vol.27 ジャパン マリンユナイテッド株式会社

社会人インタビュー vol.27
世界の海洋開発と海上物流を、最先端の電気技術で支えたい。
ジャパン マリンユナイテッド株式会社 商船事業本部 基本設計部 電気グループ
渡邉 晋(わたなべ すすむ)さん
船と電気。一見、無縁のようですが、実は電気があってこそ船も世界の海を航海できるのです。今回登場いただくのは、日本造船業界のリーディングカンパニー「ジャパン マリンユナイテッド株式会社」で、電気の専門家として活躍する渡邉晋さん。学生時代に没頭した核融合の研究や世界の海を旅した経験など、心躍るお話をうかがうことができました。
プロフィール
- 2007年3月
- 九州大学大学院 総合理工学府 先端エネルギー理工学専攻
炉心理工学講座 修了 - 2007年4月
- ユニバーサル造船株式会社入社
艦船・特機事業本部 舞鶴事業所 艦船設計部 電装設計室に配属 - 2010年10月
- 商船・海洋事業本部 本社 基本設計部 電気設計室に異動
- 2013年1月
- 株式会社 アイ・エイチ・アイ マリンユナイテッドと経営統合
- 2013年1月
- ジャパン マリンユナイテッド株式会社 商船事業本部 基本設計部 電気グループ
商船・特殊船の開発・基本設計及び商談対応に従事。現在に至る。
※2014年9月現在。文章中の敬称は略させていただきました。
“船”の世界で活躍する、電気の専門家として
大学院修了後、ユニバーサル造船、現在のジャパン マリンユナイテッドに入社されました。造船会社なのですが、船がお好きだったんですか。
渡邉:ええ、子供の頃に父親の出張にくっついて上京した際、お台場にある『船の科学館』を見たことが一つのきっかけになっています。また、学生時代に南極観測船『しらせ』の一般公開を見て、こんなに大きな船が電気推進で動いているということに感動しました。
ユニバーサル造船に入社したのも、その『しらせ』を建造した会社だということが決め手でした。まあ、周囲の学生は電力会社、電機メーカーや原子力関連企業ばかりでしたから、就職課からは変わり者扱いされましたが(笑)。
入社して最初に配属されたのが、京都府舞鶴市にある舞鶴事業所でしたね。
渡邉:はい。もともとは旧海軍の軍需工場で、100年以上の歴史を持つ造船所です。現在は日本海側で唯一の大型造船所で、商船に加えて艦艇の建造・修理も盛んに行っています。
5000トン型のPlatform Supply Vessel (PSV※プラットフォーム補給船)の外観写真です。渡邉さんは、設計、建造対応、試運転を担当されて2014年5月に引き渡しを行いました。
当時はどのようなお仕事をされていましたか。
渡邉:私の配属当時は、ちょうど南極観測船『しらせ』の代替船を建造している真っ最中で、その設計・建造にわずかながらでも関われたのは、とても幸運でした。
そのほか、造船所で8万トン型バラ積み船(バルクキャリア)とオフショア作業船の機能設計をメインに、建造から試運転を経て引き渡しに至るまで、担当することができました。バラ積み船というのは石炭や鉄鉱石などを運ぶ貨物船で、オフショア作業船というのは洋上で石油掘削を行う海底油田プラットフォームの作業支援などに用いられる作業船のことです。
造船会社での電気の専門家というのは、どういう立ち位置なのでしょうか。
POD型電気推進器を船体後方に取り付けた様子です。真ん中下に人がいます。大きさが想像できるでしょうか?
