vol.14 富士電機株式会社
社会人インタビュー vol.14
世界に広がる省エネ機器をつくりたい。
富士電機株式会社
能登泰之(のとやすゆき)さん
富士電機株式会社は、80年以上の歴史を持つ、日本を代表する重電メーカーです。今回、取材させて頂いたのは、鉄道やエレベータなどの産業用制御装置を開発する、能登泰之さん。学生時代から制御機器の研究に関わっている、第一線のエンジニアです。取材は、東京日野市の富士電機・東京事業所にて行いました。
プロフィール
- 2008年3月
- 福井大学大学院 工学研究科 博士前期課程 電気・電子工学専攻修了
- 2008年4月
- 富士電機アドバンストテクノロジー株式会社入社
- 2008年7月
- 富士電機アドバンストテクノロジー株式会社 エレクトロニクス技術センター配属
- 現在
- 富士電機株式会社技術開発本部製品技術研究所パワエレ技術開発センター応用技術開発部制御システムグループ
※2011年10月現在。文章中の敬称は略させて頂きました。
福井大学のパワーエレクトロニクス研究室出身です
能登さんが電気工学を志望された理由を教えてください。
能登:文系の科目よりも理系の科目の方が得意だったことです。また、工学部の中でも電気工学は非常に応用分野が広くて社会に欠かせない学問だというイメージがありました。就職の際にも選択肢が広がるのではないかと考えて、電気工学を志望しました。
院へ進んだ理由を教えてください。
能登:福井大学の場合は学部4年生から研究室に入るのですが、手掛けた研究をもっとやりたいと思ったことが院へ進んだ動機です。研究室は、2009年3月に定年退官された杉本英彦先生のパワーエレクトロニクス研究室へ行きました。
パワーエレクトロニクス研究室へ行かれた理由も教えてください。
能登:パワーエレクトロニクスや制御工学の授業を受けて、非常に興味をひかれたことですね。杉本先生に教えて頂きました。また、研究室を選ぶ際に説明会がありましたが、そこでモータの制御技術についてのプレゼンを見て面白そうだと感じました。授業で学んだ制御工学などを活かして、実物のモータをコントロールする姿を見て「私もやってみたいなぁ」と思いました。
パワーエレクトロニクスの魅力は何だと思われますか。
能登:パワーエレクトロニクスが、省エネルギーや地球温暖化を防止するCO2削減などに密接に関係していることだと思います。例えば、電動機の制御で言いますと、電動機の駆動電力は日本国内の消費電力の約半分ぐらいを占めていると言われています。
日本国内の消費電力の約半分ですか!
能登:そうです。ですから、その電動機の制御をもっと効率よく行えば、大きな省エネルギーにつながり、地球環境に貢献できます。非常にやりがいがあると思いますね。
モータ制御の最先端技術「速度センサレス制御」研究
研究室時代はどのような研究をやっておられましたか。
能登:永久磁石モータの制御の研究です。通常、モータには速度や位置を探知するセンサが付いています。このセンサの検出情報によって、指令通りの速度になるようにモータの出力トルクを制御します。
モータには、普通、速度センサが付いていると。
能登:はい。それに対して、私は、「速度センサレス制御」といって、速度センサを使わずに、電流の情報を元にして速度を推定し、その指令通りの速度になるようにモータを制御する研究を行っていました。
モータから速度センサを無くすことで、どのような利点があるのですか。
能登:センサを使用しないことで、コストダウンが可能です。それから、コンプレッサなどの速度センサを付けにくいような製品にも最適です。また、鉄道のモータにも速度センサが付いていますが、速度センサを使わないことでノイズの影響を受けず信頼性が向上するため、非常に有効的です。このように、センサを使わずにモータ制御を行うことで、色々なメリットがあります。
モータを使用する製品は数え切れないほどありますが、どのような製品での利用を目的とされていましたか。
能登:エレベータや鉄道車両、ファン(送風機)などの産業用途を想定して研究していました。具体的には、速度センサレス制御を表す数学モデルがあって、その数学モデルをより正確に推定する研究です。数学モデルが正確になれば、さらに駆動性能を上げることができるからです。
なるほど。研究で印象に残ったことを教えてください。
能登:忙しくて大変だったことが思い出です(苦笑)。例えば、正月にも帰省せずにシミュレーションをしていました。それから、修士論文の発表が終わってからも、論文誌へ投稿をしていましたね。
研究室時代の思い出も教えてください。
能登:仲の良い一体感のある研究室だったということでしょうか。みんなで、夕食を食堂で食べてから夜遅くまで研究したり、飲み会をしたり(笑)、海へ行ったりしました。現在は、杉本先生が定年退官されて、福井大学にはパワーエレクトロニクス研究室自体、無くなりました。非常に残念ですね。
産業を支える、電力制御装置を進化させる
富士電機に入社された理由を教えてください。
能登:大学院生の時に富士電機と共同研究をしていたことがきっかけです。一緒に共同研究をしていた方から、富士電機は技術開発に熱心であるという印象を受けました。それで富士電機ならば、パワーエレクトロニクス関係の技術開発の仕事に携われるのではないかと考えて志望しました。
産学共同研究は、どのような流れでやられていたのですか。
