vol.39 日本ガイシ株式会社
社会人インタビュー vol.39
大容量の電力貯蔵を実現するNAS電池の普及を通じてエネルギー問題の解決に貢献したい。
日本ガイシ株式会社
伊藤 良幸(いとう よしゆき)さん
父親の影響で技術職の道を志した伊藤さん。「独自の技術で社会に貢献する」という企業姿勢にひかれて日本ガイシに入社され、これまで企業や電力会社への大容量蓄電池の納入に携わってこられました。新しい技術への挑戦を通じて社会に貢献するやりがいなどについて、お話を伺いました。
プロフィール
- 2003年4月
- 鈴鹿工業高等専門学校 電気工学科 卒業
- 2005年3月
- 豊橋技術科学大学 工学部 電気・電子工学課程 卒業
- 2007年3月
- 豊橋技術科学大学大学院 工学研究科 電気・電子工学専攻 博士前期課程 修了
- 2007年4月
- 日本ガイシ株式会社 入社
- 2007年6月
- 電力事業本部 NAS事業部 設計部 配属
- 2016年10月
- 電力事業本部 NAS事業部 設計技術部 配属
※2018年2月現在。文章中の敬称は略させていただきました。
高専から技術科学大学へ、ものづくりの道を進む
伊藤さんが電気工学の道に進まれたきっかけを教えてください。
伊藤:父の影響が大きいですね。父が機械系技術職だったので、子供の頃から工学に触れる機会が多くありました。モノは自分で作る、壊れたら自分で直すという父で、自分の手で触ることでモノを大事にするようになると教わりました。そんな父を見て技術職に憧れるようになり、鈴鹿工業高等専門学校への進学を決意しました。技術者以外の道に進むことはイメージできなかったですね。電気を選んだのは、目には見えないけれど生活に欠かせないという点にひかれたからです。
鈴鹿工業高等専門学校ではどのような研究に取り組まれましたか。
伊藤:高電圧関係のシミュレーションをする研究室に入り、強電をかけて電子を放出させて増やす電子雪崩(でんしなだれ)の応用技術という研究に取り組んでいました。研究以外で記憶に残っているのは創造工学という授業です。廃材を集めてきて、自転車の部品で風車を作ったりしました。あの頃の友人とは、今もよく集まっています。やはり高専5年間は、学生時代で一番思い出に残っています。
卒業後、豊橋技術科学大学へ編入されました。
伊藤:高専で基礎を広く学び、専門的な研究は大学でと思いました。当時は就職難の時代でしたので、総合大学よりも技術科学大学(※1)の方が就職に有利と考えました。また、技術科学大学は高専出身者が多いことも魅力でしたね。
大学3年に編入ということで、すぐに研究活動に入られましたね。どのような研究をされましたか。
伊藤:電磁気学を専門とする研究室で、酸化物超電導体膜を用いた高周波フィルタの特性評価に取り組みました。当時、携帯電話などの通信機器の普及に伴って、通信に用いる周波数帯の混雑が問題視されていました。そこで、周波数帯を有効活用するため電気抵抗が極めて0Ωに近い超電導体を用いた高性能なバンドパスフィルタ(※2)がソリューションとして期待されており、その実現のため、製作プロセスの検討、性能評価を行いました。
研究で印象に残っているのは、どのようなことですか。
伊藤:サンプルは、ペーストのようなものを混ぜて電気炉で焼いて作るのですが、ほんの少し気温や湿度が変わるだけで性質が大きく変わってしまいます。品質確保の難しさなど、ものづくりの奥深さを改めて感じました。
研究活動以外ではどのようなことが思い出に残っていますか。
伊藤:初めて学会に参加したことが思い出に残っています。私のテーマはかなり珍しいもので、他に研究している人が本当に少ないのです。ですから違う分野の方から質問されるという経験が新鮮で、“そういう視点から考えるのか”と驚かされました。自分のアプローチにこだわらず、時には客観視することも大切だと学びました。あとは、コーヒーに強いこだわりのある先輩がいたことが記憶に残っています(笑)。
コーヒーですか。
伊藤:ええ。豆からこだわる先輩がいて、私もその影響でコーヒー好きになりました。今でも息抜きにコーヒーは欠かせません。
(※1)技術科学大学は国立大学の形態の一つで、豊橋技術科学大学と長岡技術科学大学の2校のみ。入学する学生の8割が高専生で、大学3年次に編入する。
(※2)バンドパスフィルタとは、必要な範囲の周波数のみを通し、他の周波数は通さない回路。
貯められない電気を貯める「NAS電池」
2007年に日本ガイシに入社されましたが、動機をお聞かせください。
伊藤:学生時代に受けた特別講義で日本ガイシの社員が講師を務めたことがありました。その講義で、「我々は家電のような目立つものを作っているわけではなく、ニッチな研究、製品を扱っているけれど、セラミックスの技術で社会の役に立つものを作っている」という話を聞いて、そういうスペシャリストとしての生き方に憧れたのがきっかけです。実際、日本ガイシはセラミックスの様々な特性を活かした独自の製品・技術を有し、碍子や自動車排ガス浄化用セラミックスなど様々な製品を展開しています。また、当時、新しい技術であった大容量蓄電システムにひかれたことも、入社動機です。
その思いがかなって、大容量蓄電システムを取り扱う部署に配属されたわけですね。
伊藤:ええ。私は“大容量の電気は貯められない(※3)”と学んできましたから、その常識がひっくり返るようなワクワクした感じがありました。それでNAS事業部への配属を希望したのです。大容量蓄電池であるNAS電池は電力使用量の平準化(ピークカット)や停電時のバックアップ電源として使用され、今日では再エネ発電設備の出力安定化や電力網安定化のソリューションとしても期待されています。
NAS事業部で伊藤さんはどのようなお仕事を担当されていますか。
伊藤:NAS電池に興味を持ってくださったお客様への導入提案や、設備・運用プログラムの設計のほか、プロジェクトマネージャーとして工程管理、運用法提案、技術問い合わせ窓口などを担当しています。NAS電池を通じて、仕様決めから実際に納入した後の運用フォローまで、幅広いフェーズでお客様と関わることのできる仕事です。
お客様とは?
