これからは電気自動車をどう普及させるか
Q. 最新のエリーカの現状を教えてください。
2004年に開発したエリーカは、試作品の段階ではありますが、成功したと自負しています。現在は、新しい開発ステージとして、いかに普及に結びつけられるのかをテーマに研究を行っています。具体的には、新しいモータの開発です。私達はずっとインホイールモータ方式でやっていましたが、より効率を高くした方式に変えようとしています。もし、この開発が実現すれば、現在のエリーカより3割程度、走行距離が延びると予想されます。
また、これと平行して自動運転の研究も行っています。これからのクルマは電気自動車に移行していくことに加えて、自動運転になっていくと考えられています。もし、自動運転が実現すれば、本当の意味でクルマは人間にとって使いやすい道具になったと言えるでしょう。そこで、今までは既存の電気自動車を使用していましたが、現在は、専用車両(ゼロから自動運転用の車両をつくる)で研究を行っています。さらに近い将来はこの自動運転技術を、バスなどに応用し、より汎用的に電気自動車を普及させていくことを目指しています。
電気自動車の3種の神器は、電気工学
Q. エリーカには、電気工学がどのように貢献していますか。
エリーカに限らず電気自動車は全て、電気工学そのものであると言えます。エンジン自動車が電気に変わるということは、電池が変わります、インバータが変わります、モータが変わります。これら3つが、電気自動車における三種の神器であり、電気工学の分野だからです。つまり、電気自動車を動かすには、電気工学を専門に学んだ技術者が不可欠だということです。
また現在、電気工学は、ロボットの研究が広く行われています。さきほど申し上げた、クルマの自動運転化の研究というのは、見方を変えれば移動ロボットをつくる研究と言えるでしょう。その意味で、自動運転化の研究にも電気工学の技術が大きく活かされています。
世界中に新しい電力システムを構築する使命
Q. 電気自動車をさらに普及させるために、どのような電気工学技術の発展が望まれますか。
それに関しては、個々の技術の進化と電力システムの構築という、ふたつの視点で考える必要があります。個々の技術の進化で一番期待しているのは、インバータで使用されている半導体素子の改良です。インバータにおける半導体素子には、現在トランジスタが使われていますが、最近出てきたシリコンカーバイド(SIC※)に変われば、インバータのサイズが1/3以上小型化ができます。当然、高効率になるわけで、燃費向上に大きく貢献してくれます。
ただし、このシリコンカーバイドを除けば、インバータもモータも電池も基本的な技術は出揃ったと私は考えています。原理的には、おそらくこれから20年は変わらないでしょう。100点ではないですが、一応60点の合格点はつけられます。個々の技術に関しては、少しずつ高性能化していけば良いと思います。
それよりも、もっと重要なのが、ふたつ目の電力システムの構築です。現在、自動車産業は200兆円と言われていますが、クルマが電気に変われば、世界中に何倍もマーケットが広がっていきます。そのためには、電気自動車には不可欠な充電と発電所の関係をひとつのシステムとして成立させる必要があります。これからの日本の電気工学には、いかにしてこのシステムを構築し、世界中に広めていくのかがもっとも期待されます。個々の技術への貢献も大事ですが、むしろシステムを構築して世界中に普及させていくという大きな使命が、電気工学にはあると思っています。
シリコンカーバイド(SIC)
シリコンと炭素で構成される半導体材料。現在のシリコンに比べ、高電圧・高温に強く電力損失が少ないと言われている。
電気工学は、地球エレクトロニクス工学だ
Q. 最後に、清水教授から電気工学にメッセージを頂ければと思います。
電気工学に関わる方達には、自分達の研究が地球に大変貢献する学問だという自負を持って頂きたいと思います。これから地球環境問題を解決していくには、エネルギーを全て電気に変えていかなければなりません。そしてなおかつ電気になったエネルギーをどう使うのかが、21世紀の大きな変化になるからです。
例えば、パワーエレクトロニクスの研究をされている方々なら、「地球環境をよくするためにはどうしたらいいのか?そのためには電気自動車が必要だ。だからパワーエレクトロニクスをやっている」と。あるいは、電力機器の研究をされている方々なら「発電したエネルギーをどれだけ効率的に送れるのか?それが地球温暖化の問題解決のために大事だ」と。このように地球という視点で研究を行えば、さらに電気工学分野は発展していくでしょう。
私は、電気工学を地球エレクロニクス工学と名前を変えたらどうかと、知り合いの電気工学の先生に本気で提案したこともあります。地球に貢献する学問という視点を忘れずに、研究を行って頂きたいと思います。