パルスパワーで、環境に良い電気機器へ 新たなSF6ガスの代替装置の開発。/阿南工業高等専門学校 西尾 峰之助教

2016年5月掲載

エネルギーを一時的に蓄えて、それを瞬間的に放出することで通常の電力では実現が難しい現象を発生させる技術をパルスパワー技術といいます。阿南工業高等専門学校の西尾助教は、この技術を用いて、環境負荷の少ない電気機器を広く社会に応用していきたいという思いで研究を開始しました。具体的なターゲットは、主に電力用遮断器に用いられているSF6ガス。遮断性能が良い反面、地球環境温暖化に影響をもたらすことが懸念されています。

※肩書きは採択時のものです。

WEBサイトに掲載されている“研究マップ”を見て、応募

Q.「パワーアカデミー研究助成」に応募したきっかけをお教え下さい。

阿南工業高等専門学校 西尾 峰之 助教

電力業界に特化した研究助成があるということで、パワーアカデミー会員の先生に本研究助成を教えていただきました。WEBサイトで公開されているパワーアカデミー研究マップを拝見したところ、具体的に様々な問題意識が提起されており、その中に低環境負荷を目指した電力インフラ実現のための方向性が示されていました。まさに私にとってタイムリーな研究の方向性であり、ぜひ本研究助成に応募することで自らの目的を達成したいと思い、萌芽研究助成に応募させていただきました。

SF6ガスの代替となる“消弧原理”を確立するために

Q研究内容をお教え下さい。

阿南工業高等専門学校 西尾 峰之 助教

パルスパワーを用いて静電エネルギーを瞬時に放出するとパルス的な大強度磁界を発生できます。送電系統網におけるガス遮断器では、SF6ガスの特異的な性能により開路時のアークを膨張・冷却・再結合(以下、消弧(しょうこ))させています。SF6は温室効果係数の高い気体であって使用の抑制が求められています。そこで、SF6ガスを代替する消弧原理を確立することを目的として、パルス大強度磁界によってアークを運動させて消弧させるという研究を行いました。現在でも真空遮断器に磁界を応用する製品が開発されていますが、放電電流を用いるのではなくアークに作用しうる外部磁界を用いるという点が異なる点です。

アークプラズマにパルス大強度磁界を印加する実験装置を新開発

Q. 現在までの研究成果と今後の展開についてお教えください。

模擬的に作製したアークプラズマに、パルス大強度磁界を印加する実験装置を開発しました。LC放電回路にクロウバー回路を組み合わせることにより、磁束密度の増加と保持時間の両立を実現しています(磁束密度0.1〜0.8[T]、パルス幅1〜5[ms]程度)。パルスの発生タイミングを制御する半導体素子にはサイリスタを用いていますが、現状ではアークプラズマに対応した電圧電流条件では単独使用が難しいため、並列化による分担電流低減が必要です。

本研究の中で回路電流を一定程度に制限しつつ、磁束密度を持続的に増加できる手法を明らかにできました。本原理を用いた消弧の実現に向けた今後の展開としては、真空遮断器様の実験条件でのアーク遮断実験、ダイアック素子を用いた磁界発生タイミングの制御、サイリスタの直並列化によるスイッチングのソリッドステート化、等を考えております。

現状の磁束密度領域では鉄心を用いると磁気飽和によって最大磁束密度が制限されてしまうため、磁界発生部分には空芯コイルを用いています。

各充電電圧における放電電流を示す図です。

研究助成は、若手研究者の研究環境と議論できる場所を得られる

Q. 最後にひとことお願いします。

電力業界の技術開発支援という大きな目標を掲げている本研究助成は、方向性がはっきり示されてあり、このことを軸にさらなる活発な議論を産むという好循環な研究環境だと考えます。研究実績のない若手研究者にとっての環境構築と同時に、研究の方向性を議論できる良い場所を得ることができて大変ありがたいです。

電気工学については、縁の下の力持ちとして働く電気にいかに興味を持ってもらうかというところに注力しないと、優秀な若手技術者を確保できないのではないかと考えます。それには草の根的な運動が必要で、例えば阿南高専では来年から高電圧を使った「電気の力でロケットを飛ばす実験」を一年生向けに実施することを予定しています。また、優秀な若手技術者の確保のために、改善・改良といったニーズに沿うテーマだけでなく、今後社会にとって必要と思われる新しい展望を持っている本研究助成はますます重要になっていくと思われます。

 阿南工業高等専門学校 西尾 峰之助教

2016年3月16日に開催された研究助成・成果報告会の様子。


電気工学の未来