vol.10 三菱電機株式会社

タービン発電機 オンライン部分放電モニターの開発

開発者コラム vol.10

タービン発電機 オンライン部分放電モニターの開発

三菱電機株式会社 電力・産業システム事業本部 電力システム製作所 回転機製造部
宮武 亮治さん

開発者

宮武 亮治(みやたけ りょうじ)

三菱電機株式会社 電力・産業システム事業本部 電力システム製作所 回転機製造部

1995年3月
東京理科大学 理工学部 電気工学科卒業
1997年3月
東京理科大学 理工学研究科 電気工学専攻 修士課程修了
1997年4月
三菱電機株式会社 入社 回転機製造部 配属(タービン発電機の設計・開発業務)

はじめに

オンライン部分放電モニターとは、高電圧10~30kVのタービン発電機固定子巻線で発生する部分放電を連続計測し、固定子巻線の絶縁劣化状態を監視する装置です。
火力および原子力発電所においてタービン発電機は最重要機器のひとつであり、予期せぬ不具合による運転停止は停電などの社会的影響も大きく、電力の安定供給の観点から発電機の長期間の運転停止は回避すべき課題となっています。

発電機は15~30年以上の長期間運転において、定期的に点検が実施されますが、点検間隔は年単位であり、定期点検前に固定子巻線の絶縁劣化が進行し、地絡などの重大事故に至ることがあります。
予期せぬ不具合を未然に防止するには、負荷運転中にオンラインで発電機状態を監視診断し、早期に異常を検知することが望まれています。
三菱電機では運転中に固定子巻線で発生する部分放電を連続的に計測し、絶縁の異常を早期に検知可能なオンライン部分放電モニターの研究開発を20年にわたり行い、製品化しました。

これから私が携わったタービン発電機の絶縁監視システムである「オンライン部分放電モニターの開発」について、お話させて頂きます。

部分放電とは

部分放電とは、電極間に電圧を加えた際に、絶縁物の内部や空隙で部分的に発生する放電のことです(図1)。
一般的に、発電機の固定子巻線は、複数重ねたマイカ層とエポキシ樹脂を主材料とする主絶縁で導体が被覆された構造となっています(図2)。

図1 部分放電

図2 発電機固定子巻線の断面図

発電機の固定子巻線は、負荷運転中に、高電圧、高温かつ電磁加振力による機械的なストレスが加わり、長期間運転によって主絶縁が劣化していきます。

図3は、実機の固定子巻線を模擬したモデルコイルを製作し、絶縁表面に人工的に傷をつけ、傷における部分放電の発光を撮影した写真です。
図3の小さな光の粒は、部分放電時の発光によるものです。傷の形態や電圧の大小によって、部分放電が異なることが分かります。

図3 絶縁表面における部分放電の発光写真

オフライン計測とオンライン計測の特徴について

表1に、オフライン計測とオンライン計測の特徴を示します。

主絶縁で発生する部分放電は、劣化や損傷が進展する過程において増加することが一般的に知られており、定期点検では部分放電を計測することで、主絶縁の劣化状況を評価しています。
これまで部分放電の計測は、発電機を電力系統から切離し、停止した状態で実施する、オフライン計測が多く用いられてきました。
従来のオフライン計測に加え、オンライン部分放電モニターを使用することで、負荷運転中でも計測することが可能です。

表1 オフライン計測とオンライン計測の特徴

項目オフライン計測オンライン計測
計測の特徴 ・運転中の絶縁劣化や異常検出は不可
・計測のために運転の停止が必要
・ノイズが少ない
・様々な条件を設定し計測可能
・運転中に絶縁劣化や異常検出が可能
・傾向管理により異常の予兆が検出可能
・ノイズ除去技術が必要
電圧の印加状態 ・一相毎もしくは三相一括を選択可能
・巻線全体に一定電圧を印加(放電面積大)
・巻線に著しい損傷を与えない範囲で自由に電圧を印加可能
・三相交流電圧
・出力端子側ほど高電圧(放電面積小)
・電圧値は系統電圧に依存
評価・診断 ・各種の試験により総合評価 ・傾向管理に優れる

開発したオンライン部分放電モニターについて

部分放電が発生する際、電荷移動や電磁波が発生します。部分放電の検出方法は2つに大別でき、電荷移動(電流)を計測する方法と、電磁波を計測する方法があります。
今回開発したオンライン部分放電モニターでは、電磁波をアンテナで計測する方法を採用しました。
これは、アンテナセンサは、計測対象である固定子巻線に対し非接触で、発電機の信頼性には全く影響を及ぼさず、短時間かつ容易に取り付けることが可能だからです(図4)。

