九州大学

電気工学で活躍する女性

電気工学を活かして技術の発展に女性の視点を反映したい

九州大学末廣・中野研究室

高山 理衣こうやま りえさん

2024年8月30日掲載

九州大学の末廣・中野研究室に所属する、修士2年の高山さん。現在、研究室に在籍する女性は高山さん一人ですが、新たながん検査に貢献する研究に取り組んだり、趣味のスノーボードや旅行を楽しむなど、充実した学生生活を過ごされています。電気工学を志望した理由や入学後の生活、日々の研究や将来の夢などを語っていただきました。

数学と物理全般が
好きでした

学生時代から勉強科目では、数学と物理が好きだったという高山さん。
「小学校の算数や理科の頃から好きでした。中学校から物理を学ぶようになって、日常で目にするものの原理を物理の公式で解けるのが楽しかったです」と語ります。
文系・理系とコースがわかれた高校2年生の時は、迷わず理系コースへ進み、選択科目は物理を選びました。
「得意科目と自信を持って言えるか分からないですが、物理全般が好きでした」
自分の好きな道をまっすぐ進んでいった高山さん。ところが、物理選択の女性の少なさには驚かされたそうです。
「理系コースにおいては、女性は3分の1ほどいましたが、物理選択の女性は少なかったです。でも、この環境のおかげで大学に入学後、女性が少なくても抵抗が無かったような気もします」

電気工学で
バイオの研究ができる

そして九州大学工学部・電気情報工学科へ進学した高山さん。電気工学の道を進んだ理由は、電気製品への興味と就職に強いと聞いていたからだそうです。
「スマホやパソコンといった、身近な電気製品は、どんな仕組みなのかすごく興味がありました。また、就職に強く将来性が高いということも魅力的でした」
電気工学の授業では、電磁気学が特に面白いと思ったという高山さん。大学2年からコロナ禍がはじまり、授業はオンライン主体になりましたが、「電磁気学を学んで、電気のいろいろな不思議な現象の裏側が分かるようになりました」と笑顔で話します。
そして、もっと専門的な知識を身に付けたいと思い、研究室へ進みます。末廣・中野研究室を選んだ理由は、電気系の中でもバイオの研究を行っていて、視野が広がり、幅広い知識を身に付けることができると考えたからだそうです。
「まさか電気でバイオの研究ができるなんて、驚きました。授業で学ぶのは基本だけなので、実用面は全然違うと思い知りました!」

がん細胞の
新たな検査方法を開発

指導教員である中野道彦准教授と、ピペットを使ってエクソソームの研究を行う高山さん。

誘電泳動によるエクソソームの状態を観察します。

研究室に配属して取り組んでいるのが、がん検査に貢献する、エクソソーム(細胞外小胞の一種※1)に関する研究です。高山さんは、この研究を自らやりたいと手を挙げました。
「エクソソームは、細胞から分泌される直径50-150 nmの顆粒状の物質です。だ液や尿など人間が発するすべての体液に含まれており、核酸やタンパク質を内包しています。これによって、がんバイオマーカー(※2)として注目されており、簡単に言えば、エクソソームを調べると、がんの検査が可能になるわけです」。
現在のがん検査は、大規模な装置の使用や長期にわたる検査期間などが必要になる場合があります。そのため、検査費が高額になり、人体に負担がかかることも少なくありません。それに対して、エクソソームを使用すると体液検査なので、身体に負担が少なく、安く早く検査できる可能性があると、高山さんは言います。では、電気はどう関わってくるのでしょうか?
「例えば、乳がんをエクソソームで調べたいと思っても、体液はがん細胞だけを含んでいるわけではありません。そのため、正常なものと、がん細胞を区別しなければならないわけですが、その種類間に電気的な特性の違いがあるのです。そこで、この特性を利用して、誘電泳動(※3)を用いて簡単な分別手法の開発を行っています」。
エクソソームはとても小さいものなので、誘電泳動を用いなければ特性を判断することが難しいと言います。電気工学の広い可能性をとても感じさせる研究です。
「現在、乳がんに関するエクソソームを研究していますが、今後はそれに加えて、ワクチンに応用した場合に関しても研究する予定です。卒業まで頑張っていきたいです」と、高山さんは力強く語ってくれました。

