パワー半導体モジュールの小型・薄型化を実現する、新たな絶縁材料の研究。/早稲田大学 大木 義路 教授

2013年7月掲載

代表者 早稲田大学 大木 義路 教授
共同研究者 東京都市大学 田中 康寛 教授、沼津工業高等専門学校 遠山 和之 教授
九州工業大学 小迫 雅裕 助教、豊橋技術科学大学 穂積 直裕 教授

※肩書きは採択時のものです。

東日本大震災の影響で起こった電力需給の逼迫により、改めて省エネルギー化の重要性がクローズアップされています。電気機器における省エネルギー化において、もっとも効果的なのは、機器の小型・薄型化。早稲田大学・大木 義路教授を代表とする研究チームは、電気機器の中でも、電力を制御する重要な役割を持つ“パワー半導体モジュール”の小型・薄型化を目的として、そこに使用される絶縁材料のナノコンポジット(※1)化に着目しました。

※1 ナノコンポジット:ナノメートル(10億分の1メートル)規模の物質を別の素材に混合させることにより、つくりあげる複合材料の総称。

研究助成は、他機関との共同研究を考えるきっかけになる

Q.「パワーアカデミー研究助成」に応募したきっかけをお教え下さい。

主に以下3つの理由で応募いたしました。

  1. 材料実験系の研究に研究費が必要であること。
  2. 他機関との共同研究を考えるひとつの好機となること。
  3. パワーアカデミーのような公益性に富む団体が、全国的に募集した研究の中から1~2件のみが選ばれて助成される、という競争率の高さへの挑戦すること。

そして、早大と東京都市大、沼津高専、九州工大、豊橋技科大の各研究室が、その強みを活かして相互に連携(図1)することでの目的達成と、最終的には産業界とも連携して、実用化を目指すことを考えました。

図1 各グループの連携
図1 各グループの連携

ナノ・マイクロコンポジットを使用した新たな絶縁材料

Q.研究内容をお教え下さい。

電気機器の小型化と薄型化は、省エネルギーにとって最も効果的であることはよく知られています。特に、パワー半導体モジュールの小型・薄型化は、これを使用する多くの電気機器の小型化に直結するため、省エネルギーへの寄与が非常に大きいのです。

こうした事実を背景に、本研究は、小型・薄型化されたパワー半導体モジュールに適した絶縁材料の開発を目的としています。パワー半導体モジュールは小型・薄型化した場合、高密度配線を行いますが、それに伴って、必然的に高電界化と単位体積あたりの発生熱の増加を引き起すという課題があります。そのため、熱の逃がし易さを表す高熱伝導率と膨脹しにくさを表す低熱膨張率、良好な耐絶縁劣化特性を持ったエポキシ樹脂(※2)が絶縁材料として必要となってきます。そこで本研究では、このエポキシ樹脂にナノフィラーとマイクロフィラー(※3)を共添加させたナノ・マイクロコンポジット(以下NMC)を用いることで、パワー半導体モジュールの小型・薄型化の課題を解決できる絶縁材料の実現を目指していきます。

※2 エポキシ樹脂:熱硬化性樹脂(プラスチック)の一種。分子の末端に“エポキシ基”をもつ樹脂状の化合物の総称。
※3 ナノフィラーとマイクロフィラー:フィラーとは樹脂の機能を高めるために充填する微粒子のこと。ナノおよびマイクロといった違いにより、フィラー(ナノ粒子)間の凝集力にも違いが出てくる。

