vol.49 東北電力ネットワーク株式会社

社会人インタビュー vol.49
電力業界の新たなルールへの対応の検討を通じ、カーボンニュートラルの実現に貢献したい。
東北電力ネットワーク株式会社
林 正裕 (はやし まさひろ)さん
社会や生活を支える基盤である電気。学生時代にその重要性を改めて気づいたことがきっかけで電力の道を選んだという林さんは、電気工学の知識を活かしながら、送配電に関わる様々な制度の検討に取り組んでいらっしゃいます。そのやりがいや使命感などについて伺いました。
プロフィール
- 2003年3月
- 慶應義塾大学理工学部電子工学科卒業
- 2005年3月
- 慶應義塾大学大学院理工学研究科総合デザイン工学専攻電気電子工学専修修了
- 2005年4月
- 東北電力株式会社 入社 秋田支店秋田技術センター発変電業務課配属
- 2007年3月
- 宮城支店仙台技術センター発変電業務課
- 2010年3月
- 宮城支店古川技術センター古川制御所
- 2014年7月
- 本店 電力システム部 中央給電指令所 宮城系統給電指令所
- 2017年7月
- 本店 送配電カンパニー 電力システム部(給電)
- 2019年7月
- 電力広域的運営推進機関 企画部 出向
- 2021年7月
- 東北電力ネットワーク株式会社 企画部
※2021年11月現在。文章中の敬称は省略させていただきました。
いたずら好きだった子ども時代
林さんは幼い頃から電気に興味をお持ちでしたか。
林:父が工業高校の教師をしていた影響か、理科の実験は好きで、よくいたずら半分に電気をいじっていました。父は私がいたずらをしても叱ることなく、楽しそうに眺めていました。高校の文化祭では、TVのチャレンジ企画を模倣した装置(針金で迷路を作り、触れるとライトが点灯する)を自作し、好評だったことを覚えています。
大学では電子工学を学ばれましたね。
林:当時は「ムーアの法則」という言葉のとおり、PCに使われるCPUのスピードは年々上がっており、半導体技術の進歩に興味があったことから電子工学科を志望しました。学んでいくうちに「産業の米」と言われるほど重要で高性能な半導体であってもエネルギーがないと動かない、改めて電力の重要性を認識するようになり、電気工学も力を入れて学ぶようになりました。
教授の本の執筆に作図で協力する
大学での研究活動について教えてください。
林:量子コンピュータ制御のための単一電子トランジスタ作成が研究のテーマでした。当時、量子コンピュータはまだ理論上の存在。そのハードウェアとして活用を提案されていたのが単一電子トランジスタで、デジタル回路の「0」「1」を電子1個の動きで制御する省エネトランジスタです。
当時としてはかなり先進的な研究だったのでは。
林:ええ。そのため試行錯誤の連続でした。試料の作製・評価に様々な装置を使用しており、大学の中央試験所の装置を使っていたのですが、他の研究室と譲り合いながら使うため、学生同士のコミュニケーションも広がりました。中央試験所でも装置がないとき、研究室用に新たに購入することになって、数百万円もする装置の選定を任されたこともありました。自由に伸び伸びと研究に打ち込めたと思っています。
印象に残っていることはありますか。
林:海外で開催された学会に参加したら、急遽受付、タイムキーパーを任されてしまったことがありました。海外学会発表自体初めてだったのに、苦手な英語での受付業務ということで冷や汗一杯でした。ボディランゲージも使って堂々としていれば、英語が下手でもなんとか通じることを学びました。
いい思い出になりましたね。
林:せっかく海外まで行ったのに海外を楽しむどころではありませんでした。もう一つ思い出に残っているのが、教授が本を執筆するということで、本に使用する図やグラフを研究室のみんなで協力して作成したことです。1人30点ほど描き、立派な本が完成しました。最近になってネットでこの本の評価を見たところ、「表やグラフが分かりやすい」というレビューがあって嬉しかったです。
林さんが執筆に協力した書籍「半導体デバイスの基礎」
電力インフラの維持・発展に貢献したい
東北電力株式会社に入社された動機を教えてください。
林:先ほども少し触れましたが、大学での研究で様々な装置を使用する際、電気の重要性を改めて認識しました。中でも高真空が必要な装置は瞬間的な電圧低下でも働きを維持できない場合があります。どんなに最先端の装置でも電気がないと動かない・使えないのです。
電気はすべての基盤であると。
林:ええ。社会を支える基盤であり、本当に大切なものです。そんな電力インフラの維持・発展に貢献したいとの思いが強くなり、入社を志望しました。
入社して印象的だったことはありますか。
