vol.45 中部電力株式会社

「ワクワクしつつ冷静に」をモットーに電力の安定供給に貢献したい。

社会人インタビュー vol.45

「ワクワクしつつ冷静に」をモットーに電力の安定供給に貢献したい。

中部電力株式会社 電力技術研究所
吉田 昌展(よしだ まさのぶ)さん

中部電力にて電気エネルギーの安定供給のための研究開発に携わっていらっしゃる吉田さん。IoTやAIなどのテクノロジーに積極的に取り組みつつも、現場で培われた人間の感覚を大切にすることにこだわっていらっしゃいます。「電気工学の可能性は無限大」と語る吉田さんに、オンラインにてインタビューいたしました。

プロフィール

1995年3月
名城大学理工学部 電気電子工学科卒業
1997年3月
名古屋大学大学院 工学研究科 博士課程前期課程 電気工学専攻 修了
1997年4月
中部電力株式会社 入社
2009年4月
名古屋大学大学院 工学研究科 博士課程後期課程 電子情報システム専攻 入学
2012年3月
同 修了
2015年7月
本店 技術開発本部 技術企画室 企画グループ 配属
2017年9月
本店 電力技術研究所 配属
現在に至る

※2020年7月現在。文章中の敬称は省略させていただきました。

発電効率を上げたいと志していた小学生時代

吉田さんは幼い頃から電気に興味をお持ちでしたか。

吉田:自分では覚えていないのですが、小学生の頃、火力発電の発電効率について紹介するテレビ番組を見て「将来は自分の力で発電効率を上げたい」というようなことを言っていたそうです。自分の仕事として意識するようになったのは高校時代ですね。ちょうどバブルの頃で、自動車をはじめとする機械産業が全盛だけれど、自分が就職する頃には次の産業として電気・電力が注目されるようになると考えました。

学生時代はどんな研究に打ち込まれましたか。

吉田:変電設備の一つであるSF6ガス絶縁開閉装置(GIS)を対象として、製造不良や老朽化などによる機器内部の絶縁異常を早期発見・診断することを目的とした「部分放電測定に基づくGIS内部診断」に関する研究に取り組みました。

外からでは見えないGIS内部を診断しようというわけですね。

吉田:そうです。部分放電の検出手段としては電磁波を測定する方法が主流ですが、電磁ノイズレベルが高い実変電所環境においては、部分放電信号とノイズの分離が実用上不可欠でした。また、内部異常の種類や規模によって絶縁破壊に至る危険性が異なるため、異常の状態を診断することも重要でした。こうした課題を解決するために、SF6ガス中における部分放電の発生特性を、部分放電の物理的メカニズムの観点から理解し、そのうえでGIS内部の状態診断を実現する方法を検討しました。もともと放電現象に興味があったので、好きなことを研究できるという喜びがありました。

研究活動で感じた仲間との一体感

研究で印象に残っているのはどんなことでしょう。

吉田:学術的な側面だけでなく、高電圧・高ガス圧力実験における安全指導、企業との共同研究や学会発表等を通した社会教育など、広い視野で学ぶことができたと感じています。現在、研究者である私は、部分放電診断・サージ(瞬時現象)測定・変圧器診断の3つの分野を基軸とし、最近はIoTなども積極的に取り組んでいます。このように幅広い領域に目を向け、専門外のことにも意識的に取り組む姿勢は、学生時代に培われたと思います。さらには社会常識や人との接し方なども、先生・先輩から教わりました。

研究室での思い出を教えてください。

吉田:研究室では毎週1回、研究成果報告会が開かれていました。報告資料の作成に向け、学生みんなで必死になってデータ整理に取り組んだことは忘れられません。想定される実験成果が得られなかった仲間がいたら、全員で原因を検討したり、追加実験を行ったりしました。

チームとしての一体感があったわけですね。

吉田:ええ。互いに支えあう連帯感は素晴らしかったです。報告資料の作成中は先輩が研究室でJ-POPを流していたのですが、今でもそのバンドの音楽を聞くと、当時の気持ちや研究室の空気が懐かしく甦ってきます。

社会人となって、再び大学院で学ぶ

中部電力に入社された動機を教えてください。

吉田:研究テーマが変電機器に関するものであったことと、それに関連して中部電力と共同研究を行ったことなどから、自然に就職先として中部電力を選んでいました。重電に興味がありましたから、好きなことをして生活できるのは幸せだという思いがありました。

入社後、10年以上たってから再び母校の大学院に、今度はドクターを目指して入学されましたね。

吉田:ええ。会社が電力の専門家を育成したいと考えていたこと、私自身が将来のキャリアを考えてドクターを取得したいと思ったこと、さらには研究室の恩師が私を快く迎え入れてくださったことで、再入学がかないました。大学院での研究は、企業内という枠にとらわれない自由なものでしたから、とても有意義でした。また、かつて私が先生や先輩に指導していただいたように今度は私が後輩に指導したのですが、これも新鮮な経験でした。

現場試験を基軸に研究を進める

現場経験を経て電力技術研究所に配属となりました。

吉田:実は中部電力に入社したときには、研究職を志望したわけではありませんでした。むしろ現場で汗を流す方が性に合っていると感じ、実際、長く変電部門で仕事を続けてきました。ですから電力技術研究所への異動は想定外ではあったのです。ただ、現場で経験を重ねた上で研究部門に異動したということで、現場が困っていることを解決するために尽くしたいと思いました。今はとてもやりがいのある仕事だと感じています。