※1細胞外小胞とは、細胞が分泌する物質で、組織の再生を促す成長因子や細胞間の情報伝達物質を含んだエクソソームなどからなるもの

※2バイオマーカーとは、ある疾患の有無、病状の変化や治療の効果の指標となる項目・生体内の物質

※3誘電泳動とは、電気力学現象の一種で、不均一な電界中に置かれた浮遊粒子が電界の強い領域もしくは弱い領域に駆動される現象

女性が少ないことは
気にならない

入学時の電気情報工学科1年生は全員で約150名。そのうち、女性は9名だったそうです。それに対して高山さんは、「工学系は女性が少ないことはあらかじめ分かっていたので、特に気にせず、自分が興味あるところへ進みました」と振り返ります。
入学後は特に不自由はなかったそうで、逆に女性同士の結束が強まり、仲が良くなったと言います。
「はじめは女性が少ないなぁ、と皆と話したこともありましたが、いつのまにかそんな話は消えていました」と笑って語ります。
研究室へ配属した当時は、2年上の先輩に一人女性が在籍していましたが、現在は高山さんひとり。それでも、不自由を感じたことはないと語ります。
「工学というと機械を扱っているイメージがあるかもしれませんが、末廣・中野研究室はバイオを扱っているので、化学実験のようにピペットを使ったりします。電気工学は幅広い分野を含んでいるので、自分にピッタリな研究が見つかると思います」

性別に関係なく
電気工学出身者は求められている

昨年、高山さんは就職活動を行いました。この活動を通して、どの業界においても性別に関係なく、電気工学出身者は必要とされていることを実感したと語ります。
「インターンなどでも、必須スキルとして電気工学の知識がある方と書かれていることが多かったです。あるインターンに参加した時は、電気系の人しかいなかったこともありました!」
就職活動は、メーカーとIT関係を中心に幅広く行ったそうです。結果、東京のIT系企業に内定をいただきました。
「コロナ禍の影響を大きく受けた学生生活だったので、DX(デジタルトランスフォーメーション)化ということに興味を持ったのがきっかけです」と語ります。IT系企業の就職でしたが、電気工学の研究キャリアは強みになったとも話してくれました。
最後に、電気工学を学んでよかったことを聞くと「やはり、身近な電気製品などの仕組みが分かったことと、就職が有利だったことだと思います」と、志望時の想いを叶えたと語ってくれました。
そして、これから電気工学を学ぼうとする女性へ「電気工学の知識は幅広く色々なところに活かせます。ですから就職にも強いです。『自分のやりたいことが見つかります!』」と伝えたいです」と力強いメッセージをいただきました。

わたしの研究室 ~末廣・中野研究室~

末廣・中野研究室は、静電気工学や高電圧パルスパワー工学のバイオテクノロジーおよびナノテクノロジーへの応用に関する研究に取り組んでいます。研究室メンバー全員で、毎週各自の進捗を発表しているので、他のグループの研究内容をお互いに把握しています。例えば、心筋梗塞のバイオマーカーとなるDNAに関わる研究をしているグループは、私と同じバイオの領域なのでとても参考になります。
研究室メンバーとは仲が良く、定期的に飲み会などでコミュニケーションをとっています。今年の懇親会は学校でバーベキューをしました。コロナ禍のため、院に進学してからようやく本格的に対面で交流ができたのでうれしかったです。

学会の思い出

電気学会にこれまで2回参加しました。そのとき、偶然にも、高校時代に一緒に物理を学んだ友人と久しぶりに再会しました。また、去年の夏の就職活動時にインターンで仲良くなった方とも、いっしょに学会へ参加しました。学会に参加すると、知識や新たな出会いが広がっていくので得難い思い出になります。

わたしの趣味

旅行が趣味です。中でも沖縄が大好きでよく行きます。美しい海が好きで、沖縄料理が好物です。また冬になったら、かなりの頻度でスノーボードをやっています。主に広島へ行っています。いろいろな人と一緒に行きましたが、今年の冬は私が企画して、研究室メンバーとスノボー大会をやりました。

高山さんのある一日

7:30起床。朝食をとって家事も行います。
9:30通学。クルマで研究室へ出発。
10:00研究室。お昼休憩以外は研究に没頭しています。メンバーとの雑談も息抜きになります。
17:00研究終了。帰宅。
17:30アルバイト。オンラインでベンチャー企業のお手伝いをしています。
20:00夕飯
21:00入浴、自由時間。ゲームをしたり、TVドラマや映画を見ています。
23:00就寝

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