vol.29 一般財団法人 電力中央研究所

電力系統解析の研究者として、 社会や現場のニーズに応えたい。

社会人インタビュー vol.29

電力系統解析の研究者として、 社会や現場のニーズに応えたい。

一般財団法人 電力中央研究所
白崎 圭亮(しらさき けいすけ)さん

幼い頃から電気に興味があり、早くから電気工学の技術者を目指していたという電力中央研究所の白崎さん。現在は東京都の狛江市にあるシステム技術研究所で、電力系統シミュレータを活用した実験に取り組む日々を送っていらっしゃいます。「実験のための実験であってはならない」との意識のもと、現場のニーズを意識した取り組みを忘れないよう心がけていらっしゃいます。

プロフィール

2006年3月
東京理科大学 工学部 電気工学科 卒業(内田研究室
2008年4月
東京理科大学大学院 工学研究科 電気工学専攻 修士課程 修了(内田研究室)
2008年4月
電力中央研究所 入所
現在
システム技術研究所 電力システム領域 主任研究員

※2015年6月現在。文章中の敬称は略させていただきました。

電気が好きで、電力系統の奥深い研究へ進む

白崎さんは小学生の頃から電気に興味をお持ちだったそうですね。

白崎:小中高を通じて理科の実験が好きで、一番興味を持った分野が電気でした。コイルに磁石を出し入れしたり、計測器を設置したりすることを楽しく感じていましたし、テストでも電気はしっかりと得点を取れていました。

ということは、進学も電気に決めていたわけですね。

白崎:ええ。高校を卒業して大学に進学する際は、迷うことなく電気系に絞っていました。ですから将来の仕事についても、電気工学の分野に進もうという漠然としたイメージを持っていました。

東京理科大学では工学部電気工学科に進まれて、内田直之教授の研究室に入られましたね。

白崎:電気工学の中で電力系統をやろうと決めた大きな理由は、大学で授業を受けているうちにその専門性の高さに興味を持ったためです。そこで、社会的に必要とされる電力会社への入社を目指し始め、“電力系統”についてさらに専門的に学ぼうと内田研究室を選びました。

研究室ではどのようなテーマに取り組まれたのでしょう。

白崎:電力系統を構成するネットワークの状態を計算によって求める、潮流計算手法の研究をしていました。一般的な潮流計算は三相交流のそれぞれの相の状態が同じ状態であると仮定して計算を行いますが、厳密には同じ状態ではなく、その度合いが大きいほど計算結果のずれが大きくなります。このため、より精度を求めるならば三相交流の3つの相をそれぞれについて計算する必要がありますが、そうすると計算量が膨大になってしまいます。その計算負荷を軽減するための研究に3年間取り組みました。

研究では、どんなことが一番印象に残っていますか。

白崎:電力系統は、電気工学の中で最も奥の深い分野だとつくづく感じました。電力系統のネットワークの計算をする際には、その構成要素はなるべく広く取り入れた方がいいわけですが、それぞれの要素に対してしっかり理解しなければ、非現実的な条件で計算をしてしまうおそれがあります。そのため多くの人に教えを請うと、「理屈ではそうだけれど現実は違う」という類の話がたくさん飛び出してくるので、実に奥が深いと実感しました。そこで、より現実的な知識を吸収したいと思い、在学中に第二種電気主任技術者を取得しました。その勉強で身につけたことが研究内容とリンクしていたことがとても印象的でした。

学会にも出席されましたか。

白崎:はい。2回だけですが、沖縄と富山で開催された学会に出席しました。琉球大学でポスター発表をしたり、海にも入ったりして、研究室の仲間と楽しい時間を過ごしたのはいい思い出です。準備は本当に大変でしたが(笑)。

太陽光発電のシミュレーションモデルを独自に開発

修士課程を修了され、白崎さんが選ばれたのが電力中央研究所への道でした。動機は何でしたか。

白崎:最初のきっかけは、電力系統シミュレータという大きなアナログ実験設備を見学したことです。大学の研究室では理論を中心とした研究でしたので、当時から実験そのものに対する憧れが強くありました。あるとき、私の研究について意見を伺いたいと思って内田教授に連れられ、電力中央研究所にお邪魔したことがあるのですが、その際「ついでに見学していけば」と誘われて電力系統シミュレータを見せてもらいました。本物の発電機や送電線、制御装置などが並んでいてそのインパントがとても強く、初めてそこで電力中央研究所への就職を意識するようになりました。

入所されてどのようなお仕事に取り組まれていましたか。

白崎:入所以来、現在に至るまで、主に再生可能エネルギーの大量導入が電力系統の安定性に及ぼす影響解析に取り組んでいます。落雷などの系統事故が発生した場合は電力系統が安定性を維持できなくなるおそれがあり、最悪の場合、大規模停電となるおそれがあります。ところが、この安定性に対し再生可能エネルギーの大量導入がどのような影響を及ぼすのか、まだわかっていないことが多くあります。また、その解析のためには、系統事故時の再生可能エネルギーの応動を精度良く模擬したモデルが不可欠となります。そこで、電力系統シミュレータで実際の太陽光発電設備を使った実験を何度も繰り返し、このモデル開発にも取り組んできました。