早稲田大学 大木 義路 教授

フィラーの配向により、高い熱伝導率を実現

Q. 現在までの研究成果と今後の展開についてお教えください。

早稲田大学 大木 義路 教授

現在まで以下のような成果を挙げることができました。
  • ナノフィラーを添加したナノコンポジットおよびナノフィラーとマイクロフィラーを添加したエポキシ樹脂ナノ・マイクロコンポジットにおいて、耐エレクトロケミカルマイグレーション性(※4)が向上することを見出した。
  • マイクロフィラーのみの添加で生じる絶縁特性の悪化をナノフィラーが食い止めることを、複素誘電率、空間電荷挙動、交流挙動等種々の面において確認。
  • 交流電界印加によるフィラーの配向により、10W/m・Kという高い熱伝導率を実現(図2)。
  • 開発中の超音波顕微鏡により、エポキシ樹脂の硬化過程やフィラー配向の観察に成功。
今後の展開として、
  • これまで使用したアルミナや窒化ホウ素フィラーに加えて酸化マグネシウムや酸化亜鉛、窒化アルミニウム等、他の高熱伝導率フィラーの使用を検討する。
  • 今後、どのようなフィラーが効果的か評価するために、様々なフィラーを添加した材料について計測を行う予定である。
  • エポキシ樹脂が厚さ依存性を示すことについて、部分放電発生の可能性が指摘されているため、部分放電検出用のアンテナを作成する。
  • ナノコンポジットおよびナノ・マイクロコンポジットの試作について、各研究室と積極的に協力しながら進める。
  • 硬化過程とフィラーの凝縮状態との関係をさらに把握できるよう、定量的に実験を行っていく。
※4 エレクトロケミカルマイグレーション:絶縁材の不良の一種。

熱伝導率測定結果
図2 熱伝導率測定効果

研究助成の採択により、新たな産学連携を企画中です

Q. 今後、パワーアカデミーに期待することをお教えください。

(1)ご採択、そしてご助成、誠にありがとうございます。今後も引き続き先生方への助成を継続されることを望みます。また年齢に関係なく応募できる、パワーアカデミー研究助成のシステムは非常に良いことだと思うので、これからも続けてくださるようお願い申し上げます。

(2)これまでも、NEDOや民間との共同研究などの産学連携研究を活発に行っています。本パワーアカデミーの研究助成の成果によって、新たな産学連携を行うことを企画中です。その折、もし必要となったときには、ご協力、ご助言などを頂ければ有り難く存じます。

早稲田大学 大木 義路 教授

研究成果(2014年3月追記)

ナノコンポジット化による耐エレクトロケミカルマイグレーション性の向上

図1 走査型電子顕微鏡による試料断面の元素分析結果

図1 走査型電子顕微鏡による試料断面の元素分析結果

図1では、エポキシ樹脂と、シリカナノフィラーを添加したエポキシ樹脂コンポジットについて、温度85 ℃、湿度85 %RHの環境下で電界10 kV/mmを約100時間印加した時点での、走査型電子顕微鏡による試料断面像を比較している。ナノコンポジットではエレクトロケミカルマイグレーションは発生していない。これは、ナノコンポジットの長所を示す重要な結果と位置づけられる。この成果は、以下に示すように特許出願されている(特願2011-048956)。

フィラー低充填率での高熱伝導化の検討

図2 フィラー電界配向によるフィラー配向・収集と熱伝導率結果

図2 フィラー電界配向によるフィラー配向・収集と熱伝導率結果

エポキシ樹脂(熱伝導率:0.21 W/m・K)中に10µmサイズの板状アルミナフィラーを均一分散させた場合(図2(a))、硬化反応中に交流平等電界を与えて印加電界方向にフィラーを配向・橋絡させた場合(図2(b))、さらに、直流不平等電界を与えて高電界部に配向・収集させた場合(図2(c))のそれぞれにおいて、熱伝導率は0.34 W/m・K、0.73 W/m・K、9.87 W/m・Kと評価される。つまり、硬化反応中に電界を与えてフィラー配向制御することで、少ないフィラーでも高熱伝導化が可能である。

超音波顕微鏡によるエポキシ樹脂硬化むらの観察

図3 エポキシ樹脂硬化むらの超音波顕微鏡観察像

図3 エポキシ樹脂硬化むらの超音波顕微鏡観察像

電気絶縁材料の多く構造材料でもあり、その機械物性を評価することは重要である。ナノコンポジットのように内部に微細な構造をもつ材料では、分散状況により機械物性の分布状態が変化すると予想され、局所的な物性評価が必要となる。我々が提案する定量超音波顕微鏡を使用して、エポキシ樹脂の硬化過程を収束縦波および横波で定量観察した。その結果を図3に示す。表面硬化状態の違いが明瞭に確認でき、体積弾性率およびずり弾性を評価できる。さらに、本測定法は、図2のように、電界を印加した状態で硬化させた充填剤配合エポキシ樹脂において、充填剤の配列状態を把握することも可能である。


電気工学の未来