エコキュートとIH調理器は、画期的な建築設備
オール電化住宅の登場は、建築家としてどう受け止められましたか。
まず一般的な事柄として、建物は、冷暖房やお湯をつくるためにエネルギーが必要です。昔は、そのエネルギーをつくるために、薪や炭を燃やしたり、石油ストーブを使っていたわけです。そして近年になって、都市ガスを使用するという流れになってきています。オール電化住宅は、この建築におけるエネルギーの流れの中で登場した、一番新しいものと位置づけられます。
オール電化住宅で画期的と言えることは、電気でお湯を効率よく作れることだと思います。昔の電気温水器は、実際に投入したエネルギー以上の効率でお湯をつくることはできなかったため、電気代が高価になりがちでした。それに対して、今のオール電化住宅で使用されているエコキュート(ヒートポンプ技術)は、投入したエネルギーの3倍以上の効率でお湯をつくることができます。
また、もうひとつ画期的だったのは、料理(IH調理器)です。電気を使用したコンロは以前からありましたが、電磁誘導で鍋そのものを効率よく発熱させるIH調理器は、熱効率が大変高いうえ、火傷の危険も少ないという点で「電気ならではの使いやすさ」を大きく高めた製品だと思います。
オール電化住宅は、現時点でもっとも最適なエコ選択肢
オール電化住宅の省エネ性・快適性について教えて下さい。
実も蓋もない言い方かもしれませんが、本当に省エネをしたいということだったら、昔の生活のように、電気もガスも全く使用しないことがいいわけです(笑)。でもそれでは、気持ちよく暮らせないですね。必要最低限のエネルギーを使って暮らしていくためにはどうすればよいのか。現時点では、オール電化住宅は最適な選択肢になっていると思います。
それから、コスト面を考えると、我々建築家は、イニシャルコスト(建てるコスト)と、ランニングコスト(生活するコスト)の2つを考えて設計しています。設計はつくっておしまいではなく、建てたあとも大事です。ものとしてのハードウェアだけでなく、そのあとの生活の一部をつくる責任が私たちにはあります。その意味で、オール電化住宅は、この2つのコストバランスが非常にいいと考えています。実際に私が手掛ける建築物も、現在では7~8割がオール電化住宅となっています。
また、快適性に関しては、直接的な効果としては、オール電化住宅は火を使わないので空気が汚れないことでしょう。間接的には、エコキュートでお湯が安くつくれるので、遠慮なくお湯に入ったり、床暖房ができることだと思います。もちろん節約を考えることも大事ですが、我慢を強いられる必要性がないというのは、快適性につながります。
建築デザインはオール電化住宅によって影響がありますか。
IH調理器は火を使用しないため、キッチンを家の真ん中でつくることができます。実際に、今、私も含めて多くの建築家がつくるキッチンは、家の真ん中が多くなっています。これは家族全員で楽しみながら料理をつくって楽しもう、というコンセプトです。キッチンは、家の端っこでなければならないという常識をIH調理器は打ち破ったため、デザインの幅はぐっと広がったと思います。
また、キッチン以外ではLED照明です。今後、デザインを変えていく可能性が大きくあります。LEDは長寿命なため、吹き抜けの天井や床など、これまで考えられなかった箇所に灯りを照らせます。使い方を工夫すれば、デザインの幅が色々と広がります。
空がキレイになると、住宅と街の景観が変わる
将来のオール電化住宅について、展望をお聞かせ下さい。
大きな話ですが、太陽電池などが各々の家についていくことによって、それぞれの家でエネルギーをつくることができます。そのため、余った電力を、不足している地域に電力会社を通じて送ることができるようにもなります。家一軒一軒が発電所になるとでも言えばよいのでしょうか。ただし、住宅デザインの本質自体はあまり変わらないと思います。ローマには、2000年前のパンテオンがまだ建っていますが、その空間のありかたは、現在と本質的には変わっていません。窓があって、光が入るところに居間があるつくりです。それはたとえ家が発電所になっても、変わらないと考えています。
オール電化住宅が増えていくことで、私たちの社会はどのように変わりますか。
まず空がキレイになりますよね(笑)。国民全員が、自分の家でエネルギーをつくったり、電気自動車が普及すると、きっと空がキレイになると思います。
私は実家が東京なので、元旦でも東京にいますが、クルマが走っていないので、すごく空がきれいです。だから、元旦は空をずっと家から眺めています(笑)。同じように、住宅の窓から空が見えるような建築物が増えていくのではないでしょうか。現在は、そういう家は残念ながら多くありません。でも、空がキレイだと、みんな外を見ようとして、窓の場所や、街と家の関わり方が変わってくるのではないかと考えています。そして自然と調和する方向へ建築物が変わっていくように思われます。規制によって街の景観が変わるのではなく、みんなが自主的に自然と調和する家になっていって、建築物も街並みも、変わって行くのではないでしょうか。