図4 部分放電と電磁波

図5に、部分放電計測システムの構成図を示します。
①マイクロストリップアンテナ、②ケーブルコネクタ、③部分放電検出器、④モニタリングPC、⑤監視モニター、⑥各種ケーブルで構成されています。

図5 オンライン部分放電モニターのシステム構成図

小型・軽量のマイクロストリップアンテナを発電機内に設置し、部分放電により放射される電磁波を1.8GHzの帯域で検出できるようにしました。
アンテナで検出された部分放電信号は専用の信号処理装置でノイズ除去処理やデジタル信号変換が行われ、モニタリングPC(図6)に転送されます。

図6 オンライン部分放電モニターの画面

モニタリングPCでは部分放電レベルの経時変化が表示され、また詳細なデータを呼び出して絶縁異常要因を分析することが可能です。
例えば、図7のように、放電パターンから絶縁損傷の様相を推定することができます。

図7 絶縁損傷の違いによる放電パターン

開発にあたり苦労したこと

絶縁異常を検知するには、部分放電発生時の電磁波を計測することが重要です。
しかし、部分放電による電磁波は運転中の機器で発生する様々な電磁ノイズと比較して微弱なため、電磁ノイズと区別することが大きな課題でした。

発電所では、大容量のサイリスタ励磁装置、直流電動機のブラシ、通信装置、公共の放送電波など様々な電磁ノイズがあります。
計測した信号がノイズなのか、放電信号なのか、発電機の数千~数万pCの部分放電を正確に検出できているか、開発メンバー(社内の研究所、社内の別工場、関係会社など)との議論や実験を繰り返しながら確認を進めていきました。お客さまの協力を得て、運用中の実機で試験を行ったこともありました。

また、解析では放電の発生条件や電界・電位を計算することは可能ですが、放電をシミュレーションすることが難しいため、実機の固定子を部分的に模擬したモデルを製作し、10~30kVの高電圧を印加する試験を実施しました。

モデルや実機での試験や電磁界解析を繰り返すことで、観察力と洞察力を高めることができました。そして、発電機の機内において、電磁ノイズはGHzを超える帯域で大きく減衰し、部分放電の検出が容易になる周波数帯があることを発見しました。

更に、絶縁劣化や異常を検知するには、実機で発生している事象を再現し、試験で確認することが不可欠となります。
そこで、これまで当社の発電機で発生した絶縁劣化事象を再調査・再分析し、機械劣化・熱劣化・電気劣化に分類しました。
分類した絶縁損傷をモデルコイルで模擬し、傷の深さや形状を細かく変化させた実験を行い、損傷毎に放電パターンが異なることを解明しました。

今後の目標

世界の電力需要は、今後も増加していくと予想されています。
一方、自然エネルギーを利用した発電が増加し、電力系統の安定化のため、発電機は起動停止の増加や急激な負荷変動など、従来よりも過酷な条件で運転されます。
将来的には、部分放電モニターだけでなく、振動・温度など全ての発電機計測データを総合評価し、固定子巻線だけでなく発電機全体の事故予知や寿命推定を行いたいと考えています。

また、24時間リアルタイムで膨大なデータを人間によって分析評価することは困難で、「人による分析評価のバラツキ」、「分析評価の高コスト化」、「分析評価に時間を要し、事象に対し時間遅れ」などの問題があります。
今後は、人工知能(AI)による自動診断システムを開発し、診断技術の高度化を進め、発電機の安心で円滑な運用を提案し、電力の安定供給に寄与していきたいと思っています。

学生へのメッセージ

オンライン部分放電モニターの開発は、基礎研究の段階から多くの方々が20年以上の長期間にわたる尽力により、製品となりました。技術開発では、多くの人間のたゆまぬ努力が必要となります。

製品開発においては実験が不可欠で必ず失敗し、困ります。困ったときは学生時代の実験の失敗や試行錯誤したことを思い出し、学生時代の教科書を読み返しました。
特に、学生時代の実験経験が非常に役立ちました。基本的なことが抜けていないか、根本的な間違えは無いか等、事象や考えを整理し、開発メンバーと議論することで、分かっていないこと、気づいていないこと、失敗の要因を明確にしていきました。
その際、洞察力を高めるため、主観的な思い込みを捨てて、物事を可能な限り客観的に、複数の視点から観るように、自分自身の考え方も変えていきました。
学生時代の実験や研究は、非常に役に立ちますので、一生懸命取り組んで下さい。

電気工学は、玩具から航空宇宙まで社会の幅広い分野で応用されており、技術進歩も早く、魅力的で楽しいことが多数あると思います。
学生の皆様には、電気工学を選択肢に入れて頂き、課題や壁にぶつかることを恐れることなく、好きな事や興味のある事を見つけ、日々挑戦して頂きたいと思います。
社会をより豊かにするため、共に励んでいきましょう。

皆さまの今後のご活躍を期待しています。

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