電気の施設訪問レポート vol.34

「グリーン水素パーク-白州-」を訪問しました
2026年7月、パワーアカデミー事務局は山梨県北杜市白州にある「グリーン水素パーク-白州-」を訪問しました。「グリーン水素パーク-白州-」は、サントリー天然水 南アルプス白州工場及びサントリー白州蒸溜所の脱炭素化へ向けて、隣接地に建設された国内最大規模となる水素製造拠点の実証設備です。本レポートでは、脱炭素化に向けた水素エネルギーの活用と、その社会実装に向けた取り組みを紹介します。
カーボンニュートラルの切り札「グリーン水素」とは?
日本政府は、2050年までにカーボンニュートラルの実現を目指しています。カーボンニュートラルとは、CO2などの温室効果ガスの排出量を、森林などによる吸収量で相殺し、実質ゼロにすることです。そのためには、化石燃料への依存を減らし、エネルギーを転換していく必要があります。日本の最終エネルギー消費の約7割は、石油・石炭・天然ガスなどの化石燃料であり、その多くを輸入に頼っています(※1)。特に工場では、高温の熱をつくるために多くの化石燃料が使われています。こうした燃料に代わるエネルギーとして期待されているのが、「水素」です。
水素は、水を電気分解してつくることができます。再生可能エネルギー由来の電気を使えば、製造時のCO2排出を抑えることができます。このようにしてつくられた水素が「グリーン水素」です。国内で製造できるため、輸入燃料への依存を減らすことにもつながります。
グリーン水素は、脱炭素化を進める重要なエネルギーとして注目されています。その実用化を目指し、「グリーン水素パーク -白州-」にはP2Gシステムが建設されました。
(※1)EDMC『エネルギー・経済統計要覧 2024』

出典 資源エネルギー庁ウェブサイト
再生可能エネルギー由来の電気をガスに変えるP2Gシステム
P2G(Power to Gas)は、太陽光や風力などの再生可能エネルギーでつくった電気を、水素などのガスに変えて貯蔵・利用する仕組みです。再生可能エネルギーは、天候や時間帯によって発電量が変わるため、電気が余ることがあります。P2Gでは、こうした余剰電力を使って水を電気分解し、水素をつくります。水素は燃料として使えるほか、CO2と反応させてメタンに変えることもできます。電気をガスに変えることで、大量のエネルギーを長期間貯蔵しやすくなります。また、用途によっては既存のガス設備を活用することもできます。
グリーン水素パーク -白州-のP2Gシステムでは、太陽光発電の余剰電力を使って「水素」を製造します。水電解装置には、純水を使う「固体高分子型水電解装置(PEM※2)」を採用しています。P2Gは、再生可能エネルギーを有効に活用し、化石燃料への依存やCO2排出の削減につなげる技術です。
(※2)水電解装置には、PEM型のほか、アルカリ性水溶液を使うアルカリ型などがあります。

グリーン水素パーク -白州-は、「やまなしP2Gシステム」プロジェクトの一環です。
日本最大の水素製造拠点「グリーン水素パーク -白州-」
グリーン水素パーク -白州-は、山梨県企業局(※3)を幹事に、10社の技術開発参画企業(※4)が整備した水素製造拠点です。NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)のグリーンイノベーション基金事業の第1号案件として、2021年度から事業が始まりました。
P2Gシステムを構成する水電解装置の消費電力は1時間当たり16MWhで、国内最大級の製造規模を持ちます。24時間365日稼働した場合、年間約2,200トンの水素を製造し、約16,000トンのCO2排出量を削減できます。
各社は、次のような役割を担っています。
- 山梨県企業局:敷地と井戸水を提供し、事業全体を取りまとめる
- 東京電力ホールディングス:受変電設備と全体のエンジニアリングを担当
- 東京電力エナジーパートナー:電力の見える化とDRで電力最適化と水電解装置の出力を調整
- カナデビア、シーメンス・エナジー:水電解装置を製造
- 東レ:水電解装置に使う電解質膜を提供
- ニチコン:カナデビアの水電解装置用の整流器を担当
- 加地テック:シーメンス・エナジー側製造水素の水素除湿装置・圧縮装置を担当
- 三浦工業:水素ボイラーを担当
- サントリーホールディングス:製造した水素を工場で利用し、熱の脱炭素化を実証
現在は、水素ボイラーでつくった蒸気を、サントリー天然水 南アルプス白州工場の殺菌工程に利用しています。
(※3)山梨県企業局は、2016年9月から2022年8月まで、甲府市の米倉山太陽光発電所(山梨県と東京電力が共同で建設)に、1.5MW(最大2.3MW)のPEM型水電解設備を中心とする「米倉山電力貯蔵技術研究サイト」を整備・運用しました。グリーン水素パーク -白州-には、同サイトで蓄積された水素製造・運用に関するノウハウが活かされています。
(※4)技術開発参画企業:東レ株式会社、東京電力ホールディングス株式会社・東京電力 エナジーパートナー株式会社、カナデビア株式会社、シーメンス・エナジー株式会社、株式会社加地テック、 三浦工業株式会社、サントリーホールディングス株式会社、ニチコン株式会社、株式会社やまなしハイドロジェンカンパニー(YHC※5)
(※5)山梨県、東京電力ホールディングス、東レの3者が2022年2月に設立した、P2G事業会社です。


