vol.25 名古屋大学

「いつ電気が苦手になるのか?」

研究者コラム vol.25

「いつ電気が苦手になるのか?」

名古屋大学 大学院工学研究科 電子情報システム専攻
小島 寛樹 准教授

小島 寛樹(こじまひろき)

名古屋大学 大学院工学研究科 電子情報システム専攻 准教授

1998年3月
名古屋大学工学部電気学科 卒業
2000年3月
名古屋大学大学院工学研究科エネルギー理工学専攻博士前期課程 修了
2004年3月
名古屋大学大学院工学研究科エネルギー理工学専攻博士後期課程 修了、博士(工学)
2004年4月
名古屋大学エコトピア科学研究機構 寄附研究部門助手
2007年4月
名古屋大学エコトピア科学研究所 寄附研究部門助教
2010年4月
名古屋大学エコトピア科学研究所 寄附研究部門准教授
2014年4月
名古屋大学大学院工学研究科電子情報システム専攻 准教授

主に高電圧電気絶縁の研究開発に従事

【はじめに:自己紹介を兼ねて】

略歴を見てのとおり、大学生の時から所属は変わりながらも名古屋大学に在籍してきており、既に人生の半分以上の期間を名古屋大学で過ごしていることになります。この中でも、教職員になって最初の10年(2004~2014年)に所属していたエコトピア科学研究所エネルギーシステム寄附研究部門での経験が、現在の教育のスタンスに大きく影響しています。

このエネルギーシステム寄附研究部門におけるミッションには、大学における研究・教育はもちろんですが、社会に対する情報発信や新技術に対する社会的合意形成が含まれています。地域社会との連携を重視する大学・研究機関は多くありますが、基本的には研究がベースにある場合が多く、一般社会に対しての技術の理解を、組織として直接的に目的としているところは少ないのではないでしょうか。この寄附研究部門における情報発信活動や、学会での社会連携の活動を通して、小中高生、大学生、高校教員、親子、社会人、退職者等々、研究活動を合わせれば、電気について勉強をする/させる立場にあるほぼ全ての階層の人達に何らかの形で接してきました。その中で感じてきたところを、ここでは話していきたいと思います。

【電気は怖い?】

さて、タイトルで「いつ電気が苦手になるのか?」と書きましたが、そもそも本コラムを読みに来る人は、電気に興味を持ち、さらに電気を専門的に扱っている、あるいは勉強していこうという人達がほとんどで、電気が苦手であるという人は、まず、いないであろうと思います。一方で、例えば、皆さんの近所の方々はいかがでしょうか?最近は電力自由化についての報道や書籍が出てきているので、電気に関する話が話題に上ることも無いことはないと思いますが、そのときの相手の方の電気についての印象はどういったものだったでしょうか?相手の方の知識などによってかなり違うとは思いますが、電気への興味が薄い人ですと、だいたい「よくわからない⇒怖い!?」という図式があるように思います(特に私の専門である高電圧では)。理科離れが騒がれた時期にもよく言われましたが、この「よくわからない」を解消するのが、高度な科学技術に対しての社会的合意形成に必要なのです。

【子供は興味津々?】

さて、いつ電気が苦手になるかということで、小中学生の電気に対しての興味はどうでしょうか?小中学生を対象とした市民講座や理科教室に携わってきましたが、皆さんの周りの子供たちに対して持つ印象と同じように、「よくわからない」ながらも、大変興味を持ってくれて、多くのことを吸収してくれているように思います。(写真1、写真2) 少なくとも、このようなイベントに来る機会のある小中学生では、特段に電気が苦手ということは無いように見えます。

写真1:小学生に対する理科教室の様子
(平成25年度支部連携出張リフレッシュ理科教室、2013年7月5日)

写真2:市民講座後に続々実験内容の質問に来る親子
(市民公開講座「電気でファッショナブルライフ、あなたも今日からエコロジスト!」第5回、2008年8月5日)

写真3:気中絶縁破壊実験の放電音に驚く高校生
(市民参加アベニュー「聞いてみよう、見てみよう!あなたの周りの電気と暮らし」、2012年8月8日)

では、高校生はというと、オープンキャンパスや出前講義などで会う生徒は、一見、特別に電気を苦手としているようには見えず、興味を持って話を聞いてくれます(写真3)。ただ、ここで相手にしている生徒は、少なくとも理科への興味や必要性を持ち続けている(いわゆる理系の)生徒であることは考慮する必要があります。また、このような比較的電気への興味を持ち続けている生徒でも、個別に話を聞くと、目に見えなくてイメージが描きにくいなどの理由で電気は苦手という人は結構いました。ましてや、既に電気への興味が下がっている生徒は言わずもがなです。

【技術に対する社会的合意形成のためには】

電気を使った機器などが身近にあることは、多くの人にとっても周知のとおりなのですが、小中高生の(サンプル数は少ないですが)印象を聞くと、目に見えなくてイメージが描きにくいということで、学校で学習したこととの繋がりを感じることがなかなかできないことが、電気が苦手になる理由の一つのように思われます。驚くことに、電気系の学科に入学してくる大学生でも、苦手意識は当然無いにしても、実用電力機器との繋がりのイメージは非常に曖昧です。高校までに学習している電気に関する内容が、電磁気学とその応用が中心となっているため、結果として、電力技術に関しては、電気系以外の学科を卒業する学生にとっては、ほとんど未知の領域になっているようにも思えます。

図1:電気に関する知識の理解度と伝達のイメージ。矢印の太さは知識伝達の容易さをイメージしている。

このような状況を踏まえて、電気・電力技術に関しての知識・理解度を年齢層に対して描くと図1のようになるのではないかと思われます。私を含めて、電気に関わる数多くの方々が、シンポジウムや市民講座などを通して社会人や親の世代に、理科教室などを通して小中高生にそれぞれ電気・電力技術に関する興味を引き上げる活動をしてきており、さらに親の世代から子供にフィードバックがかかって社会的な電気技術に対する理解が向上することが期待できます。しかしながら、一度、電気が苦手となってしまった人たちに対してアクセスする手段がなかなか無いところが問題です。一方で、社会全体の技術に対する合意形成を目指すには、この層の技術の理解度を引き上げることが欠かせません。しかしながら、これが最も難しく、10年間様々な階層の人達に対して情報発信活動をしてきて、最後まで達成できませんでした。

【あとがき】

このように、長らく電気についての広報的な仕事をしてきたわけですが、そこを離れて、いわゆる普通の大学教員の役職に就くと、大学教員というのは、学生を含めて、専門性の高い人との接点は多いのですが、電気に関する興味の入口にいる人との直接的な接点が少ないことに気が付きます。もちろん、マスメディアなどを通して幅広い広報に携わっている先生方も多く、本コラムのバックナンバーでも多様な活動が紹介されています。しかしながら、電気が苦手になりそうで、自らは電気に関係する話に興味を持ってこない人たちに、上手く手を差しのべるというのは、なかなか難しいように思います。このような話は、理科離れが叫ばれた時期から数多くの検討が行われ、理科教育全体に対して対策が講じられてきました。ただ、電気については、目に見えないものを相手にすることもあるのか、特に苦手意識が現れやすい印象があります。

どうしたらよいのかなと、日々思案しているところです。

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