再生可能エネルギーの大量導入のために、容量に空きが多い送電線を活用する/東北大学 織原 大 助教

2019年5月掲載

※上記肩書きは、インタビュー時のものです

再生可能エネルギーが電力系統に大量導入された場合、出力変動にどう対応するのか。非常に大きな問題です。東北大学の織原大助教は、容量に空きが多い送電線を使って安定運用に取り組むというユニークな提案をされました。

顕在化している問題ではなく、将来起こるであろう問題に取り組む

Q.「パワーアカデミー研究助成」に応募したきっかけをお教え下さい。

東北大学 織原 大 助教

今回採択していただいた研究テーマで扱っている問題は、再生可能エネルギー電源に関わるものではありますが、すでに顕在化しているようなものではなく、かつ、将来起きる問題として広く認知されているものでもありませんでした。そのような先人の少ない領域に足を踏み入れるにあたって、現場をよく知る産業界の方々からはこの問題がどう見えるのか、解決すべき問題として認識してもらえるのだろうか、と考えたのがそもそものきっかけです。また、採択時には、定期的に産業界からのフィードバックが得られるということで、このテーマをより現実的なものに昇華していくことができるのではないかと感じたことも、応募に至ったきっかけでした。

再生可能エネルギーの出力変動を、空きが多い送電線で安定運用

Q.研究内容をお教え下さい。

研究背景(自然変動電による潮流変動増大)

現在導入が進められている太陽光発電や風力発電は、出力が気象に依存して不確実に変動します。このような不確実変動が、系統の様々な地点から送電線ネットワークに注入されることで、送電線を流れる電力(潮流)の変動も不確実なものとなります。送電線には流せる電力の限界がありますので、潮流の変動増大は、送電線の安定運用に悪影響を与える可能性があります。これは再生可能エネルギー電源の導入が減速してしまう原因になり、持続可能なエネルギー社会の構築の障壁になってしまいます。私は、火力電源や水力電源などの出力調整によって、再エネ電源由来の電力変動を容量に空きが多い送電線に誘導することで、送電線の安定運用を実現しようと考えており、その最適な方法を研究しています。これによって、追加の設備投資もなくコスト面でも非常に有利です。

再エネ電源の出力変動が起きたら、容量に空きが多い送電線へ

Q.現在までの研究成果と今後の展開についてお教え下さい。

東北大学 織原 大 助教

どの電源の出力変化がどの送電線の潮流にどの程度影響を与えるかは、送電線ネットワークの情報があれば推定することができます。私はそれを利用して、容量に空きが少ない、つまり潮流量が限界に近い送電線に電力変動が伝わりにくくなるような電源の出力制御手法を考案しました。この手法の利用によって、再エネ電源の出力変動は容量に空きが多い送電線に伝わるようになるため、当初の狙い通り、安定的な送電線運用に寄与することができます。今後は、どの程度の再エネ導入に対してこの問題が深刻化してくるのか、また、そのときのこの手法がどれだけの効果をもたらすか、など、本手法の必要性と有用性について明らかにしていく予定です。

学生と共に研究に取り組むことで、電気工学の面白さを伝える

Q.最後にひとことお願いします。

私は研究室学生に限らず、電気工学分野に入ってきた学生には卒業後も同分野で活躍して欲しいと考えています。もちろん学生の将来は学生が自由に選び、その道にいけるようサポートするのが本職の役目ですが、日々共に研究をする中で、この分野が面白いと思ってもらえるようにコミュニケーションをとるよう心がけています。パワーアカデミーでは、GPANやMeet the Dr. Eng.、博士学生向けの助成など、学生向けの取り組みを多数、精力的に行われており、今後も是非続けていただきたいと思っています。
電気は現代の人の暮らしには欠かせないものとなっています。そのような状況の中、電気を人々が安全に、便利に、気軽に使えるようにするための学問である電気工学の役割も時と共に重要さを増していると思います。当然、活用先も非常に広範囲ですが、自身が関われるのはその一部です。どうやって進む先を選ぶかはとても難しいですが、やはり重要なのは各分野にいる先輩方の話を聞くことだと思います。ぜひ先輩と話す機会に積極的に出向き、良い将来選択につなげて下さい。


電気工学の未来