電気工学で様々な社会問題を解決したい。

2012年10月31日掲載

宮崎大学 電力研究室は、「新エネルギーの活用」、「熱・電気複合エネルギーシステム」、「電力設備の診断」、「電気放電の環境応用」、「電気の安全性」、「蓄電デバイス」など次世代の電力技術の研究開発を行なっている、九州屈指の規模を誇る研究室です。林則行教授、迫田達也准教授、田島大輔特任助教という3名の教員のもと、学術界や産業界、マスコミにも注目される様々な研究成果を挙げています。

※2012年8月現在。本文中の敬称は略させていただきました。

電気工学の道へ進むきっかけ

電気工学を志望された理由を教えてください。

:私は父親が電気工事士をしていて、幼い頃から電気と関わっていく機会が多かったのが大きいですね。そこで自然と電気に興味を持っていったという感じです。

中村:親が公務員だったこともあって、高校に入った時点で公共性のある仕事がやりたいという軸がありました。中でも、もっとも公共性のあるインフラの仕事をやりたいと思い、一番身近で幅広い分野で活かせる電気工学を志望しました。

有吉:私の場合は数学や物理が好きだったので、理系へ進みました。理系の中でも、電気は需要がなくならないことにひかれましたね。

上栗:電気は、私たちに身近な存在で、生活する上で必要なので詳しく学びたいと思って専攻しました。

最先端のバイオマス研究“家畜の糞(ふん)”からエネルギーをつくる

奥さんの研究を教えてください。

:農学部と共同で「バイオマス燃料を燃焼させた際に発生する熱と熱電発電モジュールを利用した、未利用エネルギーの利用・開発に関する研究」を行っています。研究背景からご説明します。宮崎県は農業や畜産業が非常に盛んな県ですが、その分、相当な量の農林畜産廃棄物が発生します。

農業畜産廃棄物とは、どんなものですか。

:畜産の廃棄物ですと、牛糞(ぎゅうふん)や豚糞(とんぷん)など。農業の廃棄物ですと、間伐材(かんばつざい※樹木の生育を促すために間引いた木材)や売れない作物などです。こうしたものは、主に堆肥化(たいひか)して、最後は田畑にまいて肥料として使っています。しかし宮崎県の場合、牛糞と豚糞だけでも年間500万トンという莫大な量が出てしまうのです。

500万トンとは、分かりやすく言うとどれぐらいの量ですか。

熱電発電モジュールの基となる、熱発電ユニット。上面を水で冷却して、下面をヒーターで温めて温度差をつくり発電します。

:九州で出る糞の量の4分の1が、宮崎県で発生していると言えばお分かりいただけるでしょうか。

宮崎県の糞だけで九州の4分の1を占めてしまうのですか!

:そうです。その量を田畑にまくとなると限界があり、余剰分が発生しています。そこで、その堆肥にした余剰分を肥料で使用するのではなく、燃やして、その燃やした熱で発電したらどうかという研究です。また発電以外でも冷暖房への応用研究も行っています。

具体的にどのように研究されているのですか。

農学部にある発酵温室に、ボイラー(バイオマス燃焼試験装置)があります。クルマで向かいます。「博士課程になってからは、“農学工学総合研究科”という農学部と工学部がくっついてつくられた研究科に所属しています」(奥さん)。

:農学部の先生が、牛糞の水分量を発酵によって少なくできる特殊な菌を開発されました。その菌でつくった堆肥をボイラーで燃やして、燃やした熱で温水をつくり、さらに電気をつくっています。

糞を片付けられて電気も作れる。すごく夢のある研究ですね。

:はい、そうですね。最終的には、糞だけでなく他の“未利用エネルギー”でも発電したり、温水をつくったりしたいと考えています。燃焼装置とボイラーと、熱電発電モジュールがあれば、基本的にどんなものでも燃やして発電できますので。また現在は、太陽の熱を使った発電を考えています。

太陽光発電とは違うのですか。

発酵温室内のボイラー横にある、燃料となる堆肥をまぜた糞です。匂いはまったくなく、土としか思えません。

:違いますね。太陽は1箇所に集めると物が焦げるほど熱くなります。その熱を使って発電をするのが「太陽熱発電(※)」です。工学部の裏に大きな集光の装置ができて、今、計画段階です。

※太陽熱発電とは・・・太陽の光を集めて、その熱により水や油、溶融塩などを温めて蒸気を発生させ、その蒸気によって火力発電のようにタービンを回して発電する。

震災の復興などにも役立ちそうな研究ですね。

こちらが奥さんお手製の「バイオマス燃焼試験装置」です。炉内温度は20分で1100℃に達します。

:そうですね。東日本大震災で大量のガレキが出て、その処理に関して連日報道されています。私の研究は、ごみをエネルギーにする研究なので、ガレキを資源にして発電することも可能です。ただ、そのためには発電装置やボイラーの性能向上や、装置のコンパクト化なども課題です。