何十年も前からIoTに取り組んできたという自負

現在のお仕事について教えてください。

吉田:現在はプレーイングマネージャー的な立場で、ライフラインとしての電気エネルギーの安定供給に資する研究開発に携わっています。また、電力システム改革による電力事業のあり方が大きく変わる中で、人々の暮らしに新たな価値を提供することを目的とした技術研究開発にも取り組んでいます。モットーは、ワクワク感をもちつつ、頭の中は冷静に、です。

新技術の適用研究の様子

心はホットに、頭はクールに、ということですね。

吉田:今、IoTやAIが技術研究開発のキーワードとなっており、当社でも積極的に取り組んでいます。一方で、これまでにも、水力発電所や変電所に無数のセンサ(リレー)を取付けて遠隔監視することで、無人運転化に取り組んできたことから、実は電力業界は何十年も前から広義のIoTを実現してきたともいえますし、送られてきたデータの解析も、ビッグデータという言葉のなかった時代から行ってきました。新しい技術、キーワードに対してワクワクする気持ちは大切ですが、一方で我々は既に思想的にはその先を行っているという冷静な判断も重要だと思います。さらにすべてをAIに置き換えていくと、いざというときに人間が何も判断できなくなってしまう可能性もあります。ベテラン作業員が長い経験で培ってきた感覚・感性も大切に継承していかなければならないと考えています。

お仕事で印象に残っていることを教えてください。

吉田:安全かつ安定的にエネルギーをお届けする上で、落雷をはじめとする自然現象は大きな障害です。とりわけ落雷に起因する事象は再現試験ができませんから、雷が侵入してきたルートの特定や、再発させないための設備対策の立案は困難です。そこで小規模モデル試験や、実測データ・シミュレーション等の結果をもとに、可能性の高い雷侵入ルートを導き出し、その対策を実施したところ、その後に大規模な落雷が発生しても、不具合が再発しなくなりました。これは非常に大きな達成感を得ることができました。

インパルス電圧発生装置による実験を行う

学生時代の学びのすべてが今の自分を支えている

学生時代に学んだ電気工学の知識は、お仕事の上でどのように活かされていますか。

吉田:当時は「こんな勉強が本当に役立つのだろうか」と思ったこともありましたが、電気回路論、電磁気学、電子回路、高電圧工学など、学生時代に学んだ電気工学の“基本の基”は、仕事においてすべて活用しているといって過言ではありません。当時使っていた教科書は大切に取ってありますよ。

学生時代に使った教科書は、
今も手放せません

学生時代の教科書が今もお手元にあるんですか。

吉田:ええ。仕事で疑問がわいたら、教科書を手に取ってページを開くことも珍しくありません。大切なのは、誘電率、透磁率、周波数など、教科書に出てくる単語がどのような現象を意味しているかをイメージできることで、それによって技術開発の可能性や不具合の想定原因について、おおまかなふるいわけができるのです。また、高電圧・大電流を扱う電力機器の計測を行う場合、高い電界・磁界・電磁界への配慮が不可欠です。そのために学生時代に学んだ計測技術も、大いに役立っています。

リミッターを外して限界まで学んで欲しい

今後はどのような仕事に取り組みたいとお考えですか。

吉田:先ほどもお話ししたように、当社も近年はIoT、AI、ビッグデータ等、情報処理技術の分野を視野に入れた技術研究開発や新たなサービスの開発に取り組んでいます。しかしこうしたキーワードにとらわれすぎず、電力設備を扱う人間として、モノ(ハード)やコト(現象)と向き合うことを忘れないようにしたいと思っています。そして、これまで培ってきた理念や技術、技能に基づく、人間としての感覚をしっかり保持し、進化・深化させていくことが大切だと考えています。

電気工学を学ぶ魅力とは何でしょうか。

吉田:電気工学を学ぶことで社会に必要とされる人材になれる、という点ではないでしょうか。再生可能エネルギーの普及や自動車の電化、蓄電池の汎用化など、電気(強電)が活用される場面は今後も広がっていきます。電子産業や情報産業(弱電)も同様でしょう。産業の発展に伴って優秀な人材に対するニーズは高まっていきますから、活躍の場はますます広がっていくと思います。とても夢のある分野だといえるでしょう。

その活躍を支える基礎が、学生時代の学びというわけですね。

吉田:はい。学生の皆さんには、ぜひ今のうちに学びのリミッターを外して、自分の限界までとことん学びを突き詰めるという体験をして欲しいと思います。社会人になってからはなかなかできないことですから、自分の限界を知っておくのは、意義深いことです。

では、電気工学を学ぶ後輩の皆さんにメッセージをお願いします。

吉田:電気工学に無限の可能性があるように、皆さん自身も可能性の塊です。決められたルートなんて一つもありません。ご自分の置かれた環境を俯瞰的に見て、これからの選択肢は無限にあるということを知っていただけたらと思います。

本日はありがとうございました。

※インタビューへのご質問、お問い合せにつきましては、「こちら」にお願いします。

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