林:やはり東日本大震災後の復旧です。当時、私は地域のお客さまに電気をお届けするための司令塔的役目を担う、制御所におり、電力の復旧に全力を尽くしました。電気がなくなり、通常の電話も使えなくなる中、衛星電話などを駆使して、現地の変電所などの状況を確認、復旧の指令を発令し、電気を送る。「何としてでも電気を送るんだ」という強い使命感のもと、全所員が一体となって復旧に取り組んだことを覚えています。
各社と新制度への対応策の協議を進める
現在はどのようなお仕事を担当されていますか。
林:電力業界は変革期のまっただ中にあり、再エネ導入拡大・カーボンニュートラル実現に向けて大きく動いています。それに伴い様々な制度の導入・見直しも行われています。私はそれら新制度へ対応するために課題の洗い出しやその解決策などを検討するチームに所属しています。
具体的な例を教えてください。
林:今携わっているのは、系統混雑に関わる新たな制度に対応するための検討です。系統混雑とは、送電線の運用容量の制約により、発電事業者の運用に制約が生じている状態です。具体的には、発電出力の抑制等(出力制御)を行い、潮流が送電線の運用容量以内となるようにしている状態を指します。現在、系統混雑の管理方法の一つである、再給電方式の導入に向けて一般送配電事業者で協力して検討を行っております。当然ながら発電事業を営む会社によってそれぞれの事情があるので、いかに公平性を保って、かつ経済的に実施していくかが重要です。私のチームでは現在のルールや状況の確認等を行った上で、新たなルールによって生じるであろう課題の解決に向けた議論を各社と行っています。また2020年度冬季に発生した電力受給逼迫を受けて、その対策の一つとして実施されるkWh公募(燃料等の追加調達)においても、具体的な公募手続き等について本土エリアの一般送配電事業者9社で協議を進めているところです。
影響力の大きな仕事ですね。
林:おっしゃるとおりです。自分が検討に携わった結果が全国に波及することには大きな責任とやりがいを感じており、こうしたダイナミックさが一番の面白みですね。変革期の今だからこそ取り組める仕事であり、変革期の先まで見据えた広い視点で取り組んでいます。
よりよい未来の実現につながるのでは。
新制度への対応検討のために各社とオンラインで会議を行う様子
林:資源の乏しい日本では「S+3E」つまり「安全(Safety)」「安定供給(Energy Security)」「経済性(Economical Efficiency)」「環境(Environment)」を同時達成しながらエネルギーミックスを進めていくことが必要です。そうした発想のもと、カーボンニュートラル実現に向けた対応に参画できることに、大きな使命感を抱いています。
電気工学の知識がこれからのルールへの対応検討に活きる
学生時代に学んだことは、お仕事の中でどのように活かされていますか。
林:半導体は様々なところで使用されています。例えば太陽光発電を交流に変えるPCSと呼ばれる装置にも半導体は使われており、そうした装置類やデジタル回路などを理解する際に、学生時代に学んだことが活きています。
電気工学の知識も、新制度への対応を検討する際に有効ですね。
林:今言ったPCSのような装置の仕組みや太陽光発電の原理などが理解できてこそ、ルールへの対応策を考えていけると思います。カーボンニュートラルなどの政策の検討を進めていく上で、技術的に何ができて何ができないかを理解しておくことは、非常に重要だと考えています。自分の学んできたことがこれからの電力の安定供給につながる取り組みに反映され、新しい未来を築くことに貢献できるというのは、電気工学ならではの魅力だと感じています。
変革期こそ、基礎力が問われる
今後はどのようなことに挑戦したいとお考えですか。
林:小売自由化、発送電分離などを経て、再エネ導入拡大・カーボンニュートラル実現と、電力業界は大きな変革のうねりのまっただ中にあります。安定供給を基本に、何がベストかを考え、その実現に向けて研鑽を積み重ねていきたいと思います。日々の業務を通じて業界自体が変化していることを実感しており、同じ仕事は1つとしてないと感じています。
電気工学を学ぶ皆さんにメッセージをお願いします。
林:電力業界は変革期だと申し上げましたが、変革期だからこそ基本が重要であることを痛感しています。最先端の装置や技術に接する際も基本に立ち返ることでその本質を理解できるのです。学生時代はそうした基本的な“軸”を身につける貴重な時間だといえるでしょう。確かに基本や基礎は地味で、面白みに欠けるかもしれません。しかし将来、必ず役に立ちます。ぜひしっかりと基本を学んで、確かな“軸”を身につけていただきたいと思います。
本日はありがとうございました。
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