オゾンでプラズマをつくり、水を浄化する

有吉さんの研究を教えてください。

有吉:プラズマを用いた水の環境改善技術開発の中で、私たちは「気液界面放電によるオゾン及び活性種利用に特化した研究」を行っています。

プラズマを用いて、水をきれいにする技術を開発しているということですか。

有吉:そうです。現在、日本の浄水工程は塩素が主流なのですが、塩素ですと毒性など様々な課題が残っています。そこでプラズマにより、オゾン(※)を生成して水処理を行うことが目的です。オゾンは、殺菌や脱色能力(※)が非常に高いのです。

(※)オゾンとは・・・3つの酸素原子からなる酸素の同素体(O3)。フッ素に次ぐ強力な酸化作用がある。

(※)脱色とは・・・産業排水では、無害だが色のついた水が出てしまうケースがある。これにより、自然景観を損なうため、脱色能力に注目が集まっている。

なるほど。それで、気液界面放電という方法でオゾンをつくっているというわけですか。

プラズマで、気液界面放電によりオゾンを発生させます。「プラズマを発生させるための誘電体にシラス(地層)を原料とした“多孔質誘電体”を用いています」(有吉さん)。

有吉:そうです。気液界面放電は、液体と気体の間の界面で放電するという意味です。具体的に言えば陰極側に水を用いて、陽極側のガラスと陰極側の水との間で放電を起こすやり方です。一般的なオゾン生成装置とは違い、この気液界面放電で作成すると、オゾンと同時にOHラジカルなどを同時に利用できるので、非常に効率が良いのです。

OHラジカルとは何ですか。

有吉:OHラジカルの“ラジカル”とは、電子が安定していない状態のことを言います。ほかの元素とすごく結び付きやすい状態なので、オゾンよりも酸化力が強く“活性種”と言われています。

それで「気液界面放電によるオゾン及び活性種利用」というわけですね。オゾンは、大きな可能性がありそうですね。

実験結果はオシロスコープで表示されます。「シラスは、九州南部に特にみられる地層で、マイクロンレベル単位で穴が開いています。そこから酸素ガスを出して、その泡の中で放電を起こすのが研究の特徴です」(有吉さん)。

有吉:はい。2010年に宮崎県で豚や牛の口蹄疫(こうていえき)の流行がありましたが、その口蹄疫ウィルスもオゾンで殺せるのです。ただその時は実現には至りませんでしたが。また、これからもっと水の浄化処理能力が進めば、川の水なども飲める可能性もあるかもしれません。震災などの非常時にすごく助かると思います。

電力機器の“事故防止”と“コスト削減”を実現する劣化診断技術

中村さん、お願いします。

中村:「部分放電の発生の際に二次的に発生する振動音(AE:Acoustic Emission)に着目した、部分放電検出法による絶縁劣化診断法」を研究しています。この研究は、電力ケーブルを対象としています。

簡単に言えば、電力ケーブルの絶縁劣化診断法の研究ですか?

中村:そうです。ではなぜ劣化診断が必要なのかというと、電力ケーブルの寿命は約30年~50年と言われていて、はっきりと分かっていないのです。その結果、50年使えるケーブルなのに30年で取り外して、20年分のコストが無駄になるケースがある一方、30年しか持たないのに50年も使えると見積もって、事故が起きるケースもあります。つまり、“事故防止”と“コスト削減”という点から劣化診断が求められています。

なるほど。福島原発の事故でも注目されましたが確かに劣化診断技術は大切ですね。

中村:はい。そこで電力ケーブルが劣化すると、部分放電(電極間に電圧を加えたとき,その間の絶縁物中で部分的に発生する放電)が起きます。そうすると、発生箇所に電界が集中してひびが入り絶縁が破壊され、最終的には停電などの事故につながります。

部分放電は事故につながるものだと。

雷を発生させるインパルス電圧発生装置もある、超高圧実験室で実験を行っています。

中村:そこで着目したのが、部分放電で傷から出る放電音です。これをAE(Acoustic Emission)と言います。そのAEを圧電素子(※)が使用されているセンサーで検出して、電気信号に変換することで、劣化度合いを検出できないのかという研究を行っています。

