雪氷が付着した“がいし”の絶縁性能が低下するメカニズムを解明する。 /宮崎大学 武居 周准教授

2014年5月掲載

電力機器への雪害は毎年、大きな問題になっています。宮崎大学の武居准教授は、北海道の苫小牧工業高等専門学校に勤務されていた時代に、共同研究者である赤塚元軌助教に誘われて、つららが形成された場合のがいしの絶縁性評価手法に取り組みました。2014年8月から宮崎大学へ移られてからも週1回、苫小牧工業高等専門学校へ赴き、研究を続けられ、今回のご提案に至りました。

※所属および肩書きはインタビュー時(2015年3月)のものです。

応募のきっかけは、萌芽研究採択者からの勧め

Q.「パワーアカデミー研究助成」に応募したきっかけをお教え下さい。

宮崎大学 武居 周准教授

今回の課題における研究協力者である赤塚元軌先生(苫小牧工業高等専門学校 電気電子工学科 助教)が、過去にパワーアカデミー研究助成の萌芽研究に採択された経験があり、応募を勧めて下さったことがきっかけです。

私の専門は数値電磁界解析を中心とした計算科学です。電磁界解析の実用的な問題への応用を模索してゆく中で、がいしがその使用環境によって深刻な性能低下を招くことがあり、その仕組みを解明することが求められていることと、仕組みの解明に電磁界解析を適用することが有効であることがわかりました。そこで赤塚先生と共同で研究を進めてゆく過程で、このパワーアカデミー研究助成を知り、助成公募の詳細を見てみましたところ、我々の研究にぴったりであると思いまして応募に至りました。

つららが付着した“がいし”を徹底解析して、絶縁性能を探る

Q.研究内容をお教え下さい。

宮崎大学 武居 周准教授

北海道沿岸部において、送電線は塩水付着により障害が発生しやすいことが知られています。特に冬季は、がいしへの海塩を含んだ湿雪の付着やその融雪水によるつららの形成により絶縁性能が低下し、送電に支障を来す恐れがあります。そこで、本研究において、数値解析手法をベースとする雪氷付着がいしの、絶縁性能の高精度評価手法を提案しました。

つららが付着した送電線用懸垂がいし連を丸ごとデジタルモデリングし,並列化された静電界解析コードによってPCクラスタを用いて大規模計算を行い、得られた電界強度および電流密度データによって、放電路を予測します。モデリングのために、実物のがいし連に対して低温還流試験装置を用いて停電事故発生時のアメダスデータに基づきつららを付着し、また、解析条件となる絶縁耐電圧得るため、これを用いて絶縁破壊試験を行いました。

絶縁性能低下が起こりにくい、がいし開発がパソコン上で可能に

Q. 現在までの研究成果と今後の展開についてお教えください。

本研究において、静電界解析手法によって得られる電界強度分布および電流密度分布に基づき、放電路の推定が可能であり、これによりがいしに雪氷が付着することによってその絶縁性能が低下するメカニズムが、一定程度明らかになりました。この成果によって、絶縁性能低下が起こりにくい、がいしの開発がコンピューター上で可能となり、実験的手法による試行錯誤の手間が省かれ、効率よくがいしを開発することが可能となる見通しを得ました。今後は、がいしメーカーや電力会社との共同研究によって手法を実証してゆくとともに、3Dスキャナを使った数値モデルの高精度化やFDTD法(※1)等を用いる放電シミュレーションの検討を進めることなどにより、数値シミュレーション手法のさらなる高度化を行い、手法の確度を高めて行くことを考えております。

(※1)FDTD(Finite Difference Time Domain method)法とは、電磁界解析の一つ。

数値解析対象および数値解析結果

成果報告会の開催は、他の助成にはない有意義な機会だと思う

Q. 最後にひとことお願いします。

パワーアカデミーは、電力工学やパワーエレクトロニクスなどの電気工学分野の萌芽的な研究を後押しする、この分野の研究者にとっては大変ありがたい助成の一つと認識いたしました。それもただ単に助成をし、報告書を作成して研究課題が終了するのではなく、成果報告会や意見交換会の開催を行って今後の指針が得られるという仕組みはなかなか無いと思います。こうした仕組みを今後も維持していただき、電気工学の分野で研究に取り組む、特に若手研究者の育成に力が注がれることを願っております。私自身も今回、成果報告会で発表いたしましたが、元々は専門分野が電力関係でないため緊張いたしました。しかし、電力会社やメーカー関係者など専門家の方から直接質問を受け、非常に貴重な経験をさせていただいたと思っています。

また、今回の我々の研究課題のように、先行研究例が乏しく研究が成功するか失敗するか申請の時点では判別しにくいテーマの採択も、本助成の特色であると存じます。こちらも維持されることを期待しております。

宮崎大学 武居 周准教授

2015年3月24日に開催された研究助成・成果報告会の様子。

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