バイオガスを利用した、次世代エネルギーの“水素エネルギー”生成の技術開発。/室蘭工業大学 佐藤 孝紀 教授

2013年7月掲載

再生可能エネルギーのひとつとして、バイオガスが注目されています。バイオガスは、バイオマスの一種で、有機性廃棄物(生ゴミ等)や家畜の糞尿などを発酵させて得られる可燃性ガスです。室蘭工業大学の佐藤 孝紀教授は、北海道の豊富なバイオガスを利用して、次世代エネルギーとして期待されている“水素エネルギー”の生成技術の開発に取り組みました。

バイオガスから水素を生成して、高品質な電力エネルギーをつくる

Q.「パワーアカデミー研究助成」に応募したきっかけをお教え下さい。

室蘭工業大学 佐藤 孝紀 教授

電力需要の増加に伴い、環境負荷が低い発電方式が模索されています。私たちは環境負荷の小さなエネルギー源として水素に注目し、新しい水素生成方法の開発を目指しています。

また、私達の大学がある北海道には、再生可能エネルギーであるバイオマスが豊富なので、その一つであるバイオガスから水素を生成する新しい手法を開発するためのファーストステップとしてこの研究助成に応募しました。

北海道には太陽光発電や風力発電を行う十分なスペースがあります。しかし、このような方式には発生電力の不安定性が常に伴います。そこで、太陽光や風力で発生した電力を使って、バイオガスから水素を生成することにより、高品質なエネルギー源として蓄積・利用することを計画しました。

CO2を排出せずに、バイオガスを分解して水素を生成する

Q.研究内容をお教え下さい。

低炭素社会へのシフトに不可欠なエネルギー源である水素の新しい供給方法の開発を行っています。家畜排せつ物等のメタン発酵で生成されるバイオガス(メタン60%+二酸化炭素40%+硫化水素5000ppm程度)を気体放電プラズマ中で処理することで、(1)メタンガスから水素の生成と(2)硫化水素の分解(脱硫)を同時に実施します。気体放電プラズマ中に存在する電子、イオン、励起分子・原子などの高エネルギー種やラジカル、オゾンなどの活性な種によって反応を進めるものです。

現在、バイオガスは燃料として使われていますが、燃焼すると地球温暖化ガスの二酸化炭素が発生します。この研究では太陽光発電などの二酸化炭素が発生しない方法で発電された電力を用いて、バイオガスを燃焼させずに、分解して水素を生成させます。これにより、エネルギー源の側面から低炭素社会実現に貢献することを目指しています。

CO2を排出せずに、バイオガスを分解して水素を生成する

バイオガス分解における、基本特性や安全性を解明

Q. 現在までの研究成果と今後の展開についてお教えください。

室蘭工業大学 佐藤 孝紀 教授

大気圧バリア放電を用いた処理装置を試作してバイオガスの分解を行い、メタンガス分解率、水素生成率、1kWhあたりの水素生成率などの基本的な特性を明らかにしました。また、放電中で生成される様々な物質の分析も行い、バイオガスの分解の安全性も確認しました。今後は処理装置の大型化、効率向上を目的に研究を継続していきたいと考えています。

もっと多角的なアプローチで、研究助成を盛り上げたい

Q. 今後、パワーアカデミーに期待することをお教えください。

我が国のエネルギー供給、特に電力供給はきわめて安定しています。これは多くの技術者による昼夜を問わない貢献によって為されているものですが、一般の方々はもとより、工学部で学ぶ学生であっても、このことを忘れがちです。パワーアカデミーには、WEBサイト等の様々な媒体を使って電気エネルギーの重要性を広報するリーダとしてのお立場を継続していただきたいと思います。また、研究助成等を通して、若手研究者の育成、萌芽的研究への支援にも協力していただくことを期待しております。

それから、パワーアカデミーの研究助成は、電気学会のB部門(電力・エネルギー部門)寄りのアプローチが多く見受けられると思います。しかし、今後は今回の私の研究のようにA部門(基礎・材料・共通部門)など、もっと多方面からのアプローチが増えていくことを願っております。各研究者が、今持っているテクノロジーをどこに応用できるのか。最終的には、B部門の方々と共同研究といったところに到達できれば、さらなる電気工学の発展につながるのではないでしょうか。キーワードは“自然エネルギー”だと思います。

室蘭工業大学 佐藤 孝紀 教授

電気工学の未来