伊藤:電力会社や再エネ事業者などの発送電企業や、工場などの電力の大口需要家などですね。NAS電池そのものが新しい技術ですから、お客様もどんなメリットがあるのか、具体的なイメージをつかめずに相談に来られますので、そこをクリアーにしていくところから仕事が始まります。そして、当社の技術をベースに、お客様の課題解決に最も適したシステムとして仕上げていくのが私の仕事となります。こんなふうにお客様に近いところで仕事ができるというのが醍醐味ですね。
(※3)詳細は身近な電気工学第11回「電気は、本当に貯められないのか?」を参照。
初の海外で、中東に大容量蓄電池を納入する
これまでで印象的だったのはどんなことでしたか。
伊藤:2年目に担当した中東のプロジェクトが印象に残っています。突然、中東の方が「蓄電池が欲しいんだが」と相談に来られたところから始まったプロジェクトでした。そう言われても我々も中東に電池を納めた経験などありませんでした。ですから、契約はどうすればいいんだ、どういう仕様なんだ、という手探りの状態から始まりました。そのプロジェクトで私は設計担当だったので、仕様を決める段階で「行ってこい」と言われて現地に飛びました。これが私にとって初めての海外体験でした。
現地ではどのようなことをされましたか。
伊藤:2ヵ月ほど滞在しましたが、配線工事の指導をしたり、機器の使い方を説明したり、運用の仕様を決めたりといったことにプロジェクトマネージャーと一緒に取り組みました。このプロジェクトをきっかけに他の国からもご相談をいただいています。
ご苦労も多かったでしょうね。
伊藤:やはり生活習慣がまるで違いますし、カルチャーショックはありましたね。日本にいると体験できないことばかりで、すべてが驚きでした。
中東は、再生可能エネルギーも盛んで納入されたNAS電池は大活躍されているのではないですか。
伊藤:そうですね。この中東プロジェクトは今も納入が続いているもので、私は初期段階に関わったのですが、NAS電池が再生可能エネルギーの普及や、電力の安定供給に役立ったらいいと思っています。
学生時代に身につけた電気工学の知識は、仕事の上でどのように活きていると感じていらっしゃいますか。
伊藤:新規設計やトラブル対応では、計画・実証・検証・改善を繰り返しますが、実習や実験といった身体と頭を同時に動かして学んできた経験は、情報整理や解決能力として活かされていると思います。例えば充電の制御には一定の電力で行うという制約があったのですが、お客様によっては変動させて充電したいというニーズも出てきます。それに応えてトライ&エラーを繰り返して新しい仕様を決めていくという中では、学生時代の経験が非常に役立ちましたね。
(※4)宮古島の再生可能エネルギー導入プロジェクトについては、「社会人インタビューvol.35 一般財団法人 電力中央研究所」もご覧ください。
蓄電池だけにとどまらず、新しい知識も吸収したい
今後はどのようなことに取り組みたいですか。
伊藤:エネルギー問題は地球レベルで解決すべき大きな課題ですから、私たちの有している大容量蓄電池の技術のみにこだわらず、社外の様々な方たちと技術協力をして、よりよいシステムを構築していきたいと思います。電気工学という枠にとどまらず、化学や機械、情報など、ニュートラルな発想で取り組んでいきたいですね。
幅広い分野に興味を持つことが大切だと。
伊藤:私も学生時代から電気化学や材料工学なども学びましたし、機械の知識は仕事で構造物を扱うときに役立っています。どんな知識がいつ役立つかわからないですから、興味のあることは柔軟に吸収していくことが大切だと思います。
改めて、電気工学を学んでよかったと思うことは何でしょう。
伊藤:電気工学で学んだことは、様々な領域で活かすことができる点です。ですから研究分野にこだわることなく、その時々に自分が興味を持った分野に進学・就職することが、結果的によりよい選択になると思います。また、電気がなければ、朝目が覚めてから夜寝るまで、一日中、暗くて不便な生活を送ることになってしまいますよね。それを思うと、電気を学んで本当によかったと感じます。
伊藤さんは、日本ガイシのCM『ボクらはクロコ』にも登場されましたね。そういう意味では、入社時の思いが叶いましたね。
伊藤:はい、家族も喜んでくれました(笑)。電気工学を学ぶことで、目立たないけど、社会の役に立つものに関われていることは良かったと思います。
電池の進化は、将来のエネルギー社会にとって非常に有益だと思います。今後の伊藤さんのさらなる活躍を期待しています。ありがとうございました。
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