水素社会の実現へ向けて
この実証試験では、水素を工場などで利用し、コストや性能、工場への適合性を検証します。普及に向けて、余剰再生可能エネルギーを使って国内で水素を製造する仕組みの確立や、海外展開を目指しています。また、水を電気分解して水素をつくるPEM型水電解装置の大型化・モジュール化を進め、コスト削減にも取り組んでいます。耐久性に優れた電解質膜や、水素ボイラーの燃焼効率を高める技術も開発しています。水素を工場の熱源に利用し、CO2排出を削減できるかを検証しています。
全体のエンジニアリングを担当した東京電力ホールディングスの沖山豊プロジェクトマネージャーは、次のように話します。「週に1~2回、各社が集まって進捗や課題を確認し、解決しながら進めてきました。初めての取り組みだったため、困難や想定外のことも多くありました。それでも、水素社会の実現という共通の目標に各社が賛同し、力を合わせてくれたからこそ、ここまで進めることができました。」
グリーンイノベーション基金による実証試験は、2026年末に終了する予定です。一方、グリーン水素パーク -白州-は、経済産業省から水素社会推進法に基づく「価格差に着目した支援制度」の認定を受けており、実証後の事業化も進めています(※6)。
今後は、サントリー天然水 南アルプス白州工場の殺菌工程で使う熱源として水素を利用するほか、ガス専門商社の株式会社巴商会を通じて、周辺地域にも供給する計画です。グリーン水素パーク -白州-は、国内最大規模の水素製造拠点として、水素社会の実現に向けた重要な一歩です。ここで得られる成果が、水素利用の広がりにつながることが期待されます。
(※6)やまなしハイドロジェンカンパニー(YHC※5)、サントリーホールディングスが設立する特別目的会社(SPC)は、貯蔵・輸送等を担当する巴商会と協働して、実証終了後も「グリーン水素パーク -白州-」を活用し、2028年4月からグリーン水素の製造・供給事業を本格的に展開する計画です。

「グリーン水素パーク-白州-」をご案内いただきました
当日ご案内いただいた施設と、プロジェクトにおける各者の役割を紹介します。
送電鉄塔/東京電力パワーグリッド

送電鉄塔の電線には15万4,000ボルトの交流電力が流れ、電線は3本1組で配置されています。ここから、サントリー天然水 南アルプス白州工場及びサントリー白州蒸溜所と、グリーン水素パーク -白州-に供給されています。工場は24時間365日稼働するため、2回線で受電し、片方に異常があっても、もう一方から電力を供給できる体制を整えています。
一方、グリーン水素パーク -白州-では、設備構築費用等も加味して、受電は1回線としています。また、グリーン水素パークでは再生可能エネルギーの発電量が多い昼間の電力を利用し、水素を製造しています。
ケーブル橋/東京電力ホールディングス

送電鉄塔から送られた15万4,000ボルトの電力を、受変電設備へつなぐケーブル橋です。北杜市白州地区の農業用水に影響を及ぼさないように設置されています。
キュービクル式特別高圧受変電設備/東京電力ホールディングス

15万4,000ボルトの高電圧の電力を2万ボルトに変圧し、工場などに供給する設備です。このキュービクルから、シーメンス・エナジーとカナデビアの水電解装置に電力が送られ、水素が製造されます。
水電解装置/シーメンス・エナジー

シーメンス・エナジーが開発した、10MW級の水電解装置です。電力を変圧・整流する装置を備えており、電気で水を分解して水素を製造します。
水電解装置の電解質膜/東レ

シーメンス・エナジーとカナデビアの水電解装置には、いずれも東レ製の炭化水素系電解質膜が使われています。写真は東レ製の電解質膜です。この電解質膜を用いて純水を電気分解し、水素を製造します。電解セル1枚あたり約2ボルトの直流電圧をかけることで、水素と酸素が発生します。
気液分離装置/シーメンス・エナジー

写真中央にあるドラム缶のような装置が、気液分離装置です。ここで、製造された水素・酸素と水を分離します。水素は回収して利用し、酸素は大気中に放出します。
純水製造装置/東京電力ホールディングス

水電解装置で高純度の水素を効率よく安全に製造するには、不純物を含まない純水の供給が欠かせません。水に含まれるイオンなどの不純物は、電極の劣化や性能低下を招くためです。東京電力ホールディングスが純水を製造し、シーメンス・エナジーとカナデビアの水電解装置に供給しています。
水素除湿・圧縮装置/加地テック

シーメンス・エナジー側で製造された水素の除湿・圧縮は、加地テックが担当しています。
カナデビア側の水電解装置が出力する水素の圧力に合わせるため、圧力の低いシーメンス・エナジー側の水素を、カナデビア側と同じ約8気圧まで圧縮します。その後、水素に含まれる水分を除湿します。水分が多いと、受け入れ側の機器に不具合が生じる可能性があるためです。この装置では、水素の露点温度を用途に応じたレベルまで下げることができます。十分に除湿・圧縮された水素は、サントリー天然水 南アルプス白州工場へ送られます。
除湿装置/加地テック

