一般財団法人電力中央研究所

電気工学で活躍する女性

雷の謎を解明して、電力インフラを守りたい。

一般財団法人電力中央研究所グリッドイノベーション研究本部

工藤 亜美くどう あみさん

2025年1月31日掲載

※本記事は、2024年11月に取材しました。

雷が
子供の頃から大好き

雷が子供の頃から大好きだったという工藤さん。「小学校の5年生ぐらいだったと思います。私の家は小高い丘の上にあったのですが、夜、塾へ行って帰ったときに振り返ると雷がピカッと降りたのです。これを見て、すごい!と心に刺さりました」と当時の感激を話します。以来、その思いは変わらず今に至るそうです。
勉強も理系科目が得意で、スーパーサイエンスハイスクール(SSH※1)に認定された大阪教育大学付属高等学校天王寺校舎へ進学。推薦入試で大阪大学の基礎工学科に進みました。「元々、数学と理科は好きで理系へ行くことは決めていました。さらに雷が好きなので電気を勉強したいと思って基礎工学科に進みました」
そして研究室に進むにあたり、本格的に雷の勉強をしたいと考えて基礎工学科から同大学工学研究科に学部4年のときに転部。雷が研究できる研究室はないかと調べて、世界的にも有名な牛尾知雄研究室に入ります。「今、思うと運命の出会いでした」と振り返ります。
(※1)文部科学省が科学技術や理科・数学教育を重点的に行う高校を指定する制度

人工衛星の雷観測
キャンペーンに参加

学部時代の研究テーマは、「不正薬物を検知する機械の性能検証」。工藤さんは社会的に意義のある実践的な工学研究へ関わることができ、大きなやりがいを感じたそうです。そして、修士課程へ進学して念願だった雷の研究へ本格的に取り組みます。
「雷観測に関する研究を行いました。雷の観測には多くの種類がありますが、その中で私は人工衛星からの雷観測(赤外線により雷の発光を捉える手法)の特徴を調査しました。具体的には、人工衛星の観測精度や、雷のどういった部分を観測しているかの調査を行いました。人工衛星の雷観測はまだまだ分からないことが多いのです」
通常、人工衛星を使用した研究は予算がかかって難しいのですが、ちょうどさまざまな学術・研究団体が参加する人工衛星(GOES※2)の雷観測キャンペーンに参加することができたそうです。工藤さんはまず修士1年のときに、雷の観測装置を1人で設置、運用できるようになるため、シンガポールへ行き約2か月間修行をしました。「観測装置を開発した元教授が退官してシンガポールに移り住んだため、私もシンガポールに行って先生の家に居候して勉強しました」
(※2)アメリカ合衆国の静止気象衛星シリーズ

1人でアメリカへ行き
雷観測を行う

さらに修士2年にはアメリカへ1人で行き、雷観測をしてデータの取得、整理を行いました。「アメリカ南部のアラバマ州ハンツビルという雷がとても多い地域で、4月から5月にかけて雷観測を行いました。データの取得が一番のミッションで、約一か月半欠かさずデータをとるとともに、二重三重にデータをコピーして失わないように細心の注意を払いました。また、機器の特性上、野原に設置する必要があるため、コンテナを設置してその中で夜通し観測しました」
アラバマの広大な野原の中、コンテナと工藤さんだけという状態で、約一か月半、必死に雷観測を続けていたそうです。「一度、雨がコンテナに入ったときがあって、着ていた服を脱いでパソコンを覆いました」と苦笑いで話します。そのほかにも野生のスカンクが突然、近くにやって来たことも。「生命の危険はないようにしていましたが、雷が自分のすぐ側に落ちたこともありました。でも、雷を間近に体験できて感動しました。そして何よりも海外に一人で研究生活を送ったおかげで、研究者としての心構えが身についたと思います」

高精度な落雷分析の
新システムを開発

屋上に設置してある落雷位置標定システムLENTRA。手前が開発検討時に用いた旧設備、奥が小型化された現在の設備。

順調に研究を続けていく中、工藤さんはこれからも雷の研究をやりたいと考えて、就職または博士課程への進学を検討します。すると「Google検索で“雷 研究”で調べたら電力中央研究所(以下:電中研)が出てきました。それまで名前も知りませんでした(笑)」。偶然の出会いでしたが、工藤さんのこれまでの研究に対する姿勢や思いが評価され、就職につながりました。
入社後は「横須賀地区」で、雷観測と、落雷後の電力設備の安全対策を研究している部署に配属されました。現在は、主に雷が落ちた時に発生する電界を観測し、「どこに」「どんな」雷が落ちたかを推定する、落雷位置標定システム(LLS)の新しいバージョンとなるLENTRA(レントラー)の開発に携わっています。「雷は瞬間的に発生して消えるものなので、落雷した雷がどんなものかを知ることは非常に難しいのです。そこで、従来よりも高精度で、これまで困難だったパラメーターまでも推定できるLENTRAを開発しました」
一番苦労したことを伺うと、自動でデータを分析するソフトウェアを1から作ったことだそうです。「先輩と二人でやったのですが、毎日エラーや想定外の挙動との戦いでしょんぼりしながら帰宅していました。その分、プログラムができた時の喜びもひとしおで、モノづくりの醍醐味を味わいました」
現在、LENTRAの観測範囲は関東地方と上越・北陸の一部地域です。「観測域をさらに広げ、日本の各地に落ちる雷の特徴が分かるようになりたいと思っています」と意気込みを語ります。

女性は周囲の目を気にせず
好きな道に進んでほしい

大学、大学院、社会人と、電気工学そして雷の研究を続けてきた工藤さん。周りには、女性はほとんどいなかったそうです。学部時代は100人に4人、院時代は100人に1人位でした。ただ、そのことで不便を感じたことはないそうです。
「女性が少ないことを覚悟して進学しましたが、不便はなかったです。逆に、学部時代は少ない女性同士で結束が強かったです。研究室はそもそもの配属が少人数なので、気になりませんでした」
電中研も女性社員は少ないですが、働く女性を応援する制度は整っており、最近は少しずつ増えて来ているそうです。ただ工藤さんは、数が増えることも大事ですが、電気工学が本当に好きな女性に来てほしいと言います。
「残念ながら、“女性が工学?”という意識は、私が学生だった時代でもありました。だから、女性の方は興味を持ったら周囲の目を気にせず、あきらめないで進んでほしいです」。好きな道にはきっと素敵な未来が待っていると強調されていました。

電気工学は実生活の
多くの「はてな?」が
理屈で分かる

研究者として、技術者として、自分が好きな雷に関わる工藤さん。その中で電気工学は「研究やモノづくりを行う上で、共通言語というか土台のようなもの」と言います。そして、「日常生活と切っても切れない関係の電気工学分野は学んでいるだけで、実生活の多くのはてな?が理屈で分かるようになります。お勧めです」と魅力を語ってくれました。
最後にこれから電気工学を学ぶ方へ「フットワーク軽くしてほしいです。とりあえずやる、という精神的な“フッ軽さ”は研究において貴重な能力です。自分はあまり得意ではないため苦労しています」とアドバイスをいただきました。
これからも、自分が好きな雷の道を進んでいきたいという工藤さん。「雷はまだまだ謎がある現象です。もっと雷の特性をいろいろな角度から理解して、幅広い知識を身につけていきたいです」と、その向上心はとどまることを知らないようです。

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