電気工学を究める

研究者コラム

料理は工学

熊田亜紀子准教授と研究室のメンバー

最寄り駅で降り、スーパーで買い物を済ませたら、(十分条件となってしまう在庫の材料が多くなりすぎると、制約が多すぎて献立をまとめるのが難しくなってくる。不良在庫とならぬよう、なるだけスーパーで購入する材料は必要量としている)残る家路は、ひたすら帰宅後の手順を考えていく。30分で作るというのが至上命題である。秋刀魚は内臓を処理して洗って塩ふってグリルにセット、お味噌汁用のだし汁は火にかけて、大根は桂剥きにして千切りにして塩をふって、味噌汁の野菜の準備もこの辺で始めて云々と、細かくシミュレートし、表1のような工程表を頭の中で練り上げていく。帰宅すれば、この予定表に基づき作業を遂行する。途中、セールス電話がかかってきたりと、ちょっとした外乱はあるものの、自分の作業効率を把握している限り、おおよそ工程表どおりに作業は行えるものである。


時間内に夕食を作り終え、めでたしめでたしとなるわけだが、ここまでダラダラ書き連ねてきた私の思考回路と作業内容を読んでくださった皆さんには、「夕食作りは、限られた条件下で問題を解決する工学に他ならない」ことが感じられたのではないだろうか。作業時間、キッチンの設備、冷蔵庫にある在庫、自分の作業効率という項目以外にも栄養バランスやコストといった健康・医療、経済項目をも考慮すれば、現代の電気工学の研究の進め方と何ら遜色のない工学であるといえる。身近なところにも、研究のトレーニングは転がっているのである。


熊田亜紀子准教授

日々の夕食作り作業には、作って食べられるということ以外に、1つうれしいおまけがある。大根の桂剝きやキャベツの千切りを、どこまでも薄くどこまでも細くと極限に挑戦しながらひたすら包丁を動かしていると、ふっと頭から雑念が消え、無の境地になることができる。そんなとき、往々にして「あそこをああすれば、今日の実験でうまくいかなかったあの点を解決できるのでは」と、本業である研究上のターニングポイントとなるアイディアが浮かんでくるのである。


工学に興味のある方や工学に携わっている方には、日々の食事作りに参画されることをお勧めする次第である。エンジニア、キッチンに入るべし。


表1:工程表

  秋刀魚塩焼き 小松菜煮浸し 大根の柿ナマス お味噌汁
18:15 職場を出る
献立を計画
頭の中で作業表作り
買い物、帰宅
19:00 内臓をとり、塩をふる     火にかける
19:05 グリルにて焼く   大根を千切りにし、塩を振る。
柿も千切りに。
 
19:10   だし汁と調味料を火にかける。
小松菜を洗いざく切り。
  煮干しを除く。
具となる野菜を切り、投入
19:15 ひっくり返す ジャコ、小松菜投入   味噌を入れ、火を止める。
19:20 大根おろしを作る      
19:25 火を止め、盛り付け。 火を止め、盛り付け。 三杯酢で和え、盛り付け。 盛り付け。
19:30 グリルを洗う。 鍋を洗う。 ボウルを洗う。 鍋を洗う。

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