水素を圧縮すると、圧縮時に熱が発生します。熱交換器では、発生した熱を除湿工程に再利用しています。圧縮機と除湿器を一体的に運用し、発生した熱を有効活用することで、装置全体のエネルギー効率を高めています。水素の圧縮・除湿だけでなく、圧縮時に発生する熱も利用できる点が特長です。
整流器/ニチコン

カナデビアの水電解装置では、東京電力ホールディングスのキュービクルから送られてきた電力の変圧・整流を、ニチコンが担当しています。3系列の水電解装置に接続されており、それぞれにニチコン製の変圧器と整流器が設置されています。
水電解装置/カナデビア

カナデビアが開発した、6MWの水電解装置です。電気で水を分解して水素を製造します。
カナデビアの水電解装置は、大型の金属板と薄い東レ製の電解質膜を交互に積層した構造です。電解セル1枚あたりの電圧は約2ボルトです。125枚の電解セルを直列に接続したものを1系列とし、これを3つ直列に接続することで、合計375枚の電解セルとなります。
今後の重要な目標は、装置のさらなる大型化・モジュール化と量産化です。今回の事業で得られた改良点を生かし、別の補助事業を活用して新たな製造拠点を整備する計画です。
EMS(エネルギーマネジメントシステム)/東京電力ホールディングス・東京電力エナジーパートナー

EMSは、P2Gシステム全体を安全・効率的に運用し、水素製造コストを抑えるシステムです。使用する電力はすべて再生可能エネルギー由来で、主に再生可能エネルギーが多く発電される昼間の電力を活用します。EMSは、日本卸電力取引所JEPXの価格を参考にしながら、電解装置の運転時間を調整します。また、需要側のデマンドレスポンスにも対応しており、需給調整市場から一次調整力の指令を受けた際には、水電解装置の出力を調整します。指令に応答することで報酬を得られるため、運用費の低減にもつながります。
水素専燃ボイラー/三浦工業

水電解装置で製造した水素は、三浦工業製の水素専燃ボイラーで燃焼させ、蒸気に変換します。この蒸気を、サントリー天然水 南アルプス白州工場の殺菌工程に利用しています。
同ボイラーは、蒸気発生量2トン級の水素専焼ボイラー最新モデルAN-2000BSの初号機です。なお、P2G設備が常時稼働しない事と、運用実績がまだ十分に蓄積されていない事などから、既設のLNGボイラーもバックアップとして残しています。
井戸/山梨県企業局
水電解に使用する水は、井戸からくみ上げ、原水タンクを経由して純水タンクへ送ります。井戸の掘削にあたっては、周辺や上流域の井戸に影響を及ぼさないよう、厳格な調査・確認を行いました。
パイプライン/東京電力ホールディングス

水電解装置で生産した水素は、およそ2kmのステンレス製パイプラインを経由して、隣接地にあるサントリー天然水 南アルプス白州工場に供給されます。
サントリー天然水 南アルプス白州工場及びサントリー白州蒸溜所/サントリーホールディングス

水素ボイラーでつくられた蒸気は、サントリー天然水 南アルプス白州工場の殺菌工程に利用されています。将来的には、サントリー白州蒸溜所でも水素エネルギーを使用する予定です。
サントリーグループは、「水と生きる SUNTORY」をコーポレートメッセージに掲げています。水を守り、大切に使い、自然に還すという取り組みを発展させ、グリーン水素の製造に乗り出しました。
編集後記
南アルプス・甲斐駒ヶ岳の麓に広がる白州は、日本名水百選に選ばれた尾白川をはじめ、豊かな自然と清らかな水に恵まれた土地です。その白州で、水素を活用した脱炭素化に取り組むことに、大きな意義を感じました。最後に、電気工学を志す方々へ向けて、取材にご協力いただいた東京電力ホールディングスの皆様からのメッセージを紹介します。
「電気と水素は一見、別の分野に見えるかもしれません。しかし、電気工学で身につけた知識や経験は、思いがけない分野でも生かされます。私自身、前職で経験した変電所工事が、現在の水素プロジェクトで大きな力になっています。電気工学を学ぶ皆さんも、専門分野にとどまらず幅広い知識を身につけてください。」(沖山 豊 プロジェクトマネージャー)
「プラントの受電協議では、短絡電流や保護協調、リレーの整定、高調波、電圧低下など、電気工学の用語が多く登場しました。電気系の皆さん、大学で学ぶ基礎を大切にし、現場で生かしてください。」(舟橋 聖人さん)
「私は学生時代に電気を専門に学んでいなかったため、今、電気を学び直しています。仕事で役立つ大切な知識なので、皆さんもぜひ学生のうちにしっかり学んでください。」(深江 祐補さん)

ご案内いただいた、東京電力ホールディングス株式会社 経営技術戦略研究所 技術開発部 環境・エネルギーエリア 沖山 豊 プロジェクトマネージャー(中央)、深江 祐補さん(左)、舟橋 聖人さん(右)