(※)圧電素子とは・・・圧電体に加えられた力を電圧に変換する、あるいは電圧を力に変換する圧電効果を利用した素子。

こちらが実験用の電力ケーブル。電力会社から提供してもらった撤去品です。

電力ケーブル劣化診断用の実験装置です。

普段はこちらに電力ケーブルを設置。電圧をかけて実験します。

実験の結果はオシオスコープに表示されて、パソコンでデータ化します。

ゴミで、最先端の蓄電デバイスをつくる研究

上栗さんの研究を教えてください。

上栗:私は、「有機性廃棄物を蓄電デバイスである電気二重層キャパシタ(EDLC)の電極へ応用し、高性能で安価なEDLC(Electric double layer capacitor)の開発」を研究しています。まずは研究の背景からご説明します。ご存知のように、特に東日本大震災以降、太陽光発電や風力発電など、新エネルギー電源が注目されています。しかし、これらの電源は天候などに左右されて非常に不安定であるという課題を抱えています。

そうですね。再生可能エネルギーの不安定さは大きな課題ですね。

上栗:そこで、不安定な太陽光発電や風力発電などの新エネルギー電源を使用するには、電気を安定させるため、蓄電デバイスが必要になります。蓄電池は、一般的にはリチウムイオン電池(二次電池)が利用されていますが、私の研究では、”電気二重層キャパシタ“を利用しています。

なぜ、電気二重層キャパシタを利用するのですか。

実際に活性炭を作る装置です。

上栗:電気二重層キャパシタは、通常の蓄電池に比べて色々なメリットがあるからです。しかし、コストが高いという欠点があります。そこで、有機性廃棄物を電気二重層キャパシタ(EDLC)の電極へ応用して、高性能で安価なものを開発するというわけです。

なるほど。有機性廃棄物では何を使っていますか。

右下に写っているのが、活性炭の特性を測定する装置です。化学薬品を扱うため、白衣を着用します。

上栗:有機性廃棄物はコーヒー粕(かす)を用いて研究しています。コーヒー粕から活性炭(非常に強い吸着剤で、無数の小さい孔を発達させた炭素)を作成して、電極に使用しています。コーヒー粕は広い範囲で安定して大量に確保できるという面から選びました。基本的に炭素の“C”があれば、電極へは応用できるので、今後はビール粕など、様々な炭素を含んだ有機廃棄物を試したいと思っています。

充実の設備と幅広い研究テーマで、実験に取り組む

上栗さんはまだ研究を始めて約4ヶ月ですが、心に残ったことはありますか。

上栗:自分たちで実験から測定まで全てやることですね。私は小さいころからものづくりが好きだったので、電極を作って実際に結果まで導くことが楽しいです

皆さんも同じような感じで、実験メインの研究ですか。

奥・中村:そうですね。

有吉:ものづくりが好きな人にはお勧めです。みんなホームセンターに入り浸っています(笑)。

なるほど(笑)。皆さんはどんなことが印象深いですか。

有吉:脱色実験をはじめて見たときです。化学式で無色になると分かるのですが、実際に現象として見たときは「面白い」と思いました。

:私の研究は、発酵温室という温室でやっています。温室の中は、40度を越えるのは当たり前で、温度計が壊れるぐらいの暑さです。ただし実験が終わって、外に出てジュースを飲んだときの爽快感は最高ですよ(笑)。ちなみに私はお酒を飲みません(笑)。

中村:私の研究は、電力会社と共同研究なので、実際に電力現場を間近で見ることができたのは印象深いですね。地中ケーブルを生で見たり、電柱に上って作業している様子を見学したりすることができました。

研究室の特徴はどんな感じですか。

:普通の電気工学の研究室にはない色々な装置があることだと思います。私の研究ですと“バイオマスボイラー”という装置があります。小水力の班には“水車の動きを摸擬する装置”があります。デシカント空調の班ですと“デシカント空調ユニット”という装置があります。それから、電気の安全性の班は、人体にどのように電流が流れていくのかをゼラチンを使って実験しています。

上栗:硫酸などの電解液といった化学系の薬品も結構ありますね。

機械や医療器具、化学薬品などがあるユニークな研究室ですね!他にありますか。

中村:私の場合、企業と合同研究していることもあって、オシロスコープを3~4台持っています。センサーなども充実しています。

有吉:高速度カメラがあります。数ナノセックごとにシャッターを押せるカメラです。ナノセック(nsec/ns)とは、ナノ秒(10億分の1秒)という意味です。

10億分の1秒毎にシャッターを押せるカメラですか!

有吉:はい。放電や電子の動きが数ナノで動くので、ナノセックの放電の電子の動きを掴むため開発されました。すごく高価で取り扱いが怖いです(笑)。

40人以上のマンモス研究室で、楽しくにぎやかに

2列目、左から3番目が林則行教授、同じく2番目が迫田達也准教授、そして1番目が田島特任助教。

研究室の雰囲気はどんな感じですか。

有吉:一番の特徴は、40人以上もいる大所帯の研究室ということですね。いつもにぎやかで楽しいです。別名は、体力研究室です(笑)。

体力研究室?