実際の太陽光設備とは、こちらのシステム開発研究所にあるのですか。

白崎:ええ。電力系統シミュレータでは実際の太陽光発電パネルやパワーコンディショナを実系統に近い環境で使うことができます。実験をしてみると、必ずしも想定通りの結果とはならないことが多々あります。

実験と現実では条件も異なるでしょうね。

白崎:実験は現象の本質を捉えるには非常に役立ちます。ただし、極端な条件で実験をする場合もありますから、その結果が実系統に対してどのぐらい当てはまるのかという点については、特に注意を払っています。私の研究成果を必要とする現場の方々の目線で研究を進めることが重要だと思っています。

こうした研究は、やはり電力中央研究所ならではですね。

白崎:そうですね。太陽光発電単体の特性というのは、当然、作られたメーカーが一番よく理解されていますが、実際の電力系統を熟知しているわけではありません。一方、電力会社は、電力系統のことはよく知っていても、お客様設備である太陽光発電に関してはわからない部分もあります。このお互いによく分からないところに踏み込んで解析をしているのが私の研究であり、電力中央研究所ならではだと思います。

お仕事で印象的だったエピソードにはどんなことがありますか。

白崎:いつも感じていることですが、電力系統シミュレータによる実験と、シミュレーション解析を併用できる環境が素晴らしいです。例えばシミュレーション解析のためにはモデルが必要となりますが、影響度合いの大きな要素を抽出しなければモデル開発はできません。どの要素を抽出すべきか、机上検討だけでは限界がありますので、実験によってそれを把握するのです。実験したからこそ気がつくこともありますから、実機で起こる現象を自分自身の目で確認してきたことは私にとって大きな財産となっています。

建物屋上に設置された太陽光発電パネルです。

発電機の制御装置です。実際の火力発電所で使用されているものと同じものです。

太陽光発電の模擬電源用装置です。直流電源が36台あります。

電力系統シミュレータの中枢部となる制御室です。こちらで発電機の運転停止操作や送電線などの状況確認を行います。

就職してからも大きな力となる電気工学

学生時代に学んだことは、現在のお仕事にどのように活かされていますか。

白崎:一番役に立っているのは制御工学の知識で、同期発電機や太陽光発電の動特性(※1)を理解するのに必要でした。制御工学は学部で学びましたし、電気主任技術者試験の勉強でも学びました。一方、研究室では電力系統の静特性の解析をしていました。電力系統の安定性を解析するには、この両方を知っている必要がありますので、経験があるということは仕事をする上で大きなアドバンテージになります。

ところで、研究所には見学の方も多くいらっしゃるようですね。

白崎:学生さんや電力会社の方、教員の方など、海外からも含めて本当に様々な方が見学にいらっしゃいます。それで私が電力系統シミュレータをご案内しています。年に一度は研究所を一般公開しますので、その際は近所の小学生も電力系統シミュレータに押し寄せます。

子どもたちは電力系統シミュレータなんて見たらびっくりするんじゃないですか。

白崎:学校の体育館ぐらいの大きさの建物の中に多くの設備が入っていますから、やはりスケールの大きさには驚かれます。インパクトはかなりあるようです。ただ、一般の方の中には研究所のOBの方が紛れていて、専門的な質問を投げかけてきたりすることもあるので、気が抜けません(笑)。

(※1)電気回路における入力と出力の関係を示すもの。対象が定常状態にある時の関係を示すのが静特性。一方、時間的変化する関係を示すのが動特性。

現場のニーズを取り込んで研究テーマにしていきたい

今後はどのようなお仕事に取り組んでみたいとお考えですか。

白崎:今後は、独りよがりではない研究に取り組みたいと考えています。私の周りの先輩方は電力会社に半年ほど研修に行き、現場の様々なニーズに触れて研究テーマに結び付けるということを行っています。先輩を見ていると、そうした経験を通じて電力会社の現場で吸収したことがとても大きな力となり、良い研究に結びついていると感じます。私はこれまでシミュレーション解析と実験がほとんどでしたので、そうした実体験が欲しいと思っています。

では、振り返ってみて電気工学を学んでよかったと思うのは、どういう点ですか。

白崎:ずばり、就職には有利だと思います。私が取り組んでいる強電系の分野は、日常生活ではほとんどなじみがありませんが、こと就職に関して言えば多くの企業から必要とされる分野だと思います。電力会社はもちろんのこと、鉄道会社や自動車メーカー,電機メーカーなどが候補となります。それだけ幅広い知識が身につきますので、つぶしが効くとも言い換えられます。実際、私の大学での同期は様々な企業に就職しています。

最後に電気工学を学んでいる学生の皆さんにアドバイスをお願いします。

白崎:先ほども言いましたが、電気工学は幅広く、そして奥の深い分野でもあります。その分、自分の将来像を明確に思い描くのは難しいかもしれませんが、選択の機会は非常に多彩だと思います。じっくりと時間をかけて自分のやりたいことを見つけて欲しいです。

今後のさらなるご活躍を祈念しております。本日はどうもありがとうございました。

※インタビューへのご質問、お問い合せにつきましては、「こちら」にお願いします。

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