渡邉:造船会社には船舶工学の専門家がたくさんいて、どういう形状にしたら抵抗なく進めるか、どんな構造にすれば強度が得られるか、といったことに取り組んでいます。
でも、それだけで船は建造できないわけで、例えばエンジンを考える人や居住区画の内装のインテリアを考える人など、非常に幅広い分野の専門家が必要です。そうした広い分野の専門家の一人として、電気の専門家がいるんです。
例えば、今ご説明したオフショア作業船などは電動モーターで推進器を駆動する「電気推進方式」を採用しており、洋上で定点保持や横移動などの自由自在な操船を可能とするDPS(Dynamic Positioning System)と呼ばれるコンピューター制御の操船制御システムを搭載した、正に電気づくしの船です。
船はエンジンで動くものと思っていましたが、電気推進方式となると電気がなくては、船は動かせませんね。
渡邉:電気推進船でなくても、船内には様々な電気設備があります。
例えば、ディーゼルエンジンを動かすために必要な各種の補機類、荷役に必要なクレーンやウインチ、船員の居住に必要な造水装置や汚水処理設備、その他のモーター類をはじめとした動力機器などが挙げられます。
その他にも、船内電話や放送設備などの通信機器、居住用・作業用の照明設備、船の安全運航に必要なレーダーやジャイロコンパスなどの航海計器、陸上や他船と連絡を取るための各種無線設備など、重電から精密機械に至るまで多岐にわたる電気機器が装備されています。
加えて、海上を航行しますから自前で発電機を持たなくてはなりません。つまり、陸上での発電所から一般家庭の家電まで、すべてが船内にそろっているわけです。
また、洋上では故障時に簡単に修理などは出来ませんので、陸上の設備よりも高い信頼性が求められます。
つまり、学生時代に学んだ電気工学の知識が活かされているわけですね。
渡邉:もちろんです。今申し上げたこれらの設備を、船という一つの空間にうまく調和させつつ、給電や制御まで含めて組み合わせる必要もあります。
例えばエンジンにしても、3階建てのビルぐらいの巨大なディーゼルエンジンでプロペラを回す為には、エンジン本体と付帯する補機類を全て完璧に制御する必要があります。このようなシステムづくりも電気の領分になります。
ですから大学で学んだ電気工学はもちろんのこと、私の場合は核融合の研究を通じて得た大型プラントの計測系構築などの経験が非常に役立っています。
自分が設計した船に乗り込み、世界の海を航海する
現在の担当は設計ですか。
渡邉:はい。2010年から現在の所属である本社の基本設計部に所属し、新たに建造する船の開発や、国内外の海運会社へ行って船の仕様を決めるといった業務を行っています。海運会社の多いギリシャやイタリア、ノルウェーなど、打ち合わせのためによく出かけていきます。
現在のお仕事で特に印象に残っているエピソードはどんなことでしょう。
インド洋を航行中の8万トン型バルクキャリア、保証技師として三ヶ月に渡って乗船中のある日、船の行く先に突然虹が出てきました。(渡邉さん)
渡邉:今までで一番印象に残っているのは、自分の設計した8万トン型バラ積み船に、保証技師として乗り組んで、3ヵ月にわたって旅をしたことです。
具体的には京都の舞鶴を出発して、韓国で燃料を入れ、そのままずっと南下してオーストラリアで石炭を積みました。続けて、インド洋を渡って喜望峰を回ってコートジボワールで燃料を入れ、次にスペインのカナリア諸島でまた燃料を入れて、イギリスからスウェーデンへ。
最後はスウェーデンから飛行機で帰ってきました。他の26人の乗員はすべてフィリピン人で、そこに日本人は私ひとり。陸との通信も極端に制限された環境で、最初は打ち解けるのに非常に苦労しました。
船の操舵室には安全航行に必要なレーダーや無線機器、船の進路を定める操舵装置やオートパイロットシステムなど、様々な電気機器が所狭しと配置されています。隣に立っているのは船長(フィリピン人)、アフリカ沖合にて。
日本人ひとりで、他は全てフィリピン人ですか!それは大変な経験でしたね。
渡邉:そうですね。フィリピン人と私とでは、食べるものも、言葉も、生活習慣も違いますから、不安は大きかったです。ただ、フィリピン人というのは陽気な性格で人当たりがよく、割と世界のどの国の人ともうまくやっていける上に、全員が英語も堪能なので、船乗りには打って付けとされているんですよ。だから、次第に打ち解けて仲よくなることができました。
それは良かったですね。
渡邉:ただ、彼らから見れば造船所のエンジニアである私は“船のプロ”なんです。そのため電気関係のトラブルはもちろんのこと、電気に関係のないトラブルでも容赦なく解決することが要求されました。
例えばパイプから油が漏れたとか、蒸気が漏れたとか、果てはドアの建てつけが悪くて開かなくなったとか(笑)。「何とかしろ」と怒鳴られながら、必死で何でもやりましたね。非常に苦労しましたが、おかげで自分の守備範囲外のこともわかるようになり、よかったと思います。
造船所にはいろいろな仕事があるものですね。
渡邉:基本的に船というのは一旦引き渡したら乗員だけで運用します。ただ、船主さんによっては「何かあったら不安だから、トラブル対応のため保証技師を乗せてくれないか」と言われる場合があり、造船所の人間が引き渡した船に一緒に乗っていく事があります。最後、スウェーデンで降りるときは「みんなで写真を撮ろう」と寄ってきてくれましたよ。貴重な経験になりました。
バックナンバーを絞り込む
研究キーワードから探す
業種別で見る
サイト更新情報をお届け
「インタビュー」「身近な電気工学」など、サイトの更新情報や電気工学にかかわる情報をお届けします。