:テニスやサッカーなどをやっている人が多いです。また、年に2回ほど研究室内だけでソフトボールの大会を開いています。研究室内だけで、3チーム分作れますから(笑)。

すごいですね!他には何かありますか。

:キャンプは毎年9月ぐらいにやっています。イベント係という専門の役職もあるぐらいです(笑)。

中村:研究が終わった後にご飯も結構、一緒に行きますね。

学外の活動について教えていただけますか。

年に2回開催される研究班対抗ソフトボール大会の様子

:電気学会は、ほぼ毎回のように誰か行っています。メキシコやヨーロッパなどの国際学会へ行く人もいますね。

有吉:私は、去年の広島の全国大会の学会へ行きました。「オゾン」というカテゴリーゾーンに入って、多くの人たちに来ていただきました。水処理関係の企業の方たちから厳しい質問をいただいて大変でしたが、いい経験をしたと思います。

1日のスケジュールや、サークル、アルバイト活動などを教えてください。

研究や実験の進捗状況は、毎週やっているミーティングで報告・検討をしています。

中村:朝の9時から10時ぐらいに実験を始めて、夕方の5時ぐらいに終わる感じです。アルバイトも接客業を、大学2年のときから週4日でやっていますよ。

有吉:私もほとんど同じです。アルバイトは、週3でやっていたこともありましたよ。

上栗:私は、二人とは逆で夜型です(笑)。朝10時から11時までに学校に行って、夜6時、7時ぐらいに帰宅という感じです。ただバイトも週2~3回ぐらいやって、両立は問題なくできています。基本的に自由ですから、自分のペースで研究に打ち込める環境だと思いますよ。

学生時代の研究を活かして、社会で活躍したい

電気工学を学んで良かったと思うことを教えてください。

上栗:震災でエネルギー問題や計画停電などがクローズアップされましたが、電気工学を学んだことで、そうしたことが理解できるのは良かったです。

有吉:私は、一つ目は電気系のニュースが分かること。二つ目は、日常での軽い電気トラブルなら直せること。三つ目が就職できたことです。

:彼らと同じで、身近な電気製品の仕組みや電気現象が理解できるのはとても大きいと思います。就職も、電気工学を学んだというだけで重宝がられる面があります。また電気は、研究開発だけでなく保守管理でも活躍できるので幅が広いと思います。

中村:研究を通して、物事を多角的に見られることができたのは大きいです。放電という目に見えないものを扱っていますが、色々な視点からものを考えると、原因が究明できますね。

今、就職の話がでましたが、2013年卒の就職状況はいかがでしたか。

:不況と言われていますが、企業から求められる推薦人数はほとんど変わっていないので、電気系における就職(求人)は基本、高値安定だと思います。

最後に皆さんの将来の夢や目標をお教えください。

上栗:私はこのまま大学院に進学する予定で、将来的にはキャパシタに関われる仕事に就きたいと思っています。そしてどんなカタチでもいいので、化石燃料に代わるエネルギーの普及に貢献できたらいいなと思います。

有吉:私は、大手電機メーカーのグループ会社に就職が決まっています。インフラ設備のプラント関係の仕事に携わる予定です。社会の中でどう貢献しているのかをしっかりと感じながら仕事を行いたいと思います。

中村:電力会社に就職が決まっています。震災以降、慌ただしい業界になっていることは間違いないですが、安全かつ安定した電気をお届けしていきたいです。

:私の場合、博士課程に入学したばかりなので漠然としています。一応、卒業後、考えているのは就職ですね。また、電気のない国でバイオマスを利用した発電プロジェクトがあれば参加したいとも考えています。最終的には、学校の先生になって教育の現場へ戻りたいです。

皆さん、大変興味深い研究ばかりで、電気工学の幅広い可能性を実感できました。本日は長い時間ありがとうございました。

迫田 達也

国公立/宮崎県
宮崎大学 工学部 電気電子工学科 電力研究室

迫田 達也准教授(さこだ たつや)
当研究室は、電力工学、高電圧工学、プラズマ工学、新エネルギーの分野まで広く活動しており、多くの卒業生を主に電力の分野を中心に送り出してきました。2012年度は、スタッフ3名、博士課程1名、修士課程19名、学部卒業研究生10名が日々それぞれの研究テーマに沿った研究を行っています。

※インタビューへのご質問、お問い合せにつきましては、「こちら」にお願いします。

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