子回路・半導体に関する知識・経験も学べるため、電気・電子に関する全般の幅広い知識が得られることが魅力です。私は電車が好きなので、電気工学を勉強したことで、自分で電車を作ることができると思えるくらい知識が増えたというのは嬉しいですね。

小熊:就職活動では、パワーエレクトロニクスを専門としている点が企業の方に評価される場面が多かったです。電気工学は大学の研究内容と企業の研究内容が近い場合も多いので、企業は私たちの専門性を求めているという印象を受けました。

最後に、皆さんの将来の夢や目標を教えてください。

鈴木:まずは大学院に進学してパワーエレクトロニクスに関する知識を増やし、将来は日本の社会に貢献できるような研究者になりたいです。

小熊:私は、就職後もパワーエレクトロニクスに関する業務に携わることになりました。社会人になったら、大学で身につけた専門性を武器により高性能な電力変換器の開発に携わり、地球温暖化や化石燃料問題など、小さい頃から関心のあったエネルギー問題の解決に貢献したいですね。

川村:私は具体的なものではないのですが、何らかの形でパワーエレクトロニクスに関わって社会に貢献したいと思っています。メーカーでも研究機関・大学でもこだわりはなくて、自分の研究・開発成果が製品として世の中に出回れば嬉しいですね。いくつになってもパワーエレクトロニクスに携わっていきたいです。

皆さんのご活躍を楽しみにしています。本日はありがとうございました。

※インタビューへのご質問、お問い合せにつきましては、「こちら」にお願いします。

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