能登:私たちが研究に使う制御装置やモータ、インバータなどを富士電機から提供を受けていました。そして、製品化へ向けて一緒に研究を重ね、ディスカッションなどを行っていました。
入社後から現在まで、どのようなお仕事をされていますか。
能登:入社後の社内研修を経て、こちらの東京工場へ配属となりました。東京工場では、電機システム部門と研究開発拠点があります。私は入社以来、パワーエレクトロニクス関連機器の研究開発を行っています。
具体的に関わった製品を教えてください。
能登:主にモータの制御装置や制御基板などを開発しています。今、私が中心となって開発しているのは、下記の写真の制御基板です。鉄道車両やエレベータなどの、モータの駆動装置及び電源装置に使える制御基板です。汎用的に使用できることが特長です。
モータの駆動装置と電源装置、ふたつ使えるとどのようなメリットがあるのですか。
能登:大きなメリットとして、この制御装置を使用する製品(鉄道車両やエレベータ等)が変わっても、基板を新しくつくり直す必要がないことです。例えば電車の場合、鉄道会社や機種が色々ありますね。機種毎に、いちいち制御基板をつくっているとコストが大変かかります。この制御基板は、通信インターフェースを拡張する機能を持っているので、多くの製品に使えることができるのです。
すごく効率的な製品ですね!どういう流れでこのような制御装置はつくられるのですか。
能登:おおまかに言いますと、まず文献調査や特許調査などを行います。その上で、他社の特許とは異なる制御方式を検討します。その制御方式をシミュレーションで確認して、社内や工場で実機試験を行うという流れです。そして、問題なく駆動できれば、工場の方に移管して生産を行っていきます。
検討してから製品化まで、どれぐらいかかるものなのですか。
能登:まちまちです。検討からシミュレーション、実機評価までは、半年から1年位でしょうか。その後、工場に移管して製品化を行うわけですが、お客様の都合などもありますので、製品によって違いますね。
入社されてから4年間、一番印象に残っていることは何ですか。
能登:インバータの制御基板や周辺基板の開発を手掛けたことですね。学生の時はモータの制御技術の研究が中心でしたので、未知の分野でやりがいがありました。実際に自分が設計した基板が無事に動作したときは、やはりうれしかったですね。
電気工学は、幅広い知識と原理を身につけることができる
今までのお話を伺うと、今のお仕事と学生時代の研究は密接に関わっていますね。
能登:そうですね。私の場合、仕事に直接関係していますので、電気工学を学んでよかったと思います。現在でもモータ制御関係の技術開発を行っていますので、研究室時代の知識や技術は非常に役立っています。学生時代は、技術者としての基礎であり出発点でしたね。
技術開発の仕事において、電気工学出身者は、他の学科出身者と比べてどの辺りが優位と思われますか。
能登:例えば、アナログ回路やデジタル回路を学んだことは、回路を設計する際に基礎知識として役立っています。それから、パワーエレクトロニクスの電力変換や制御技術、電磁気、半導体、回路理論など、電気工学は幅広い知識が身につけられることでしょうか。また、電気はあらゆる製品の基なので、製品原理も理解できることが大きいと思います。
これから電気工学を学ぼうとする学生へアドバイスをお願いいたします。
能登:電気工学は、応用分野が広く社会に欠かせない学問だと考えています。例えば、私の学生時代の仲間も、半導体、通信、電力、パワーエレクトロニクスなど幅広い分野へ進みました。このように、電気工学を学ぶことで将来の選択肢も広がりますので、自分が興味を持てる分野を見つけて、深く追求してもらえればと思います。
国内の消費電力の約半分、莫大なモータ駆動電力を減らしたい
最後に、能登さんの今後の夢や目標を教えてください。
能登:先ほどもお話ししましたが、モータの駆動電力が国内の消費電力の約半分ぐらいを占めている現実があります。ですから、より高効率なモータの駆動技術や駆動装置を開発して、省エネルギーに貢献したいという思いがありますね。
日本だけでなく世界でも、モータの駆動電力を減らすことは省エネにつながりますか。
能登:はい。大きな地球環境貢献になります。また、ビジネス的にも海外の成長は著しいので、これから日本国内だけではなくて海外でも売れるようなものを開発したいですね。海外の場合、性能だけでなくコストも非常に重要になってくるので、そのハードルをクリアして、世界へ私たちの製品を広めていきたいです。
これまで開発された制御装置や基板は、実際に製品化されていますか。
能登:少しだけ関わったものならありますが、私がメインに関わった制御装置はまだありません。先ほど申し上げた制御装置は、工場に移管中の段階なので生産には至っていません。やはり私の夢は、世界中の鉄道車両やエレベータなどに、自分のつくった制御装置が使われることですね。そして、地球環境保全に少しでも貢献できたらと思います。
本日は、パワーエレクトロニクスの制御技術や装置について色々と勉強になりました。ありがとうございました。
※パワーアカデミーWEBサイトは、内閣告示第二号に基づき、外来語カタカナ用語の末尾音引きは原則として長音符号を用いていますが、本インタビューは、取材先のご要望により、音引きを省略いたしました。(パワーアカデミー事務局)
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